通信系企業の事例:サテライトオフィスの拡充と分身ロボットの活用
他社はどうしてる? 成功事例で学ぶDX(デジタル・トランスフォーメーション)
今後は、サードプレイスが増加する
新型コロナウイルス感染症により働く場の分散化が進んでいる。従前はオフィスのみだったものが、在宅勤務が常態化した。今後も、新型コロナウイルス感染症がいつ収まるか分からない中、また、第二波、第三波が来るなど、原則出社に戻した企業も原則在宅勤務に再度変更したりと、一定しない。
リモートワークありきであり、三密を防ぐ意味でも、出社率を50%や30%として制限を掛けている企業も多い。また、その出社率を前提として、契約にもよるが、これから続々とオフィスを縮小する動きも出てきそうだ。月刊総務の調査では、7割の企業がオフィスの縮小を検討していると出ている。
ここで問題となるのが、オフィスを縮小した場合、その縮小した広さでまかない切れるか、という問題である。やはり在宅勤務だけでは生産性に難がある、ということで、縮小したオフィスに多くの人が戻ってきてしまう、想定外に出社されてしまう、という問題である。
そこで解決手段として、今後増えてくると思われるのが、サードプレイスである。外部のサービサーと契約する、コワーキングスペース、シェアオフィス。自社で保有するサテライトオフィス。このような第三の場所が調整弁となって、先のような問題を吸収する、そのように考えられている。
コロナ禍によるリモートワークの進展から遡ること二年前、三万人の社員がいる通信系の大企業で、リモートワーク推進のために取られた施策。サテライトオフィスの開設と、分身ロボットを使った事例が、今の時代のリモートワークにも参考となる。紹介しよう。
サテライトオフィスの増設
この大企業、働き方改革の一環として、モバイルワーク(リモートワーク)の推進を掲げ、全社活動を推進していった。そして、リモートワークが普及するにつれて、家だと仕事ができない、外出先から会社に戻らずに近くの拠点ビルで仕事がしたい、そのような声が数多く上がってきた。
各拠点で個別に設置していたサテライトオフィスの利用ルールを整備して、都内の社宅も含め新たに数多くのサテライトオフィスを開設した。全社でどこでも利用できるように整備していった。通勤途上で利用できるように、あえて23区外に設置した。
結果、出張先から近くのサテライトオフィスに立ち寄る、台風が来るので自宅近くのサテライトオフィスで仕事をする、集中して仕事をしたい時や子どもの送り迎えに合わせて利用する、などさまざまな利用の仕方が出てきた。また、利用者からの口コミにより、多くの管理職も活用したとのこと。
あくまでも、サテライトオフィスは多様な働く場の一つ、選択肢に過ぎない。各自の状況に合わせて活用してもらえばよく、会社からどこで仕事をしてくださいと指示するものではない。また、リモートワークが進むにつれて、リモートワークがやりやすいように各自が工夫し始める。
あるいは、そもそもこの仕事は必要なのか、仕事の見直しのきっかけともなる。そうした仕事の効率化や、質の向上につながる機会として捉えている。
分身ロボットの活用
さらにリモートワークを進展させるために導入したのが、分身ロボット。スマートフォンやタブレットから操作できる優れものだ。カメラ、マイク、スピーカーが搭載されており、自分の代わりに会社に置いておいて、インターネットを通じて、周囲を見回したり、職場の人とリアルに会話することができる。
一方で、自分の様子が会社のモニターに映ることはないのでプライバシーが守られる。在宅勤務者が感じる疎外感や孤独感の解消に有効だと評判。一対一の気軽なコミュニケーションも簡単に取れる。この分身ロボットだと、出社しているメンバーには存在感を示すことができ、社内のメンバーが声を掛ければ、すぐに返事ができる。カメラを通じて印刷物も確認できる。なんと、休暇中や出張中に利用する人もいるとか。
今後、リモートワークと出社する人が混在する、ハイブリッド型のワークスタイルが常態化する中、リモートワーク中であっても、存在感が示され、気軽なコミュニケーションが取れる分身ロボットの活用は、ますます進展していくように思われる。
ハイブリッド型の課題
新型コロナウイルス感染症によって、働く場の分散化、それに伴い、一部は出社、残りはリモートワークのハイブリッド型のワークスタイルが常態化していく中、いろいろな課題が表れてきている。仕事によっては、リアルの場に関係者が一堂に集まった方が生産性が高いものもある。しかし一方で、会社としてはリモートワークを推奨している状態。
この状態で必要となってくるのが、「出社する必要性」の説明である。管理職としては出社してもらいたい、その方が生産性が高まる、そのような際に、コロナ禍以前では考えられなかった、出社する理由の説明が必要となるのだ。その理由を合理的に説明できないと、新たなハラスメントにもなりかねない。
これ以外にも、日本はハイコンテクスト社会、阿吽の呼吸でものごとが進む、場の空気を読んでものごとを忖度する、このような社会で長らく仕事をしてきた。ここから、ローコンテクスト型に移行しなければ、リモートワークがスムーズに進まない。特に仕事の指示については明確にしておかないと、メンバーが動けない。
時を同じくして進展している、JOB型雇用。これが普通であるのが欧米企業であり、ローコンテクスト社会である。それぞれの職務が明確となっており、いちいち業務指示をしなくとも、メンバーは職務に邁進できる。ローコンテクスト社会とは、ある意味、可視化が徹底されている社会でもある。つまり、新型コロナウイルス感染症によりDXが進展したのと同じように、グローバル化も進展したと考えた方がよい。
仕事には全て意味があり、意味がないものは不要業務としてなくなっていく。リモートワークにおいて、業務の可視化、そのDX、と言われているが、そもそもその業務の必要性の可視化が最も重要なのだ。在宅でできたからそのまま業務を継続するのではなく、今一度、その存在理由、その仕事の価値を見定める必要がある。
ハイブリッド型ワークスタイル、ただ単にリモートワークができる環境を整備するのではなく、それに適したコミュニケーションのスタイル、ローコンテクスト型コミュニケーションへのシフトも望まれているのだ。