ビジネス文書の書き方 第5回 挨拶文のマナー
この連載では、ビジネス文書の適切な書き方をお伝えします。
ビジネス文書には、一定の書式があります。今回は挨拶文のマナーを考えてみましょう。
ビジネス文書は横書きで
ビジネス文書は、基本的に横書きを用います。印刷して郵送するほか、メール本文に貼り付けたりWeb上で公開する場合も、日付・宛先・発行元を明記しましょう。
挨拶文の書き方
①【日付】
文書の発行日を、1行目の右に寄せて書きます。年号は、西暦でも元号でもどちらでも構いません。
②【宛先】
次の行に宛先を、左に寄せて書きます。敬称は、会社や組織宛の場合は「御中」、個人宛の場合は「様」、複数の個人宛の場合は「各位」とします。「各位」は敬称の意味を含みますので、「各位様」「各位殿」などと重複させないようにしましょう。
<取引先の会社宛>
株式会社○○○○御中
<取引先の個人宛>
株式会社○○○○
○○部 ○○課
○○ ○○様
<複数の個人宛>
各位
<顧客向け>
お客様各位
③【発行元】
次に発行元を、右に寄せて書きます。問い合わせを受けることが想定される時は、電話番号やURLなどを併記すると良いでしょう。
④【頭語と結語】
頭語とは挨拶文の文頭に書く言葉で、「拝啓」「謹啓」「拝呈」「啓上」などがあります。結語とは挨拶文の文末に記す言葉で、「敬具」「拝具」「敬白」「謹白」などの語があります。頭語と結語は組み合わせて用います。
よく使われる組み合わせは、次の通りです。
拝啓―敬具/拝啓―敬白
改まった挨拶文では、次のように組み合わせます。
謹啓―謹白/謹啓―敬白
ほかに、
前略―早々
という組み合わせもありますが、「挨拶を省略します」という意味ですので、ビジネスでは使用しないほうが望ましいでしょう。
⑤【前文】
時候の句に続く定型文です。
<会社・団体宛>
御社ますますご隆盛のこととお慶び申し上げます。
貴社ますますご繁栄のこととお慶び申し上げます。
会社の繁栄を喜ぶ言葉で、ほかに「ご盛栄」「ご隆昌」などがあります。
<個人宛>
貴殿ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
個人の健康や幸福を祝う言葉です。
<会社・個人どちらでも>
ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
繁栄と健康の両方を指す言葉で、会社宛でも個人宛でも使用できます。
ほかに「ご清栄」などの語があります。
⑥【本文】
前文に続き、要件に入ります。
挨拶文には、案内状・招待状・依頼状・通知状・お礼状・お祝い状・お見舞い状・お詫び状など、さまざまな種類があります。
内容により文章が異なりますので、次回詳しく説明します。
⑦【時候の句】
季節に合わせた挨拶の言葉です。
日本には四季のほかにも、二十四節気(にじゅうしせっき)という暦があります。「立春」「夏至」「秋分」「大寒」などの言葉を聞いたことがあるでしょう。これらが24種類あり、およそ2週間で暦が移り変わるため、非常に多くの時候の句が存在するのです。「○○の候」に代えて、文章で表現することもあります。
<1~3月>
<1月(睦月:むつき)>
初春の候/新春の候(上旬)
厳寒の候/厳冬の候/寒風の候(1月全般)
寒さ厳しい季節になりました。
まだ来ぬ春が待ち遠しく感じられます。
<2月(如月:きさらぎ)>
晩冬の候(初旬)
早春の候/残雪の候/梅花の候(2月全般)
三寒四温の時節、梅のつぼみも膨らみ始めました。
日差しにも春の訪れを感じるようになりました。
<3月(弥生:やよい)>
浅春の候(上旬)
春暖の候/萌芽の候/春風の候(中旬・下旬)
春分の候/仲春の候(下旬)
弥生の候(3月全般)
桃の節句を過ぎ、ようやく春めいてまいりました。
旅立ちの春を迎え、日増しに暖かさを感じます。
<4月~6月>
<4月(卯月:うづき)>
桜花の候/花冷えの候(上旬)
清明の候/春爛漫の候(上旬・中旬)
惜春の候(下旬)
陽春の候(4月全般)
桜の花のたよりが聞かれる頃になりました。
うららかな春の日和となりました。
<5月(皐月:さつき)>
晩春の候(初旬)
立夏の候(上旬・中旬)
若葉の候/青葉の候/新緑の候/薫風の候(5月全般)
風薫る爽やかな季節となりました。
五月の空が青く澄み渡っています。
<6月(水無月:みなづき)>
麦秋の候(初旬)
入梅の候(上旬・中旬)
夏至の候/向暑の候(下旬)
梅雨の候/長雨の候/梅雨寒の候/紫陽花の候(6月全般)
紫陽花の色が美しく映える季節となりました。
木々の緑もますます青さを増しています。
<7月~9月>
<7月(文月:ふみづき)>
七夕の候(上旬)
盛夏の候(中旬・下旬)
大暑の候/猛暑の候(下旬)
梅雨も明け、盛夏を迎えました。
海山が恋しい季節になりました。
<8月(葉月:はづき)>
季夏の候/晩夏の候/立秋の候(上旬・中旬)
残暑の候/処暑の候(中旬・下旬)
立秋とはいえ、まだまだ残暑厳しい毎日です。
朝夕かすかに秋の気配を感じます。
<9月(長月:ながつき)>
初秋の候(初旬)
白露の候/涼風の候(中旬)
仲秋の候(中旬・下旬)
秋雨の候/初露の候(下旬)
残暑もようやく和らぎ、爽やかな季節を迎えました。
コスモスが風に揺れ、朝夕はしのぎやすくなりました。
<10月~12月>
<10月(神無月:かんなづき)>
秋晴の候/秋冷の候(上旬)
寒露の候/紅葉の候/錦秋の候/菊花の候(中旬・下旬)
夜長の候/秋麗の候(10月全般)
芸術の秋となりました。
菊花薫り、木の葉も日一日と色づいてまいりました。
<11月(霜月:しもつき)>
霜降の候(初旬)
立冬の候/霜秋の候(上旬・中旬)
落葉の候/晩秋の候/向寒の候(中旬・下旬)
氷雨の候(下旬)
小春日和の候(11月全般、天候による)
紅葉が目にも鮮やかな季節となりました。
吐く息の白さに秋の終わりを感じます。
<12月(師走:しわす)>
初冬の候(上旬)
師走の候/初雪の候(上旬・中旬)
歳末の候(中旬・下旬)
冬至の候(下旬)
寒冷の候(12月全般)
年の瀬の寒さが身にしみる季節となりました。
ポインセチアの美しい紅色が街に彩を添えています。
以上は、ほんの一例です。「時候の挨拶って、こんなにたくさんあるの? 選ぶのが大変だなぁ…」と思ったあなた。最後に、万能のフレーズをお伝えしましょう。
拝啓 時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
「時下(じか)」は「○○の候」に代わる言葉で、季節を問わず年間いつでも通用します。「ご清祥」は先述の通り、会社にも個人にも使用できます。頻繁に挨拶文を書く場合、この一文でOKです!
文例3通を下記に掲載しています。ご活用ください。