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IT系企業の事例:期待をコントロールしつつ、仕事をすすめる

他社はどうしてる? 成功事例で学ぶDX(デジタル・トランスフォーメーション)

IT系企業の事例:期待をコントロールしつつ、仕事をすすめる

この記事の著者
株式会社月刊総務 代表取締役社長   戦略総務研究所 所長 

管理部門の顧客の従業員満足度を図る

管理部門のユーザーとオーナー、という言葉がある。ユーザーは現場の従業員であり、管理部門が行う社内サービスの利用者である。一方、オーナーは経営者であり、管理部門のメンバーの人事異動もできるし、指示命令ができる。

管理部門が常に意識しているのはユーザーである現場の従業員。管理部門の顧客とも言われ、その評価を管理部門としては意識せざるを得ない。一般的に管理部門の顧客の評価は、管理部門に対する従業員満足度調査を通じて計測していることだろう。毎年同じ項目で、経年評価をしていく。

その他、管理部門に対する要望を「目安箱」のような名称で、随時受け付けていく。この要望については、その取り扱いに失敗すると評価が低下してしまう。往々にしてあるのは、対応できるものに対しては回答するが、できないものに対しては回答をしない。せっかく要望や意見を出したのに回答がないと、次からは意見を出すことはなくなる。さらに、「言わせておきながら、何なの!」という悪評が立ってしまう。

しっかりと成果を出している管理部門は、できない要望に対してこそしっかりと回答している。なぜできないのか、今できなくともこのような状況となったら対応するとか、何らかの回答をしている。これにより、誠実な対応が評価され、対応されなくとも悪い評価を下すことはない。

一方で、従業員満足度調査はどのように扱い、調査することで何を目指すべきなのか。今回紹介する700名弱のITシステム会社では、上手に期待値を管理することで、管理部門の役割を明確にしている。


期待値をコントロールする

この企業の管理部門のミッションは、組織全体の間接コストを極小化し、現場が本業に集中できる環境を作ることだ。よりサービスとコストを適正化するために、ユーザーである従業員に対する従業員満足度調査をスタートした。

この企業の面白いところは、満足度を五段階評価の五ではなく、三を達成することを目指している点である。「五を目指す」と宣言してしまうと、現場従業員の期待値が上がり過ぎてしまい、コストマネジメントとは真逆の方向にいってしまいかねない。そうではなくて、過不足ない標準的なサービスがきちんと回っている状態を理想としている。全てのサービスが三以上であるかを定点観測することを目的としているのだ。

そして、この企業でも、アンケートに寄せられたコメントには全て返答し、汎用性のあるニーズには積極的に対応している。このようにして現場従業員との信頼関係を醸成しつつ、期待値をコントロールしている。

もう一つ、サービスとコストの適正化に役立っているのが、管理部門の提供サービスをメニュー表として整理して開示していることだ。従業員満足度調査でも、管理部門がそもそも何をしているかが分からないという意見が多かったことをきっかけとして作成した。

これは三か月ごとに改訂され、誰でも見られる共有サーバーに置いてある。これにより管理部門のサービスが可視化されるとともに、管理部門の業務分掌も明確化されることとなった。このメニュー表に掲載していないサービスは管理部門の管轄ではないので、現場のコストで行うこと、そのように線引きが明確となった。

このように期待値をコントロールすると、期待以上の働きをした時のユーザーの感謝はより大きくなる。ルーティンワークに割く工数を極小化し、経営や現場従業員からの依頼には期待値以上の対応を徹底して行う。その時間を作るために、BPRにも取り組んだ。

また、メニュー表にワークフローシステムを導入。タスクの進捗も可視化できるように、申請窓口をシステムに一本化した。結果、月に何件の業務を受けているのかといった数字も見えるようになった。また、書類の転記などの無駄な内部作業の手間も減って、業務効率が向上した。この取り組みにより、現場従業員の数は増加しているにも関わらず、管理部門の人数はむしろ減らして、サービスの質を維持できているという。


期待管理と評判管理

管理部門のミッションは、会社に貢献すること。貢献するには何かを仕掛ける、新たな取り組みを行うことが必要となる。さらにその前に、その取り組み、やろうと考えていることを、経営に認めてもらう必要がある。言い換えれば、管理部門の提案が「売れる」必要がある。成果を上げるには、売れる管理部門となることが重要なのである。

売れるためには、その施策、取り組みが成果を上げられる、という期待があることが必要だ。成果を期待して、経営もその取り組みの実行を許可しているのである。この期待をどのように醸成するか、そこには、評判管理という考え方がある。

管理本部の〇〇さんの行う施策は、いつも現場のためになる。そんな評判が醸成されると、その〇〇さんへの期待が醸成されていく。良い評判が期待に繋がり、その〇〇さんが上程する施策が経営に「買われる」のである。

そして、この評判は一朝一夕には醸成されない。日々の小さな依頼事項を疎かにせず、現場従業員のためを思いながら、あるいは、経営の方向性を理解しながら対処していくのだ。その積み重ねにより、良い評判が醸成されていく。

むしろ、小さい依頼事項ほど、依頼する相手は、そんなに期待していないものである。いつやってもらっても良い、時間のある時に対処してもらえれば良い、そんな小さな依頼事項に、即座に対応してあげる。相手がそんなに期待していないところを、最速で対応してあげると、いい意味で、期待を裏切ることができる。結果、大きな感動を与えることができるのだ。

この期待管理とは、言うなれば、相手の期待を上回る対応をすることであり、それが先に記した評判を高めることに繋がる。期待管理をしつつ、評判管理をして、売れる管理部門となるのだ。

さらにこれが継続して行われると、現場従業員に「恩」を売ることにも繋がる。そうなると、たとえ現場に負荷がかかる取り組みであっても、「いつもお世話になっている〇〇さんに言われたら、やるしかないですよね」、そのような動きにも繋がるのだ。

管理部門における期待管理と評判管理、意識して行動したいものである。

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著者プロフィール

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豊田 健一

株式会社月刊総務 代表取締役社長 戦略総務研究所 所長

早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社リクルートで経理、営業、総務、株式会社魚力で総務課長を経験。日本で唯一の総務部門向け専門誌『月刊総務』前編集長。現在は、戦略総務研究所所長、(一社)ファシリティ・オフィスサービス・コンソーシアム(FOSC)の副代表理事として、講演・執筆活動、コンサルティングを行う。

毎日投稿 総務のつぶやき 

毎週投稿 ラジオ形式 総務よもやま話

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著作

マンガでやさしくわかる総務の仕事』(日本能率協会マネジメントセンター) 

経営を強くする戦略総務』(日本能率協会マネジメントセンター) 

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