情報提供サービス企業の事例:コロナ禍。ITツールでコミュニケーションの量が増加
他社はどうしてる? 成功事例で学ぶDX(デジタル・トランスフォーメーション)
リモートワーク導入の巧拙
新型コロナウイルス感染症により、多くの企業でリモートワークが強制的に実施された。スムーズに実践できた企業と、もろもろの準備でてこずった企業。その差は、コロナ禍以前の対応の違いが大きい。そもそもリモートワーク制度があるところでないと、リモートに対する心構え、環境整備がほとんど整っていない。
また、リモートワーク制度があっても、一部の条件に適合する従業員が使うだけという企業より、BCPの観点から、毎年多くの従業員が訓練も兼ねてリモートワークを実践している企業の方が、スムーズにリモートワークに入れたようだ。
また、リモートワークでの課題である、コミュニケーションの量が減る、すぐに相談できない問題等、多くの企業で課題感を持っているようだ。今回は、リモートワークで逆にコミュニケーションが増えた企業のリモートワークに対する取り組みを見ていくことにする。
リモートワークの家庭環境整備の重要性
120名規模の情報提供サービス企業。元々、リモートワークを申請すれば利用できる制度があり、ノートPCも一人一台貸与してあった。書類の電子化も進んでおり、どこでも仕事ができる環境は整っていたので、緊急事態宣言が発令された当初は、全社フルリモートワークの体制を敷いた。
コミュニケーションについては、以前からSlackなどのチャットツールを使っており、またWeb会議システムとしてZoomも活用。そのようなツールに慣れていたこともあり、スムーズにリモートワークが実践できた。
ただ、自宅のインフラには個人差があった。自宅にもモニターが欲しいとの要望が数多く寄せられたので、新たに購入したり、会社にあったものを含め数十台のモニターを必要な個人宅に配送した。必要ならモバイルルーターも発送。まずは、家庭での環境整備に尽力した。
リモートワークでよくある課題として、オンとオフのメリハリがつかず、また一人暮らしであると、食事の時間も自分次第であるということから、ついつい働き過ぎてしまうという問題がある。そこでこの企業では、管理部門担当者やチームリーダーがメンバーの勤務時間をチェックして、働き過ぎを防止した。また、以前から福利厚生の一つのメニューとして、全従業員が使える家事代行サービスがあり、特にお子さんがいる家庭では、掃除や料理を代行してもらえると、大変好評であった。
リモートワークでは、各メンバーの家庭環境により、働く場の環境が大きく異なる。今までのように、オフィスに皆が集まり仕事をする場合であれば、そのオフィスの環境整備をしておけばことが足りた。また、ある程度同一条件で整備しておけば、不平や不満は解消できた。
しかし、働く場がリモート、特に在宅勤務となると、従業員の数だけ環境があり、一人暮らしと結婚していて子どもがいる状況、特に未就学児がいるとなると、逆に在宅勤務では生産性が落ちる、ということが散見される。
緊急事態宣言のさなかは、強制的な在宅勤務であり、生産性が落ちようが在宅勤務が必須であった。現在は解除され、週に一~二回、あるいは働く場を個々人の選択に任せている。しかし、今後も新型コロナウイルス感染症のようなパンデミックが生じた場合は、強制的な在宅勤務が求められる事態も想定される。一段落したとはいえ、この家庭環境での違いにどのように対処すべきか、考えておくべき課題である。
デジタルツールの活用は継続が重要
緊急事態宣言を受けての強制的リモートワーク。この企業でも、「意外とオフィスじゃなくても働ける」との感想が多かった。もともとSlack、Zoomを使いこなしていたので、チャットで「繋がっている感」はあり、寂しさは解消されていた。
また、Web会議の頻度が増えたり、リモートで朝会を開催するなど、むしろ顔を合わせていないからこそコミュニケーションが増えた。また、チャット上には雑談用のルームができたり、以前からデジタルツールの活用頻度が高かったがゆえに、敷居も低く、多くの従業員が気軽にコミュニケーションを取っている。
Web会議中にお子さんの様子が垣間見られたり、育児をする家庭の事情が見えることにより、お子さんの世話をしながらリモートワークをすることの大変さが独身の従業員に伝わることで、相互理解が進んだ。Web会議の良い副産物である。
出社率が高くなっている現状、確かに、リアルのコミュニケーションは取りやすいかもしれないが、せっかく慣れてきたデジタルツールの活用頻度はこのまま維持したいものである。デジタルツールの活用は慣れの部分が大きいので、コロナ以前の世界には戻らないように注意したいものだ。
自律性と選択肢の提供
現在は、リモートワーク、オフィス、どちらでも選べるような働き方を取っている。家庭環境により、リモートの方が生産性が上がる従業員、オフィスで働きたい従業員、各人の選択に任せている。本来的には、働く場は、それぞれの仕事がやりやすい場として、各人のパフォーマンスが最大化される場を、各人が自ら選択すべきものである。
ただ、それには、各従業員と企業に必要なことがある。従業員にとっては、自律性である。自立ではなく、自律。これは、自分自身の強みも弱みも理解した状態のこと。つまり、自分はどのような環境だと最もパフォーマンスが上がるかを把握しておくことが重要なのである。その前提で、各自が働く場を選択するのだ。
一方で、企業側としては、各人が自律的に選択できる選択肢を最大限提供することが重要である。個々人の最適な場所は多種多様なはず。個室の方が集中できる人もいれば、人がそばにいる方が集中できる人もいる。つまり、個別最適化の実現が企業に求められており、そのための「最大限の選択肢の提供」なのである。そして、その前提は、どのような価値観、働き方を好む従業員がいるのかという事実の把握である。
先の事例にあった、「リモートワークにより、逆にコミュニケーションが増えた」ではないが、リモートワーク時代においては、総務人事等の管理部門は、以前よりコミュニケーションの量を増やして、従業員の働き方の指向性を把握することが重要となるのだ。