金融系企業の事例:RPA導入で業務の省力化と業務の質の向上を達成
他社はどうしてる? 成功事例で学ぶDX(デジタル・トランスフォーメーション)
タスク分解で本来業務へフォーカス
タスク分解、という言葉がある。目の前の業務について、「どこまでを人(従業員)で行い、どこからテクノロジーで行い、残りをどのようにBPO(アウトソーシング)するかを考える」ことである。その本質は、得意なことは得意な人に任せることである。となると、人はどのような業務が得意なのか。ずばり、戦略立案、企画立案、考えることである。タスク分解のもう一つの側面は、空いた時間に何をするかである。
管理部門においては、目の前の雑務に忙殺され、本来やるべき業務になかなか手が付けられない、ということも多いかと思う。そこでこのタスク分解を行い、本来やるべき仕事にフォーカスできるように空いた時間を作るのである。
目の前の雑務、例えば、申請書のチェックであるとか、データの加工作業、そのような業務をテクノロジーに置き換えることで、得意なことを得意な人に任せるパターンである。今では、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)が多くの企業で活用されている。今回の事例は、大手金融会社の総務や人事の業務を請け負うシェアードサービス会社の、RPAの活用事例である。
RPAの導入により本来業務が可能に
大手金融会社で全国に分散している業務の集中化、効率化を目指して、このシェアードサービス会社は設立された。しかし、特定の期限内に大量の事務処理を行う業務では、マンパワー不足が課題であった。そうした中、グループ全体でRPAによる業務改善推進の動きがあり、このシェアードサービス会社の中でも特に処理量が多く煩雑な業務からRPAを導入することになった。
それは社宅手配業務。人事異動発令の三月に約4000件もの社宅の入居、退居の申請受付、承認、手配業務が集中する。この業務はもともと、全国各地の支店で合計100名近くの人員で処理していた。それをシェアードサービス会社に集中させて、五人で対応することにした。
ただ、特に異動の多い四月には、三月初旬の辞令交付後に4000件もの申請が集中し、三月末の引っ越しに間に合わせるために短期の派遣を雇うなどして対応していた。この対応をRPAで対処することを検討し、実証実験として全国の社宅管理業務の七割をRPAで行ったところ、必要な人員はRPAを操作する一名だけとなった。
そして大事なのは、今まで五名体制で対応していたものが一名で対応できることになり、その分、従業員からの問合せに手厚く対応することが可能となったことだ。社員サービスという点で質の向上が図られたのである。これがタスク分解による、本来やるべき仕事にフォーカスできたことなのである。
RPA導入に際して注意すること
RPAは、該当業務の一連の流れを全てシステム化するのではなく、その一連の流れの中の一部をシステム化するイメージである。よって、その前後の業務フローに変更があると、簡単にストップしてしまう。つまり、業務に精通しないと作れないのである。
このシェアードサービス会社では、RPAの導入にあたって、外部のベンダーに構築を依頼した。なので、この社宅手配業務について理解してもらうことが、RPA構築の上で最も重要なことになる。業務のフローを可視化し、要件定義書を作成し、それをもとにじっくりとミーティングを行った。
社内における社宅手配業務の位置づけから、発生しやすいクレーム、そしてシェアードサービス会社としてやりたいことまで、あらゆることを伝え理解してもらう。また社内資料は細かいモノから全て提供した。つまり、自社の社員と同じくらいの知識を持ったうえで構築をしてもらったのだ。その後も、構築段階においても、数回ミーティングを行った。
その中でも特に苦労したことが、社員がケーズごとに判断しつつ行ってきた曖昧な対応や判断に基づく処理。これを可視化しロジカルにしていかないとRPAが組めないのだ。また大事なことは、なんでもかんでもRPAでやろうとはせず、複雑な判断が伴うものは従来通り社員が行う、そのように切り分けることだ。逆に、これはRPAではできないと簡単に決めつけないことだ。他の人に見てもらうことにより、新たな気づきを得ることも多い。
RPA、業務改善の「武器」を持つことの重要性
RPAを導入することで、大幅な省力化が実現できるとともに、それに伴う人件費の削減というコスト削減効果も大きい。また、一つの業務でRPAが対応できるとなると、それではあの業務はどうだろうか、この業務はどうだろうかと、RPA目線でいろいろな業務を見ることにより、他の業務でも省力化が実現できるようになる。
この成功体験により、従来のやり方のまま漫然と対応していた業務に対する見方が変わってくる。成功体験、つまりは業務改善を実現する「武器」を携えることができると、大きく業務改善の動きが進み始める。となると、この成功体験は大事であり、必ず成功する業務からはじめることが大事な点となる。小さな成功体験、しかし、それは最も大事な最初の一歩となるのである。
また、できればRPAの構築は、可能であれば自社の社員でできるようにしたい。先述したように、RPAは前後の業務フローが変更されると、ぴたりと動かなくなる。なので、その業務に精通した社員が、業務フローの変更の際には、事前にRPAの変更処理まで気付けることが大切となる。
変更のみならず、新たに他の業務をRPA化するにしても、社員が構築できればすぐに対応できるし、外部委託の際の詳細なミーティングも必要なくなる。即応性のことを考えると、断然社員構築パターンが有利となる。ただ、よく言われるのが、そのままのフローでRPAは組むことができない、というものだ。システム思考というのか、普通の管理部門の社員ではあまり持ちえない感覚、思考方法が必要とも言われる。
なので、最初は外部のベンダーに構築を依頼しつつ、その構築も一緒に行い、考え方を教えてもらう、体感することが必要である。おそらく、そのシステム思考が見つけられれば、RPAの構築はもとより、違った見方で業務を見ることができ、違う観点から業務改善のネタが見つけられるように思う。
とにもかくにも、異なる目線は非常に大事であり、それを身に付けるためにもRPAを管理部門で導入してみる価値はあるはずだ。