まだ間に合う!簡素化された雇用調整助成金
令和2年7月29日時点での累計支給申請件数は630,066件、累計支給決定件数は514,392件となっています。当初は支給要件等が厳しく、支給申請も支給決定も伸びずに非難が集中しましたが、多くの企業が利用できるように提出書類を減らすなど、様々な見直しが行われてきました。
申請期限の緩和もその1つ。雇用調整助成金は、支給対象期間の最終日の翌日(賃金締め日の翌日)から2か月以内に申請しなければなりませんが、支給対象期間(賃金計算期間)の初日が令和2年1月24日から5月31日までの分は、令和2年8月31日までに申請すれば大丈夫です。過去分の申請もまだ間に合いますから、今一度支給要件などを確認し、利用を検討してみてはいかがでしょうか。
今回は、雇用調整助成金についてご説明します。
※従業員が概ね20人を超える企業の申請を念頭に置いた内容となっています。
過去最多の休業者数と特例措置
令和2年4月7日、緊急事態宣言が発令されました。宣言期間中、企業は営業を自粛したり、出社人数を制限したりしたので、休業を余儀なくされた労働者が続出しました。4月の休業者数は過去最多の597万人を記録しています。5月25日に緊急事態宣言は解除されましたが、5月の休業者数は423万人。6月以降の数字が気になるところです。
【休業者数の推移】
令和2年1月 | 令和2年2月 | 令和2年3月 | 令和2年4月 | 令和2年5月 |
194万人 | 196万人 | 249万人 | 597万人 | 423万人 |
参考:総務省統計局「労働力調査」
さて、こうした事態において企業を支援し、労働者の雇用を守る制度が雇用調整助成金です。
【雇用調整助成金とは】
新型コロナウイルス感染症の影響により事業活動の縮小を余儀なくされた場合に、労働者の雇用維持を図るため、労使間の協定に基づき休業を実施する企業に対して、休業手当などの一部を助成するもの
支給対象は、以下の条件を満たす全ての業種の企業です。
- ① 新型コロナウイルス感染症の影響により経営環境が悪化し、事業活動が縮小している
- ② 最近1か月間の売上高または生産量などが前年同月比5%以上減少している(比較方法に特例措置あり)
- ③ 労使間の協定に基づき休業などを実施し、休業手当を支払っている(休業手当の額は平均賃金の6割以上であることが必要)
なお、企業が本助成金を活用して労働者の雇用維持に努めることができるよう、令和2年4月1日から9月30日までの間を緊急対応期間として、以下のような特例措置が実施されています。
【特例措置の内容】(抜粋)
特例以外の場合の雇用調整助成金 | 4月1日から9月30日までの期間、 全国で以下の特例措置を実施 |
経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主 | 新型コロナウイルス感染症の影響を受ける事業主(全業種) |
生産指標要件:3か月10%以上減少 | 生産指標要件を緩和:1か月5%以上減少 |
雇用保険被保険者が対象 | 雇用保険被保険者でない労働者の休業も助成(緊急雇用安定助成金の創設) |
助成率 中小企業:2/3、大企業:1/2 |
・助成率 中小企業:4/5、大企業:2/3 ・解雇等を行わず、雇用を維持している場合の助成率 中小企業:10/10、大企業:3/4 |
日額上限額:8,330円 | 日額上限額:15,000円 |
支給限度日数:1年100日、3年150日 | 支給限度日数:同左+上記対象期間 |
中小企業と大企業では助成率が異なりますが、次に該当する企業が中小企業です。該当しない場合は大企業となります。
小売業(飲食店を含む) | 資本金5,000万円以下又は従業員50人以下 |
サービス業 | 資本金5,000万円以下又は従業員100人以下 |
卸売業 | 資本金1億円以下又は従業員100人以下 |
その他の業種 | 資本金3億円以下又は従業員300人以下 |
申請の流れは?
雇用調整助成金の支給に関し、まずはその流れをみてみましょう。
- ① 休業期間や日数、休業手当の支払率などの具体的な内容を計画し、労使で協定を作成
- ② 協定に基づき休業を実施し、労働者に休業手当を支払う
- ③ 休業の実績に基づき、支給申請をする
- ④ 労働局で審査を行い、支給決定がされると支給決定額が口座に振込まれる
申請先は、事業所の住所を管轄する労働局またはハローワークです。申請期限は、賃金締め日の翌日から起算して2か月以内です(先にみた通り、過去分の特例あり)。
申請書類等を確認しよう
次に、申請に必要な書類等をみてみましょう。
書類名 | 添付資料など | 提出時期 |
様式新特第4号 雇用調整事業所の事業活動の状況に関する申出書 |
月ごとの売上などがわかる書類を添付します。売上簿や収入簿、レジの月次集計など既存書類のコピーでかまいません | 初回のみ |
様式新特第6号 支給要件確認申立書・役員等一覧 |
役員名簿を添付した場合は役員等一覧の記入は不要です | 支給申請ごと |
様式新特第9号 休業・教育訓練実績一覧表 |
自動計算機能付きの様式が公開されています | 支給申請ごと |
様式新特第8号 助成額算定書 |
自動計算機能付きの様式が公開されています ※所得税徴収高計算書を用いる場合は、当該計算書を添付します |
支給申請ごと |
様式新特第7号 (休業等)支給申請書 |
自動計算機能付きの様式が公開されています | 支給申請ごと |
休業協定書 | 労働組合がある場合:組合員名簿 労働組合がない場合:労働者代表選任書(実績一覧表に署名または記名・押印があれば省略できます) |
初回のみ (失効した場合は改めて提出) |
事業所の規模を確認する書類 | 事業所の従業員数や資本額がわかる書類(既存の労働者名簿及び役員名簿でかまいません) ※中小企業の人数要件を満たす場合には、資本額がわかる書類は不要です |
初回のみ |
労働・休日の実績に関する書類 | 出勤簿やタイムカードの写しなど、休業させた日や時間がわかる書類を添付します。手書きのシフト表などでもかまいません。なお、必要に応じ、就業規則や労働条件通知書の写しなどが求められます | 支給申請ごと |
休業手当・賃金の実績に関する書類 | 賃金台帳や給与明細の写しなど、休業手当や賃金の額がわかる書類を添付します。なお、必要に応じ、給与規定や労働条件通知書の写しなどが求められます | 支給申請ごと |
誤解が多い助成額
助成額に関しては誤解が多いので、その計算方法を確認しておきましょう。
【助成額の計算式】
助成額 = 休業を実施した場合に支払った休業手当に相当する額 × 助成率
※1人1日あたり15,000円が上限
休業を実施した場合に支払った休業手当に相当する額は、次のいずれかで算出します。
- ① 前年度1年間における雇用保険料の算定基礎となる賃金総額を、前年度1年間における1か月平均の雇用保険被保険者数及び年間所定労働日数で割った額に、休業手当の支払率をかけた額
- ② 判定基礎期間の初日が属する年度または前年度の任意の月に提出した給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書の支給額を人員及び月間所定労働日数で割った額に、休業手当の支払率をかけた額
- ③ 小規模事業主(従業員がおおむね20人以下)の場合は、実際に支払う休業手当
要するに、①は賃金総額を参考に算出、②は所得税額を参考に算出するということです。
実際に支払った休業手当をもとに助成額を計算できるのは、③の小規模事業主(従業員が概ね20人以下)に限られます。
助成率は、中小企業は4/5、大企業は2/3です。労働者の解雇等を行わず雇用を維持している場合には、中小企業は10/10、大企業は3/4となります。
以上、従業員が概ね20人超の企業における申請を念頭に雇用調整助成金の内容をみてきました。従業員が概ね20人以下の事業主については、別途、小規模事業主向けの申請マニュアルが出ていますから、そちらを参考にしてください。また、休業した労働者が雇用保険の被保険者以外の場合には、「雇用調整助成金」ではなく「緊急雇用安定助成金」が支給されます。別途、緊急雇用安定助成金の申請マニュアルが出ていますので、ご確認ください。
いまだコロナ過は収束せず、各地で再び休業要請が出されるかもしれません。大阪府では5人以上の飲み会自粛を呼びかけ、東京都では酒類を提供する飲食店とカラオケ店に営業時間の短縮を要請するとしています。多くの企業が厳しい事業経営を迫られていますが、助成金を活用して雇用を守り、事業の継続を図っていただきたいと思います。
※本内容は、令和2年7月31日現在、厚生労働省より公表されている情報に基づいております。申請にあたっての詳細は、管轄の労働局またはハローワークに確認をお願いいたします。