事業再構築補助金だけじゃない、新規事業に使える補助金その2
2021年度版小規模企業白書によりますと、日本の開業率は、1988年をピークとして低下傾向に転じた後、2000年代を通じて緩やかな上昇傾向で推移してきました。
しかし、足元では再び低下傾向となっています。一方で廃業率は、1996年以降増加傾向で推移していましたが、2010年からは低下傾向で推移しています。
直近データ(2021年度)によりますと、開業率が4.2%、廃業率が3.4%となっており、諸外国と比べて相当低い値となっています。2つの数値ともにコロナ禍の先行きがある程度見通せ、対策予算が止まった段階で廃業率が上昇するのではないかと考えられています。
業種では、「宿泊業、飲食サービス業」や「生活関連サービス業、娯楽業」「情報通信業」が開業廃業ともに高くなっており、新陳代謝の高さがうかがえます。
事業承継・引継ぎ補助金第1回申請受付がスタートしました
先述のデータが示す通り、後継者不足に加え、コロナ禍で大きなダメージを受けた多くの中小企業に廃業の危機が迫っています。そのため、我が国の大切な経営資源が消滅してしまわないよう、国も全力で支援する方針を持っています。
今回は、その代表的施策である「事業承継・引継ぎ補助金」について詳しくお伝えいたします。
今年度は、すでに第1回の申請受付が2022年4月22日から始まっており、この後も昨年の2倍、合計4回の公募を予定しています。
本補助金は「経営革新」「専門家活用」「廃業・再チャレンジ」の3つの類型に分かれていますが、いずれも、一般的な補助金では考えられないような経費まで補助の対象としています。
また、1件のM&A案件に対して、売り手と買い手の双方で申請が可能です。加えて「廃業・再チャレンジ」は、「専門家活用」や「経営革新」と組み合わせて申請を行うことで、補助上限150万円の上積みがされます。
つまり、「経営革新」や「専門家活用」事業で補助を受けてM&Aを実行した後、譲り受けた会社の一部の事業を廃業する場合や、事業再構築によって自社の既存事業の一部を廃止する場合に活用することが可能となっています。
また、この「廃業・再チャレンジ」では、計画書フォーマットが事務局ホームページにアップされており、2ページ半ほどのアンケートに答える形で計画書が作成できるようになっています。
全体の流れ
補助金交付までの流れは、3つの類型でおおよそ共通となっており、事業再構築補助金などと比べるとやや簡便になっています。
まず専門家の支援を受けつつ交付申請を提出すること、次に交付決定がされたのちに申請した計画通りに事業を実施し、実績報告をします。
報告内容の確認を受けたら、最後に補助金の請求を行い、入金を待つ。という流れになっています。
このように、他の補助金と同じく、事業の開始は交付決定を受けた後となっています。
これを守らなければ補助を受けることができなくなってしまいますので、くれぐれもご注意ください。
第1回申請受付はすでに始まっており、具体的な日程は以下の通りです。2回目以降も同じようなスケジュールで進められると考えて、計画・準備を行ってください。
なお、第1回の申請締め切りのみ「事前着手申請」という制度があります。
革新計画などの申請を行う際に一緒に「事前着手申請」の届出をしておき、承認が受けられれば、すでに進めている事業についても遡って、補助の対象となりえます。
つまり、すでに事業承継計画が進んでしまっている案件でも、あきらめる必要はありません。まずは一度専門家にご相談ください。
過去の採択率と活用事例
これだけ手厚い補助金ですが、意外にもその採択率はやや高めとなっています。
M&Aでは、事業再構築など比べると関係者やステークホルダーも多く、計画通りに事業が進まないことも加味しているのかもしれません。
2021年度とは制度が若干変更されていますので一概に比較はできませんが、採択率は以下の通りでした。
1次公募(公募期間:2021/6/11~2021/7/12)
採択件数346件(申請数:412件、採択率:83.9%)
2次公募(公募期間:2021/7/13~2021/8/13)
採択件数330件(申請数:419件、採択率:78.7%)
では、どのような案件で本補助金が活用されているのか、過去の活用事例を見てみましょう。
①買い手支援型
薬局を経営するA社は、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、業績が低迷していました。
そこで、同業のB社を経営統合することによって、既存の経営資源(専門人材や運営ノウハウ)を活かした規模の拡大によって業績回復を図る計画を策定しました。
つまり、シナジーの発揮と事業リスクの低減を目的とした取り組みでした。
一方B社側は、薬剤師など専門人材の不足によって廃業を検討していましたが、この経営統合によって担当のクリニックや地域住民へのサービスはA社の経営によって継続されるため、地元に迷惑をかけずに経営から退くことができました。
今後A社は、新たな拠点を活用した組織活性化だけにとどまらず、今回獲得した新拠点を活かした新たな事業展開を計画しています。
②売り手支援型
自動車整備業C社経営者には一人息子がいましたが、すでに大手企業で活躍しており、事業承継の意思が全くありませんでした。
やむなく経営者は、他にどのような選択肢があるかについて専門家に相談したところ、会社清算を行うと従業員退職金や設備の処分費用など相当大きな支出が必要であることが分かりました。
また、取引先や従業員の再就職先のあっせんなども考えると、とても代表者の手には負えないということになり、譲渡先の探索を始めることとしました。
専門業者や金融機関を通じた探索の結果、従業員など会社のすべてを引き継いでくれる同業のD社を見つけることができました。D社の立地はC社に近接しており、保有設備に若干の違いがあるため、D社としては補完効果を見通したとのこと。
また若い従業員が多いため、C社経営者や従業員がこれまで培ってきたノウハウを提供し、貢献できることも分かりました。
そのため、C社経営者は当面、D社顧問として技術や接客指導などを行いつつ、経営の引き継ぎを進めていく計画です。
このような活用事例から、国が本補助金を設置した目的を十分に理解し、事業計画を立案することで採択率は一段と高まるはずです。
まとめ
本コラムをお読みいただくことで、事業承継・引継ぎ補助金が採択率も高く、活用しやすい補助金であることをお分かりいただけたと思います。
今後、申請をお考えの方は、さっそく以下の3つのことに取り組んでください。
1つは、gBizIDプライムの取得です。
デジタル庁の創設以降、行政手続きはどんどん電子申請に一本化される傾向にあります。まずは取得だけでも先に進めておいて損はありません。
次に、公募要領の熟読です。
自社の取り組みが補助金の交付ルールに合致しているかどうか、どのような手順で進めればよいのか?などを確認してください。
そして、専門家への相談やM&A支援サイトを活用した情報収集を始めてください。
事業承継を成功させている企業の共通点は、「案件が発生する前から計画的に準備を行っていること」です。
これら3つの取り組みに着手しつつ、自社に適した事業承継計画を検討することをお勧めします。
事業承継・引継ぎ補助金WEBサイトはこちら
なお、本補助金による補助を受けられる専門家への委託費は、「M&A支援機関登録制度」に登録された登録FA・仲介業者を活用したものに限定されていますので、注意が必要です。
最後までお読みいただきありがとうございました。