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文章スキルを磨く第6回 たった一文字だけれど

文章スキルを磨く第6回 たった一文字だけれど

ビジネスでも私生活でも、読みやすく分かりやすい文章を書きたいものですね。

この連載では、昨日より少しだけ文筆を上達させるスキルや、日本語の豆知識をお伝えします。

今から20年ほど前に、「ら抜き言葉」が日本語の乱れの象徴として、やり玉に挙げられました。その後、「れ足す」「さ入れ」と呼ばれる言葉が現れたことをご存じですか?

今回は、たった一文字を変えるだけで文章を端正に整える方法をご紹介しましょう。


この記事の著者

「ら抜き言葉」とは

さっそくですが、クイズです。

次のうち、正しくない言葉はどれでしょうか?

行ける/来れる/言える/食べれる/見れる/思われる

文法的に正しくないのは「来れる」「食べれる」「見れる」の3つです。

いわゆる「ら抜き言葉」と呼ばれるものです。

「食べれる」は、「食べられる」とするのが正しい表記です。

そして「食べられる」には、尊敬・可能・受身の3つの意味があります。

尊敬 「お客様が召し上がる」

可能 「賞味期限内だから食べることができる」

受身 「ネズミが猫に食べられる」

しかし「ら」抜きにして「食べれる」と言えば「可能」の意味のみになり、これはこれで合理的な言葉なのかもしれません。


「ら抜き」の使用頻度

2000年代当時は「若者言葉」として糾弾(?)されていたのに、今は中高年層もけっこう平気で使っていますよね。

「ら抜き」を使うかどうか、5年ごとに聞き取った調査があります。

(%)

調査実施年

1995

2001

2006

2011

2016

2021

[回答数]

2212

2192

2107

2104

1959

3794

「今年は初日の出が見れた」と言う

47.2

48.4

52.5

「早く出れる?」と言う

44.0

45.1

48.1

「朝5時に来れますか」と言う

33.8

33.8

35.4

43.2

44.1

52.2

「こんなにたくさんは食べれない」と言う

27.2

25.5

26.6

35.2

32.0

33.4

「彼が来るなんて考えれない」と言う

6.7

5.9

5.7

8.1

7.8

4.9

▲NHK放送文化研究所(2022年)

もはや市民権を得た感のある言葉ですが、テレビのインタビューなどでは、「ら抜き」で話している人の字幕は「ら入り」に直して表示されています。

辞書でも「俗語」とされており、まだ正式な日本語とは認められていないようです。


「れ足す言葉」が出現

また近年は、「れ足す言葉」も生まれています。

本来「見られる」と言うべきところを「ら抜き」にして「見れる」と言い、それに「れ」を加えて「見れれる」とする言葉です。

仲間内の会話やインターネットの書き込みには、たくさんの例が見られます。

・メガネなしで3Dが見れるのは快適ですね

・おいしいそばの食べれる店

・楽しいイベントに出れるのでワクワクしちゃう

など、枚挙にいとまがありません。

また、「ら抜き」ではないものの、不要な「れ」を加える場合もあります。

「履く」の可能の形「履ける」に「れ」を足して「履けれる」といった具合です。

・オリンピックに行けるように

・気軽に読める本

・あんまり寝られない

すでに可能の意味を持つ動詞に、さらに可能の助動詞「れる」を組み合わせて、二重の可能表現を作っているわけです。


方言には「れ足す言葉」がある

いかにもイマドキの若者っぽい感じがしますが、こういった表現は方言には古くから存在するそうです。

国立国語研究所が編集した『方言文法全国地図』によると、高知・岡山・静岡・愛知・長野・広島・兵庫・和歌山・滋賀などに「れ足す言葉」が見られるということです。

兵庫や高知には「書けれれる」「着れれれる」のような形さえあるのだとか。

また方言によっては、可能の意味をさらに区別する表現があるそうです。

・自分の能力によって可能となる場合(この子は、もう字が読める)

・状況によって可能となる場合(明るくなったので、文字が読める)

しかし、「れ足す言葉」には、このような区別はありません。

また、「食べれる」のように「ら抜き」にすれば尊敬や受身の意味から切り離せるという便利さも、「れ足す」には見られません。

それに、通常は同じ言葉を2つ重ねると「返す返すも」「戦々恐々」のように強調の意味が感じられることが多いものですが、「れ足す」にはそのような効果はありません。

利点が不明な「れ足す言葉」ですが、徐々に広がっていることは事実です。


「ら抜き」「れ足す」の許容度 

「ら抜き言葉」や「れ足す言葉」を、どの程度許容するか調査したものがあります。

(%)

businessskill-column82_01.png

▲NHK放送文化研究所(2022年)

※自己使用・公用可…ふだん自分でも使う言い方であり、かしこまった場面で使っても構わないと思う

自己使用・公用不可…ふだん自分でも使う言い方だが、かしこまった場面では使わないほうが良いと思う

自己不使用・公用可…ふだん自分では使わない言い方だが、かしこまった場面で使っても構わないと思う

自己不使用・公用不可…ふだん自分では使わない言い方であり、かしこまった場面では使わないほうが良いと思う

さらにこれを年代別に見ると、年齢が高いほど「自己使用」率は低くなる傾向があります。

しかし「公用可」率は50代が最も低く、この調査ではその理由を次のように推測しています。

・50代は若い頃に、「ら抜きはいけない」という世間の風潮が強かった

・50代は社会的な立場上、これらの言葉は仕事の場にふさわしくないと考えている

そして60代以上は「ふだん自分では使わない言い方だが、かしこまった場面で使っても構わないと思う」と答える人が増えています。

年配の人は、若い人の言葉づかいにむしろ寛容なのですね。


「さ入れ言葉」も登場

さらに、次のように不要な「さ」を入れた言葉もよく耳にするようになりました。

・明日は休ませていただきます  ⇒ 明日は休ませていただきます

・今日はこれで帰らせてください ⇒ 今日はこれで帰らせてください

・担当の者を伺わせます     ⇒ 担当の者を伺わせます

・私が読ませていただきます   ⇒ 私が読ませていただきます

「~させる」という表現を「使役」と言います。

使役の助動詞には「せる」と「させる」の2種類があり、付く動詞に違いがあります。

文法的には、五段活用とサ行変格活用の動詞には「せる」が、それ以外の動詞は「させる」が付きます。「休む」「帰る」「伺う」「読む」はすべて五段活用ですから、本来は「せる」が付くのです。

テレビなどで歌手が「歌わさせていただきます」と言うのを耳にしますね。

正しくは「歌わせていただきます」ですが、「させてもらう(許しを得る)」という気持ちを表そうとして、無意識のうちに「さ」で補強する心理が働いているのかもしれません。


「い抜き言葉」にもご注意を

最後に、「い抜き言葉」です。

これは最近の表現ではなく、以前から話し言葉ではよく使われるものです。

「知ってる」「やってる」「見てる」などと、よく言いますよね。

しかし書き言葉としては、砕けた印象を与えてしまいます。文章を書く時には、きちんと「い」を入れたいですね。

・話してます   ⇒ 話してます

・考えてます   ⇒ 考えてます

・対応してます  ⇒ 対応してます

・申し込んでます ⇒ 申し込んでます


「ら」も「れ」も「さ」も「い」も、たった一文字です。しかし話し言葉では許容されても、書き言葉においては、この一文字を丁寧に扱うことによって文を端正に整えることができます。

特にビジネスシーンにおいては、そんな小さな点にも気を配りたいものですね。

そうすれば、あなたの文章スキルは昨日より少しだけ上達するかもしれませんよ。

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bizocean編集部

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