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ITベンチャー企業の事例:DXと社内の協力で管理部門のフルリモートワークを実現

他社はどうしてる? 成功事例で学ぶDX(デジタル・トランスフォーメーション)

著者:株式会社月刊総務 代表取締役社長  戦略総務研究所 所長  豊田 健一

ITベンチャー企業の事例:DXと社内の協力で管理部門のフルリモートワークを実現

管理部門の三大課題、電話転送システムの導入

2020年7月に月刊総務で調査した管理部門のリモートワーク状態。完全フルリモートができたのは、たったの1.6%であった。ほとんどが何らかの形で出社を余儀なくされていた。その原因は、三大課題と言われる、代表電話の対応、押印の対応、そして郵送物の処理である。この対応のために、管理部門担当者の誰かが出社していたのだ。

今回は、そんな管理部門であってもフルリモートワークを、ITツールと社内の協力で実践した事例を紹介してみよう。300名弱のIT関係の企業である。

この企業、IT系としては珍しく、2020年の2月時点で、リモートワークの制度自体が存在していなかった。そもそも、対面のコミュニケーションを重視する社風があり、一部関連会社では実施していたものの、この企業ではリモートワークを実施していなかった。

しかし、緊急事態宣言が発令された状況においては、対面コミュニケーションを重視し、社内に人が集まること自体、感染のリスクがあるということもあり、社内で検討した結果、全面的な在宅勤務に切り替えることとした。

そして、この企業の管理部門。一般的に、コロナ対応により、逆に管理部門は出社が増えた、という事例も多い中、同様にリモートワークは難しいと考えていた。その最大の要因は電話対応。それ以外の業務は、時差出勤や在宅勤務で対応できたのだが、この電話対応のみが最後まで残されていた。

そこで、何か良いツールはないものかと、あれやこれやと探していたところ、ゼロ秒転送システムを発見。会社に掛かってきた電話を即時に指定の電話に転送できるシステム。個人の携帯電話に転送することで、電話対応のために出社することもなくなった。時間制で担当を割り振って転送し、担当の切り替えはパソコンで行った。


郵送物は社内の協力で対応

郵送物、特に請求書はいまだに郵送で届くことが多い。誰かが封を開け、担当に渡して確認して、経理に回して支払処理を行う。最初からデータで届けば、誰も出社しなくても良いのだが、最初に現物が郵送されてしまうとそうはいかない。

そこで、この企業では、部門を問わず、その日に出社した従業員が開封して、しかるべき担当部署の従業員にスキャンして転送する。それを受けた従業員がチャットで指示をして対応してもらうのだ。テクノロジーを使った対応ではないアナログなやり方だか、社内の協力を得ることで、管理部門も在宅勤務を実施できる。管理部門にしわ寄せが来ないように全社でサポートする体制を取ったのである。

また、三大課題の最後、押印の対応については、電子契約システムを導入することで、三大課題を全てクリアすることができた。これにより、管理部門のフルリモートワークが成立したのである。


工夫を凝らした社内コミュニケーション

全社のコミュニケーションについては、以前よりSlackを使っており、リモートワークとなっても特段問題はなかった。また、Web会議システムも以前より使っていたものがあったので、いろいろとツールが氾濫することもなく、この二つでまかなっている。結果、社内コミュニケーションでメールや電話を使うことはほとんどない。

また、リモート会議での質向上のために、事前にアジェンダを共有するなど、あるいは、テキストコミュニケーションだけでは繋がりにくいものについては、画面共有をしながら進めるなど、各自が各自なりに工夫しているとのこと。

先述したように、コロナ以前にリモートワークの制度がなかったので、在宅勤務での環境整備は整っていなかった。そこで、ノートパソコンの支給から始まり、家庭にネット環境がない従業員に対しては、モバイルWi-fiを貸与したり、ディスプレイがないと仕事に支障をきたしてしまう従業員へはディスプレイの貸与、もしくは家庭にあるテレビをマルチディスプレイにするためのケーブルを貸与したりなどした。

リモートワークに対するアンケートを取ったところ、やはりコミュニケーション不足については課題があるようだ。経営層からはテレビ会議システムを繋ぎっぱなしにしてはどうかという提案があったようだが、どうも監視されているようだということで、採用は見送った。

その一方で、オンライン飲み会を開催。子どもが一緒に登場するなどして、アットホームな感じが好評である。親睦会もリモートで開催が継続されており、さらなる活用が期待されている。


社内にいなければならない管理部門の位置づけ

この事例のように、管理部門が在宅勤務できない三大課題は、テクノロジーを使うことで対処することができる。郵送物も、会社に届く全ての郵送物をデータ化して、しかるべき担当部門に送付するサービスも存在する。しかしそれ以上に、管理部門に対する認識が管理部門の在宅勤務を阻む実態もある。

「管理部門は社内にいないと困る。何かあるといけないから」。この管理部門に対する認識により、明確な理由や、明確に対応することがあるわけでもないのに出社しなければならない、という企業はことのほか多いようだ。では実際、何があるのかと聞いてみたところで、明確な理由は出てこない。想定されるに、トラブルや機器の故障のたぐいがそれに該当するのだろう。

であるなら、先を越して、想定されるトラブルやリスクをあらかじめ想定し尽くして、対応方法を社内に告知してしまうこともできはしないだろうか。優秀な管理部門では、管理部門への問い合わせが想定されるものを全て洗い出し、メニュー表として社内のイントラに掲載する、あるいはFAQを作成して掲載するなどしている。それで各自が自ら調べ、そのまま対応できるようにしてあるのだ。

むしろ、その方がいちいち管理部門に連絡しなくて済むので、早く処理できる。管理部門に連絡し、管理部門が対応するというワンクッションがいらないので、すぐに対応できるのだ。紙のメニュー表があるわけではなく、社内のイントラに掲載し、連絡先にリンクを張っておくなど、ある意味、これも管理部門における、問い合わせ対応のDXと言えるかもしれない。

このような、ちょっとしたテクノロジーの活用であっても、それにより管理部門への問い合わせが減り、本来やるべき仕事にフォーカスできるのであれば、立派な「トランスフォーメーション」であるのだ。

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著者プロフィール

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豊田 健一

株式会社月刊総務 代表取締役社長 戦略総務研究所 所長

早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社リクルートで経理、営業、総務、株式会社魚力で総務課長を経験。日本で唯一の総務部門向け専門誌『月刊総務』前編集長。現在は、戦略総務研究所所長、(一社)ファシリティ・オフィスサービス・コンソーシアム(FOSC)の副代表理事として、講演・執筆活動、コンサルティングを行う。

毎日投稿 総務のつぶやき 

毎週投稿 ラジオ形式 総務よもやま話

毎月登場 月刊総務ウェビナー

著作

マンガでやさしくわかる総務の仕事』(日本能率協会マネジメントセンター) 

経営を強くする戦略総務』(日本能率協会マネジメントセンター) 

リモートワークありきの世界で経営の軸を作る 戦略総務 実践ハンドブック』(日本能率協会マネジメントセンター)

講演テーマ:総務分野

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総務の在り方、総務のプロとは

戦略総務の実現の仕方・考え方

総務のDXWithコロナのオフィス事情

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