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経理処理とDXについて

著者: 税理士  髙橋 昌也

経理処理とDXについて

DXという言葉が、当たり前のように使われるようになってきました。

少し前であればクラウド、あるいはフィンテック(情報技術と金融)といった言葉が流行っていたように思います。

経理や税務についても、デジタル化の進行はかなりの速度で進んでいることは間違いありません。

では、デジタルを導入すると、どのような点が円滑になるのでしょうか?


会計に関する2つの側面

会計という言葉については、常に2つの側面から考える必要があります。ひとつは「会計帳簿をつくる」こと。そしてもうひとつは「会計帳簿を読み解くこと」です。このふたつは、似ているようでいてかなり異なる能力です。


会計帳簿をつくる

まず会計帳簿をつくることについて。コンピュータが普及する前、会計帳簿はすべて手書きで作成されていました。簿記(ぼき)と呼ばれる技術の勉強をすると、手書きを前提として、どのような流れで会計帳簿が作成されるのが学びます。

2~30年前からコンピュータが普及し、オフコンからPCに主流が代わり、その辺りから手書きで会計帳簿をつくる人は激減しました。そして現在、人によってはスマホを使って会計帳簿をつくる人も珍しくありません。

会計ソフトについても、専用機からPC用のソフトウェア、スマホのアプリからクラウドサービスと、様々に変遷してきました。最近では銀行データやクレジットカードの取引データを読み取り、自動で会計帳簿をつくってくれるサービスも普及してきています。最近のDXと呼ばれる分野がもっとも貢献しているのは、この「会計帳簿をつくる段階」だと言えます。


帳簿の妥当性をチェックする

そして会計帳簿を読み解くことについて。これは大きく、ふたつの意味があります。

読み解きポイントその1は、帳簿内容のチェックです。
売上や経費に計上漏れはないか?現金や預金の残高は実態に合致しているか?(ひどいケースだと、現金残高がマイナスになっているような帳簿も珍しくありません・・・)設備投資について、きちんと固定資産が計上されているか?

作成された帳簿が実態にあっていないと、大きな問題に発展します。課税庁や金融機関とのやり取りも間違えてしまいますし、この後に控える「経営分析」の段階でも、判断を大きく誤りかねません。

この時点のチェックに関しては、やはり簿記などの基礎知識がないと、少し難しいです。アプリ等の普及により会計帳簿をつくるのは格段に容易になったのですが、その内容の妥当性については、案外とチェックが行き届いていないようです。


経営分析をする

読み解きポイントその2は、経営分析です。
会計帳簿とは、事業活動の成果を金銭というものさしをつかってまとめたものです。その内容を分析することで「現在、どの程度の利益(損失)が発生しているのか?」「資金繰りに大きな問題は発生していないか?」「企業として取り組んできたこと(設備投資や人材育成、営業努力など)は、どのような結果を産んでいるのか?」といったことがわかります。

会計帳簿を用いた経営分析をしないで事業を続けることは、ずっと健康診断をさぼっているようなものです(健康診断の必要性は、人によって意見が分かれるかと思いますが・・・)。あまり自分を省みることなく、なんとなく体調が悪くても気のせいだと思い、気が付いたら手遅れに・・・。

事業について、自分がやっていることはきちんと成果が出ているのか?それをもっともわかりやすい形で評価することができるのが、会計帳簿です。自分の意図と会計帳簿がズレているとすると、それはなにかマズイことが起こっている証拠です。

    • 売上単価の引き上げを目指していたはずなのに、売上の伸びが悪い
    • 広告の費用対効果について検討していたが、宣伝広告費が前年より気が付いたら増えていた

    もしこういうことが起こっているのだとしたら、自分の事業活動について、制御ができていないということを意味しています。そういったことを防ぐためにも、定期的な経営分析は、事業を継続し、発展させるために必要不可欠なことなのです。


    DXで経営分析はできるのか?

    DXと呼ばれる技術や製品の中には、会計(経理)について、非常に積極的なウリ文句を掲げているものも少なくないようです。「これからは攻めの会計を!」「DXで経営分析!」「経理は経営者の必須業務!どんどん活用を!!」といった雰囲気とでも言いましょうか。

    これらのウリ文句について、基本的には間違っていないと思います。私自身、税理士という仕事をしていて、お客様と会計帳簿をみながら、ほんとうに色々なお話をしています。

    「社長さんの体感と比較して、今回の数字はどうですか?」

    「金融機関に対して、早めに話をしておいた方が良いと思いますよ」

    「それなりの税負担が出そうだから、納税資金の確保は早めにしておいてくださいね」

    これを攻めの会計と言えばその通りかもしれません。そして繰り返しになりますが、会計帳簿を使って経営分析をすることは、健全な事業経営には必要不可欠であることは、間違いのない事実です。

    では、果たしてDXと呼ばれる技術やサービスは、それを使うだけで経営分析の役割まで、無条件で提供してくれるようなものなのか?

    その点については、私はそれなりに懐疑的な立場です。たしかにAIやビッグデータと呼ばれる膨大な量の情報と比較することで、同業他社との比較や世の中の動向とのマッチング具合はわかるかもしれません。しかし、では中小零細事業の現場において、そういった分析「だけ」で実際の事業経営ができるのか?と言われると・・・。

    会計帳簿を用いた経営分析において、もっとも重要だと思われるのは「経営者の体感とのズレ具合」だと思われます。それを確認していくためには、

    • 自分がいま感じていることについて、言葉にしてみる
    • それを誰かと対話することで、ある種の客観性を持たせる
    • その上で、あらためて主観性を持って事業に取り組み、数字について「自分が目指している方向」と寄り添うように努力する

    このような過程が必要不可欠です。これについて、特定のサービスや商品を使っただけで、簡単にわかるようになるのであれば、そもそもの事業経営をAIにでも任せた方が良いのでは?ということになりかねません。

    DXと呼ばれるツールが役に立たない、ということが言いたいのではありません。大切なのは「どんな道具も使い手次第」ということです。上手に使いこなせれば、会計帳簿の作成はほんとうに合理化できますし、そこから有効な経営分析につなげることも可能です。

    無闇矢鱈と信奉するのでもなく、かといって忌避するわけでもない。DXと会計の関係は、そういったバランス感覚が大切なのではないでしょうか?

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    著者プロフィール

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    髙橋 昌也

    税理士

    プロフィール
    1978年川崎市産まれ。
    2006年税理士試験合格、2007年に独立開業。東京地方税理士会川崎北支部所属。同年、FP資格取得。
    開業当初より「ちいさなお仕事の支援」に特化して事業を展開。
    単なる税務にとどまらず、顧客の事業計画策定を支援するなど業務全般の支援を実施。

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