シェアードサービス会社の事例:RPAとチャットボットでDXを実践
他社はどうしてる? 成功事例で学ぶDX(デジタル・トランスフォーメーション)
管理部門では在宅勤務はできないのか?
コロナ禍、緊急事態宣言中の管理部門のリモートワーク実施状況について尋ねたところ、「完全にリモートワークだった」は、たったの1.6%。「交代制で毎日最低でも1人は出社するようにした」「交代制で毎日ではないが週に数回出社した」が合わせて73.1%と、多くの企業の管理部門が交代制で出社していた。(2020年6月 月刊総務調べ)
さらに、緊急事態宣言中のリモートワーク期間に管理部門が出社した理由を尋ねたところ、「郵便物の対応」が79.7%で最多、次いで「契約書等の押印」が60.3%、「代表電話の対応」が49.8%の順となっていた。まだまだ、リアルの対応が残っている、それが管理部門の実態なのだ。
一方、世の中では、DX(デジタル・トランスフォーメーション)が進展している。日本政府も押印廃止に舵を切り、日本全体がデジタル化に進みつつある。先に記した管理部門においても、生産性の向上を目指しDXに取り組んでいる企業は存在する。その代表格、RPAとチャットボットの活用事例を紹介していこう。
まずは業務の棚卸から
あるグループ会社のシェアードサービス会社、人事、総務、経理、財務、情報システム等を提供している、従業員規模100名の企業。シェアードサービス会社ということもあり、その発足時から業務の効率化は重要なテーマであった。
働き方改革の流れもあり、経営トップから、業務の棚卸を行い、定型、非定型業務を洗い出し、それぞれについての見直し、効率化を図るように指示が下された。まさに、DXによる生産性向上の動きが開始された。
その実現のために、当初より、RPAやチャットボットの活用がイメージされていた。しかし、それらはあくまでもツール。まずは、業務の棚卸表の作成から手が付けられた。業務棚卸表のポイントは、業務を大分類、中分類、小分類に分けて、ざっくり書き出してもらうこと。
あまり事細かく、精緻に書き出そうとすると、時間もかかり、途中で挫折してしまう。やっていることをありのままに書き出すことがポイントだ。また、その書き出されたものの中から、全てについて検討するのではなく、業務量の多いものを選び、そのプロセスを分析した。
同時に、何をインプットして、何をアウトプットしているのか、「イン・アウト表」を作成。そこから、そのアウトプットは実は必要ではなかった、というものが見えてきたので、なくしていいものは随時廃止していった。ポイントは、アウトプットの価値、必要性。無価値であれば、無条件に廃止できるのだ。
総務や人事、管理部門に多い業務が、資料作成、帳票作成。ローデータを元に表にしたりグラフにしたり。その提出先に、そもそも論で聞いてみることが大事である。実は、使っていなかったり、そこまで精緻でなくてもよかったり、ローデータのままでも事足りる、そんなことは往々にしてある。今まで、何も考えずに提出してきたアウトプットの意味を問い直してみるのは非常に重要なことだ。
定型業務の中から、自動化可能なプロセスについては、RPAを導入。非定型業務の中から、業務ボリュームが大きいものをチャットボットで対応していった。RPAは、今ある業務をそのままRPA化するのではなく、業務フローを見直して、極力分岐を少なくすることが重要だ。
この会社では、RPAの勉強会を行い、業務に精通しているメンバーが自らの業務をRPA化している。業務に精通しているからこその発想で、従来のフローに捉われない方法で自動化を実現している。また、多くの業務に共通する単純作業をRPA化することで、共通部品として、他の業務にも積極的に活用している。
チャットボットに必要な一工夫
問い合わせチャットボットでは、まずは、どのような問い合わせに対して作成するかを判断するために、問い合わせの履歴を残す必要がある。この会社では、まずは問い合わせDBを作成していった。ある程度履歴が集まったところで、チャットボットの作成に取り掛かった。
情報システム部門から作成の仕方を教わりつつ、管理部門でチャットボットの質問回答表を作成。三か月でリリース。チャットボットで課題となるのが、類義語の対応。あるいは、同一のことを指すのだが、現場で使っている言葉と総務で使っている言葉が異なる場合の対応だ。
そうなると、回答に辿りつかないこととなる。そこで、「チャットボットで解決しなかったのは、どんなことでしたか?」とのアンケートに記入してもらい、それらを集め、月一回アップデートしている。また、工夫していることは、フリーワードで辿りつくようにすると、先のような課題があるので、この会社では、選択式を交えながら、答えに行きやすいようにしている。
チャットボットは、答えに行きつかないと、その次に使ってもらえない。この会社のように、類義語のアップデートや、フリーワード検索だけで対応するのではなく、選択しながら答えに辿りつくような工夫が大変重要となる。プレリリースの段階で、できるだけ多くの現場従業員に使ってもらい、管理部門と現場の違いを把握する努力が重要だ。
総務や人事、管理部門のDXのポイントは、まずは業務の棚卸。ただ、このファーストステップで躓いては元も子もない。このファーストステップはざっくり行い、要は、まずはどこから手を付ければ良いのかを見定めることができればいいだけである。その最初に手を付けるところをしっかり改善することで、他のメンバーに対しても、改善のイメージが見えてくる。
この、改善イメージ、こうすればこんなに楽になるのだ、効率化されるのだ、そのようなイメージの醸成が重要である。「やれそう、できそう、だからやってみよう。」そのような自らの意志を湧き立たせることが、DXには必要であり、その自らの意志がないと、創意工夫も生まれてこない。
RPA、チャットボットの事例を取り上げたが、あくまでもそれらはツール。そのツールありきで動くのではなく、どのツールを使おうが、自らそうしたくてそうする、その状況を醸し出したい。さらに言えば、DXとは、デジタル技術を使うことが目的ではない。
生産性を向上させることで、時間の余裕が生まれ、本来やるべきこと、新たなチャレンジをすることが最終目的なのである。付加価値を生み出すためのDX、そのように認識して、DXを実践していきたいものだ。