一時帰休とは? 実施手順やメリット・デメリットについて紹介
業績不振や経営難に陥ってしまったら、これまで働いてくれていた従業員はどのように扱えばいいのでしょうか。扱いとしては労働基準法で定められていますが、現在、その条件も厳しいものとなっています。
考えられる手立ては以下の三つです。
- 一時帰休
- 一時解雇
- リストラ
今回はそのなかでも、一時帰休(いちじききゅう)について解説していきます。
また、一時解雇やリストラとの違いも説明しますので、ぜひ参考にしてみてください。
一時帰休とは?
そもそも、一時帰休とはどのようなことを言うのでしょうか。
その意味や実施した際の対象者の条件や給与、似たような制度はほかにあるのかなどを説明します。
一時帰休の意味
一時帰休(いちじききゅう)とは、業績不振や経営難に陥ってしまった企業が、従業員を会社に在籍させたまま一時的に休業させる措置のことを言います。
雇用契約は維持しつつ、人件費を削減することで、将来の回復時に備えます。自宅待機や一時休業と同じ意味です。
一時帰休の給与条件
一時帰休はあくまで一時的な「休業」であるため、休業の理由が解消されたら雇用契約どおり働くことを前提としています。
労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当するため、休業期間中は平均賃金の60%以上の休業手当が支払われます。
一時帰休と似た二つの制度との違い
一時帰休と似た制度に、一時解雇(レイオフ)とリストラがあります。
二つの制度と一時帰休との違いを見ていきます。
一時解雇(レイオフ)
一時解雇(レイオフ)とは、業績不振や経営難に陥ってしまった企業が、業績悪化や経営難などを理由に、従業員を一時的に「解雇」することを言います。
将来的に再雇用する前提ではあっても解雇であり、企業との雇用関係はなくなり、収入もなくなります。
レイオフは「整理解雇」に当たり、労働者保護の観点から、一般の解雇と比べてより厳しい要件が課されています。以下が要件となります。
- 人員削減の必要性:経営上の理由により人員整理が必要とされるか
- 解雇回避の努力:人員整理を避けるための努力を十分に行ったか
- 人選の合理性:対象者の選定基準が合理的か
- 解雇手続きの妥当性:解雇に関するあらゆる説明を十分に実施したか
リストラ
リストラとは、英語の「リストラクチャリング」という単語を略したもので、本来は「事業再構築」を意味します。
事業再構築としては、成長分野への転換、業務効率化、固定費の削減など、さまざまな手段がありますが、解雇により人件費を減らすことが多いことから、日本では「整理解雇」という意味合いで使われることが多いです。
一時的な休業である「一時帰休」では、雇用契約が維持され休業手当が支払われますが、リストラは「解雇」であり、雇用契約は解除されます。
企業が一時帰休を実施する流れ
企業が一時帰休を実施する際の適切な手順として、以下が挙げられます。
ステップごとに細かく見ていきましょう。
ステップ1.条件を明確にする
あくまで一時的な休業です。働く能力と意欲のある従業員を在籍させたまま休業させるわけですから、休業手当を支払えばいいということはありません。
休業実施による効果と見通しを立て、休業の条件を明確にすることが重要です。
- 予定される休業期間
- 休業実施により見込める業績回復予測
- 休業措置終了の判断基準
これらを明確にし、具体的な説明を行っていきましょう。
従業員が正当性を理解できないと不安や不信感を与えることになります。
ステップ2.対象者・期間を決定する
対象者は、部署単位でも個人単位でも法律上問題ありませんが、いずれにせよ一時帰休を行う正当性に基づいた合理的な理由が必要です。
休業中の業務遂行に支障が出ないよう、十分なシミュレーションを行って決定します。
期間は、回復までの見通しに基づいたうえで、従業員の所得・意欲維持の観点から最短期間に設定することが重要です。
また、助成金を活用して会社の負担を減らすことも可能ですので、受給条件や支給限度日数は必ず確認して検討しましょう。
ステップ3.期間中の条件を設定する
あくまで一時的な休業措置です。
休業する従業員が不安にならないよう、休業手当額、副業の可否などを設定しましょう。
ステップ4.実施に向けた協議・説明を行う
労働者に説明したうえで、労使協定を締結する必要があります。
従業員に不安を抱かせないよう、会社側で検討した条件、対象者、期間などをしっかりと説明し、誠意を持って協議しましょう。
一時帰休を実施するメリット・デメリット
一時帰休をするにあたって、少なからずメリットやデメリットは生じてしまいます。
どのようなものが考えられるのか解説します。
一時帰休のメリット
メリットは以下の二つが挙げられます。詳しく見ていきましょう。
1.人材流失の危険が小さい
雇用契約を継続したままの「一時的な休業」です。休業せざるを得ない事由が解消できた将来のために、必要な人員を確保しておくことが可能です。
将来的に再雇用することを前提としたものに一時解雇(レイオフ)がありますが、あくまで雇用契約は解除されるため、他社に人材が流出してしまうことは十分あり得ます。
回復後の機動力という点からも、人材の確保は必要です。
2.一体感の醸成
休業せざるを得ない事由によりますが、従業員側も会社の現状、回復への見通し、そのために経営陣として何をするのかを知りたいと考えています。
いきなり、一時解雇(レイオフ)やリストラをするのではなく、「一時帰休」を選択して雇用維持をしようとする姿勢は、従業員に当事者意識を持たせ、一体感の醸成につながります。
一時帰休のデメリット
一時帰休をするにあたって、デメリットも生じてしまいます。いくつかご紹介します。
1.休業手当を支払わなければならない
労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当します。
よって、休業期間中は平均賃金の60%以上の休業手当を支払う必要があります。
休業期間や対象者によりますが、人件費の大幅削減には至らないケースが多く、業績回復までの期間の事業収支と併せて考える必要があります。
2.従業員が不安になる
自分の会社が業績不振や経営難に陥っていること自体が不安材料になります。
従って、休業に関する明確な見通しと説明がなければ、たとえ望む仕事であっても、退職に至るリスクがあることは想定しておきましょう。
また休業期間の延長、対象者の変更など、休業計画に修正が生じる場合もきちんと説明しましょう。
休業明け(通常勤務)を待つ従業員の気持ちに寄り添うことが重要です。
一時帰休に対する企業への支援制度「雇用調整助成金」
一時帰休も対象となる「雇用調整助成金」について、助成金の内容や要件について解説します。
雇用調整助成金とは、景気の変動、産業構造の変化、そのほかの経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた場合に、休業や教育訓練、出向のように「雇用調整」を実施し、雇用維持に努める事業主に対して、国が休業手当などの一部を助成するものです。
また、事業主が労働者を出向という形で雇用を維持した場合も、雇用調整助成金の支給対象となります。
雇用調整助成金はもともと雇用調整給付金として昭和50年(1975年)に創設され、昭和56年(1981年)に雇用調整助成金となった以前からある制度ですが、今回のコロナ禍では支給要件などが大幅に緩和されました。
以下は、令和4年12月1日から令和5年3月31日までの経過措置期間における制度の概要です。(令和4年12月時点)
●支給対象となる事業主
新型コロナウイルス感染症に伴う特例措置では、以下の条件を満たす、すべての業種の事業主を対象としています。
1.新型コロナウイルス感染症の影響により、経営環境の悪化と事業活動の縮小がある
2.最近1カ月間の売上高または生産量などが、前年同月比10%以上減少している(※)
※比較対象とする月においても、柔軟な取り扱いとする特例措置が設けてあります
※判定基礎期間の初日が、令和4年9月までの休業については5%以上の減少
3.労使間の協定に基づき、休業などを実施したうえで、休業手当を支払っている
●助成対象となる労働者
事業主に雇用された雇用保険被保険者が対象となります。
※学生アルバイトなど、雇用保険被保険者以外の方に対する休業手当は、「緊急雇用安定助成金」の助成対象となります(雇用調整助成金と同様に申請可)。
●助成額と助成率、支給限度日数
原則的な措置のほか、業績や地域によって異なります。また、企業規模(大企業か中小企業か)や解雇しているかどうかでも変わってきます。
厚生労働省のHPでは、条件検索により使用する書類を選択し、ダウンロードできるようになっています。必ず、条件などを確認のうえ、手続きを行ってください。
一時帰休の実施において、取り扱いに注意が必要なもの
一時帰休の実施において、以下の取り扱いについては注意が必要です。それぞれ詳細に説明します。
1.有給休暇
年次有給休暇は、労働義務がある日(労働日)に対し、従業員本人による時季指定により取得するものです。
一時帰休は、会社側が休業を決定した「労働義務がない日」に当たりますので、年次有給休暇を与える必要はありません。
ただし、一時帰休前に取得希望のあった場合は、従業員が予定どおり取得することができます。
休業手当よりも年次有給休暇のほうが額が高いので、年次有給休暇取得を促すケースもあるようですが、主旨が全く違うものであり、労使トラブルになりますので、注意しましょう。
2.社会保険料
休業手当は賃金として扱われるため、社会保険料は支払います。
社会保険料は等級によって決定され、固定的賃金が3カ月継続して2等級以上の増減があった場合に見直しになります。
休業手当により賃金総額が下がっても、社会保険料は下がらず従来どおりとなるため、手取額が大きく落ち込むことがあります。
事前に必ず、説明を行いましょう。
3.副業
休業による賃金低下を補うために、従業員からの希望を尊重し、副業を認める企業も多いです。副業の申請・許可についてはルール化して、従業員に周知します。
休業はあくまで一時的なものであり、回復すれば通常の勤務体系になることを踏まえ、副業を選定するように説明しましょう。
従業員の相談に乗る姿勢が重要です。
4.雇用形態で差別しない
労働基準法の第26条では、すべての従業員への休業手当の支払義務が定められています。
パート・アルバイトという雇用形態の違いや、助成金対象となる雇用保険被保険者かどうかで区分けすることは法律違反になります。
一時帰休についてのまとめ
ここまで一時帰休について解説してきました。まとめると以下のとおりです。
- 一時帰休とは、従業員を一時的に休業させることを指す
- 一時帰休を実施するメリットは、人材流出が少なくなること
- 一時帰休を実施するデメリットとして、休業手当を支払う必要がある
そのほか、実施するにあたって注意することもあります。
検討している経営者は、一時帰休をよく理解し、従業員に十分に説明をしたうえで実施を行ってください。
【書式のテンプレートをお探しなら】