やさしくわかるIT導入補助金
■登場人物
診断士:中小企業診断士、42歳女性。元大手IT企業勤務。
社長:洋菓子店を営む小規模企業社長、64歳男性。パティシエ出身。
あら社長さん、お久しぶりです!今日はいかがされました?
実は「IT導入補助金」に興味がありまして…。
おや、ITが苦手だった社長さんが、どうしてまた?
実はうちの店、コロナで来客が減り、大変なのです。ケーキの味には自信があり、昔から定評を頂いているのに、とても残念です。経理担当の妻は「ネット通販を始めるしかない」と言っています。
それは大変ですね…。で、補助金でどんなことをしたいですか?
お店のホームページを作ろうと考えています。知り合いの制作会社に作ってもらうつもりです。それに、パソコンも1台しかないので、この機に買い増ししたいです。ITの補助金だから、このくらいできるでしょう?
う~ん、それは難しいかもしれません。
えーっ?
■何をする補助金か
IT導入補助金って、そもそも何のための補助金かわかりますか?
導入って言うくらいだから、ITを初めて導入する初心者向けの補助金ではないんですか?
そういうわけではないのです。当補助金サイトのトップには、「中小企業・自営業のみなさまが、ITツール導入に活用いただける補助金です」とあります。
ITツール?
そうです。定型処理作業などの負担を軽減する「自動化・効率化ツール」、社内の情報共有を円滑化する「グループウェア」、経理関係の手作業負担を解決する「財務会計ソフト」、顧客へのアプローチを管理・効率化する「顧客管理ツール」あたりが類型だと思います。
難しい…。
■ITツール
では、そのITツールは、どのようにして選べばいいんですか?
そうですね、まったく見当がつかなければ、管轄の商工会・商工会議所や、よろず支援拠点、私のような中小企業診断士などの支援機関に相談するといいと思います。またIT導入補助金のホームページにも参考になる事例がたくさん紹介されていますよ。
う~む。
相談する時は、自社の経営課題が何かをストレートに伝えることが大切ですよ。で、社長さんがホームページを作りたい、パソコンを増やしたい、と考えるのはなぜですか?
洋菓子のネット通販を行うためです。ホームページから注文が来ればいいなと。
いきなり自社ホームページを立ち上げて、ECまで始めるのは大変じゃないでしょうか。食品ならではの難しさもあるし。人的リソースはありますか?
私はもともと菓子職人なので、ITが苦手です。ITに少し明るいのは経理担当の妻だけで、ほかの従業員もお菓子作りがメインです。
ひとりに依存するのは良くないかもしれません。
でも、現実に来店客が減っているんです。コロナ禍で、対面型の食品販売は敬遠されている気がします。何とか手を打たないと。
ところでレジは?
消費税アップの時に、妻主導でPOSレジを導入しました。私は昔ながらの「チーン」と鳴る方が好きだったのですが…。
奥様、やりますね。ふむふむ、これでやることが見えてきました。ちょっと奥様に電話してみてもいいですか?
■A・B類型(通常枠)と、C・D類型(特別枠)
はい、わかりました。社長さんには、IT導入補助金の「C類型」をお勧めします。
C類型?
IT導入補助金は、従来からある通常枠のA類型(補助金申請額30~150万円未満・補助率1/2)、B類型(同150~450万円以内・補助率1/2)に加え、2021年度は「低感染リスク型ビジネス枠」(特別枠)としてC・D類型があります。社長のめざすコロナ禍対策としてのEC関係はC類型になります。補助上限額は450万円と変わりませんが、補助率が2/3なので、より有利です。またA・B類型では対象にならなかった「PC・タブレット等のハードウェアにかかるレンタル費用」も補助対象になります。
それはいい!わが社に打ってつけですね。
C類型に申請するには、「複数のプロセス間で情報連携されるツールを導入し、複数のプロセスの非対面化や業務の更なる効率化を行うことを目的とした事業」に取り組むことが要件です。ネット通販事業(EC)はまさに該当します。そして申請金額により C-1類型とC-2類型に分かれます。
そういう区分なんですね。
■IT導入支援事業者
そして、ITツールは、「IT導入支援事業者」とよく相談して選んでくださいね。
え?自分の好きなツールを、自分で選ぶわけじゃないんですか?
そう、IT導入補助金は、政府から認定を受けたITツールを取り扱う「IT導入支援事業者」(ITベンダー、サービス事業者)があらかじめ登録されていて、その中から選ぶことが大きな特徴なんです。さっき奥様にお電話したのは、導入したPOSレジの業者が、「IT導入支援事業者」になっているんじゃないかと思って確認したかったからです。思った通り、なっていたので良かったです。
では、その業者に連絡して、ツールを選べばいいんですね?
その通りです。申請の時も、その業者と社長さんが共同で申請書を作る形になりますから、しっかりコミュニケーションを取っておくことが大切ですよ。
わかりました!
■ITツール活用によるネット通販(EC)とデータ連携
社長さんは最初、自社ホームページを立ち上げてネット通販を行うことを考えておられたけれど、それは大変だから、私はショッピングモールへの出店を勧めようか迷っていたんです。でもPOSレジの業者はECカートツールを提供しているから、そちらで始める方がいいと思いますよ。
カートツールって、何ですか?
一言で言えば、インターネット上で商品を販売するための仕組みのことです。「ショッピングカート」や「ECカート」と呼ばれることもあります。カートシステムとして最低限必要な機能は、「WEBサイト上で商品を選んでカート(かご)に入れる」「カートに入れた商品の購入手続きをする」という2つです。イマドキのカートシステムは、顧客管理、商品管理、クーポン発行やポイントシステムなどの多彩な機能を備えているものも多いですよ。
ポイントって、カートツールで発行してたんですか!
まあそうですね。POSレジ業者さんが提供するカートツールは、ホームページ制作機能や、業者さんの運営するお菓子の通販サイトへの出店機能までついていますから、これ1台で社長さんのやりたいことは全部できると思います。何よりPOSレジと完全に連動しているので、オンライン予約注文ができるし、オンライン予約や店頭・電話での予約を一元管理できるのがいいと思います。
確かに、うちの店は、クリスマス前などは電話や来店での予約の処理で大変です。
いきなり通販をスタートするより、まずは「店頭渡しのオンライン予約」を導入してみて、従業員全員で慣れることから始めてはいかがでしょう。オンライン予約ができるだけでも、顧客にとってはコロナ禍の中、不要な来店を削減できるから非対面型ビジネスへの転換になるし、休日や営業時間外でも予約できるから利便性は高まるはずです。
うちの従業員も、繁忙期に予約電話の対応で長時間、手がふさがることがなくなりそうですね。
社長さんのお店は、確か会員カードを発行されていましたね。その顧客情報と、オンライン予約情報をデータ連携し、リピーターを増やすように働きかけることもできますよ。あのツールには、購入頻度に応じたお礼メールや、誕生日前に案内メールを自動で発行する機能もあるはずです。
いろいろできるんですね。ネット通販を始める前に、試してみることは多そうです。
そうですね、その後で通販を始めても遅くないと思います。社長さんの作る洋菓子の味なら、きっと全国で勝負できると思います。頑張ってくださいね!
参考文献:ミラサポplus「補助金虎の巻」補助金の申請事例・IT導入補助金