IT系企業の事例:社内ポータル、FAQで検索してもらい自己解決できる仕組みへ
他社はどうしてる? 成功事例で学ぶDX(デジタル・トランスフォーメーション)
管理部門への問い合わせを減らしたい
コロナ禍の中で、企業として在宅勤務を推奨しつつも、管理部門は、「何かあるといけないから」出社せざるを得ない、そんな状況が多いのではないだろうか。何があるかという明確な理由があるのではないが、現場従業員としては、管理部門が不在だと落ち着かない、そんな心境かもしれない。
とかく管理部門には多くの問い合わせが入ってくる。本来は自ら現場で対応すべきものであっても、とにもかくにも管理部門へ依頼する。以前問い合わせた内容であっても、忘れてしまって再度問い合わせをしてしまう。社内のイントラネットに掲載してあるのだが、探すのが面倒で電話で聞いてしまう。
管理部門の「あるある」は、今日はこの仕事を絶対に片づけようと朝心に決めても、上記のような様々な問い合わせが入り、その対応に忙殺され、気がついてみると既に就業時間は過ぎている。そんな経験を多くの管理部門の方がされているかと思う。かくいう私もそれを経験してきた。
この管理部門への問い合わせの数を減らさない限り、本来やりたい仕事がなかなか手につかない。その時間も取れない。特に、リモートありきのニューノーマルとなると、管理部門においてもリモートワークを実現したい。今回紹介するのは、この問い合わせを、社内ポータルを導入することで減少させた事例である。
FAQで検索させる
従業員600名弱のIT系企業。以前より、各種申請の方法やその申請書、手続きの窓口の情報を社内のグループウェアに掲載していた。しかし、その情報になかなかたどり着けない、探しにくいと不満が寄せられていた。複数の画面にまたがり掲載されていたので、どちらに掲載するかは担当者次第であり、また更新のルールも明確に定まっておらず、新旧の情報が混在し、探すのが難しい状態であった。結果、電話で問い合わせた方が早いということで、管理部門にはひっきりなしに電話がかかってきた。
それでも、人数が少ない時は対応できていたが、事業拡張により人数が一気に倍増してからは、その数も多くなり、その対応に管理部門のメンバーが忙殺されるという事態に陥った。管理部門としては、気軽に問い合わせてもらい、対応するというホスピタリティの実践としては良かったのだが、聞く方も答える方も時間が取られてしまうのは事実。そこで、問い合わせることなく、自己解決できるポータルサイトを立ち上げることにした。情報を知りたい人が、自分で探せて解決できるポータルサイトである。
スタイルとしては、FAQ形式とした。例えば、名刺の発注なら、名刺、とキーワード検索すると記事が出てくる。その記事の中には、それに関する情報が掲載されている場所のアドレスのリンクなども張ってある。まずはポータルサイトで探してもらい、その先は、それぞれが掲載されている社内グループウェアなどの社内の様々なツールに飛ぶなどして解決できるようにした。しかし、どうしても探せない場合はチャットで管理部門に問い合わせができる。その際も、次回からはこちらを見てください、そのようにアドバイスする。これを継続していくうちに、問い合わせも減っていった。
どうやって使ってもらうか
しかし、リリース直後すぐに従業員が使ってくれたかというとそうでもない。今まで通り管理部門に問い合わせてくることも多く、その際は、ここを見てください、そのように返すことで、これを継続していき、徐々に使われ始めたのだ。
今までの習慣を変えて、別の方法で対応してもらう社内ルールの変更は、まずは社内の告知をしっかりとしつつも、いかに使ってもらえるようにするかが最大の難関である。管理部門が楽になる、そのようなイメージがついてしまうと良いモノでも使ってもらえない。新システムは、あくまでも現場従業員のため、生産性向上のためである、そのようなアピールが重要である。
いちいち管理部門に問い合わせるより、自ら知りたい時にすぐにたどり着く、問い合わせの時間が必要ない、さらには、管理部門に担当者が不在だった場合のことを考えると、自ら解決できた方が時間の短縮となる。そんなことを理解してもらうことが必要だ。
ある企業ではキャラクターを作って、事あるごとにこのキャラクターを登場させて、認知度を高めていった。あるいは、新システムを使うことでこんなに良いことがある、そのような社内事例を集め告知していく。あの手この手で露出を高めていくことがポイントである。従業員もそれぞれに見ているもの、使っているツールが異なることもあるので、どれか一つで告知したら終わりとするのではなく、あらゆる社内ツールや社内メディアで告知していくことである。
新たなFAQ作成にもルールがあり、同じ質問が三回寄せられたら、それを記事として掲載することにしている。一方で、しっかりと記事として掲載されているのに、何度も問い合わせが入るようなものは、記事の内容を確認して調整している。また、検索しているのにヒットしない言葉一覧を取り出して、内容の調整をしたりしている。
作ってからが勝負
運用されるようになると、問い合わせが減り楽にはなるのだが、その裏でマイナーチェンジを繰り返していくことが必要となる。作ったら終わりではなく、社内の環境の変化に合わせて、システムも随時変化させなければならない。むしろ、作ってからが勝負でもある。
また、管理部門で一般的に使われる言葉と違う言葉で現場の従業員が使っている場合もあり、その場合は検索にヒットしてこない。現場と常にコミュニケーションしながら、現場との言葉のすり合わせなども必要となってくる。
ある意味、どれだけ現場に寄り添えるかが、この手の社内システムには必要な姿勢である。お役所的に、管理部門言葉やルールで押し通すのではなく、現場従業員の身になって、どれだけ使いやすいものとすることができるか、ここがポイントである。従業員が自己解決できるようにするには、それをサポートする管理部門のメンバーがどれだけ現場のことを知っているかが大きな差となって表れるのだ。つまり、どちらからモノを見るかがポイントである。管理部門としては、ぜひ、現場サイドからモノを見ることも必要なのだ。