退職金制度を整備する中小企業への助成があります!
退職金制度を設けるかどうかは企業の自由です。しかし、労働者が企業を選ぶ場合、退職金制度の有無を気にすることはあるでしょう。
企業規模が小さくなるほど、退職金制度がない企業割合が増加します。何らかの形で退職金制度を整備したいと考えている企業もあるかもしれません。
「中小企業退職金共済制度」を利用すれば、比較的簡単に退職金制度を整備できます。しかも、国からの助成も受けられます。
今回は、新たに退職金制度を設けた場合の助成制度をご紹介します。
多くの企業が設ける退職金制度
退職金制度を設けることは法律上の義務ではありません。しかし、厚生労働省「平成30年就労条件総合調査」によると、退職給付(一時金・年金)制度がある企業割合は80.5%となっており、多くの企業が退職金制度を設けています。
ただし、企業規模別にみてみると、「1,000人以上」が92.3%、「300~999人」が91.8%、「100~299人」が84.9%、「30~99人」が77.6%となっており、規模が大きな企業ほど退職金制度を設けていることが分かります。
企業規模 | 退職給付(一時金・年金)制度がある | 退職給付(一時金・年金)制度がない |
1,000人以上 | 92.3% | 7.7% |
300~999人 | 91.8% | 8.2% |
100~299人 | 84.9% | 15.1% |
30~99人 | 77.6% | 22.4% |
(参考:厚生労働省「平成30年就労条件総合調査」)
労働者からすると、退職金制度はあって当たり前という意識が強いですから、人手不足時代を迎えた今、退職金制度の有無は人材確保に大きな影響を与えそうです。
そもそも退職金制度には、人材の囲い込みという側面があります。高度成長時代、企業は長期にわたり人材を確保するため、終身雇用や年功序列制度を設け、また、長く勤務すればするほど金額が大きくなる退職金制度を設けました。一般に、定年を待たずに自己都合退職をすると退職金額が減らされることからも、長期勤務を期待していることが分かります。
退職金の原資をどうするか
退職金制度を設けた場合、退職時に退職金を支払うことは企業と労働者との約束になります。お金がないから払えません、ではトラブルを招くだけです。制度を設けた以上、企業は何らかの準備をしておく必要があります。
先の調査から、退職一時金制度がある企業について、支払準備形態別の企業割合をみてみると、「社内準備」が57.0%、「中小企業退職金共済制度」が44.0%、「特定退職金共済制度」が11.5%となっています(複数回答)。
企業規模 | 社内準備 | 中小企業退職金 共済制度 |
特定退職金 共済制度 |
その他 |
全体 | 57.0% | 44.0% | 11.5% | 10.5% |
1,000人以上 | 91.4% | 0.5% | 2.6% | 8.9% |
300~999人 | 81.6% | 15.1% | 9.0% | 7.6% |
100~299人 | 67.9% | 36.5% | 9.5% | 9.7% |
30~99人 | 49.8% | 50.8% | 12.7% | 11.1% |
(参考:厚生労働省「平成30年就労条件総合調査」)
「社内準備」に次いで多いのが「中小企業退職金共済制度」です。規模の大きな企業は経営体力がありますから「社内準備」で退職金の支払いに備えることができますが、小規模企業はそうはいきません。そこで、規模が小さい企業に活用されているのが「中小企業退職金共済制度」、一般には「中退共」と呼ばれている制度です。
中小企業退職金共済制度とは?
中退共制度は、昭和34年に中小企業退職金共済法に基づき設けられた中小企業のための国の退職金制度です。
【制度の目的】
中小企業者の相互共済と国の援助で退職金制度を確立し、これによって中小企業の従業員の福祉の増進と、中小企業の振興に寄与することを目的としています
制度の仕組みは次の通りです。
【制度の仕組み】
事業主が中退共と退職金共済契約を結び、毎月の掛金を金融機関に納付します。従業員が退職したときは、その従業員に中退共から退職金が直接支払われます
労働者の退職金が中退共に積み立てられていますから、会社にお金がないから払えないという事態にはなりません。労働者にとって、大きなメリットといえます。
一方、会社のメリットとしては、毎月の掛金を支払うだけで退職金額の約束をしなくてもよいということです。例えば、勤続20年で退職金1,000万円と約束してしまうと、20年後には必ず1,000万円を支払わなければなりません。しかし、中退共を利用すれば、20年間掛金を支払う義務はありますが、20年後の退職金額は中退共に積み立てられた金額等となります。
退職金 = 基本退職金 + 付加退職金
基本退職金 | 掛金月額と納付月数に応じて固定的に定められている金額で、制度全体として予定運用利回りを1.0%として定められた額です。なお、予定運用利回りは、法令の改正により変わることがあります |
付加退職金 | 基本退職金に上積みするもので、運用収入の状況等に応じて定められる金額です |
そしてもう1つのメリットが、新しく中退共制度に加入する事業主に対して、国からの助成があるということです。
【助成内容】
①掛金月額の2分の1(従業員ごと上限5,000円)を加入後4か月目から1年間、国が助成
②パートタイマー等短時間労働者の特例掛金月額(掛金月額4,000円以下)加入者については、①に次の額を上乗せして助成
・掛金月額2,000円の場合は300円
・掛金月額3,000円の場合は400円
・掛金月額4,000円の場合は500円
しかも、中退共制度に加入した企業に、独自の補助金制度を設けている地方自治体もあります。例えば、東京都の例をみてみると、1都2区9市で助成をしています(令和2年8月現在)。
【東京都の助成例】(抜粋)
自治体名 | 補助金の額 |
東京都 | 東京都正規雇用等転換安定化支援助成金に申請した事業主で、かつ退職金制度が無く、新たに中退共制度に事業主として加入した者に10万円を加算する |
荒川区 | 被共済者1人につき、当該退職金共済契約を締結した日の属する月から起算して12ヶ月分の掛金納付額に2分の1を乗じた金額。被共済者1人につき2万円を限度 |
葛飾区 | 従業員ごとの掛金総額に3分の1を乗じて得た額(10円未満切捨て)を合計した額。年額50万円を限度 |
青梅市 | 掛金月額5,000円を限度とし、その10% |
府中市 | 被共済者1人1月480円以下。ただし1年間の補助金額は1事業所当たり10万円を上限とし、補助対象者は加入から10年を超えない従業員とする |
西東京市 | 被共済者1人1月500円、掛金2,000円のとき1人1月300円 |
(参考:独立行政法人勤労者退職金共済機構HP)
その他、神奈川県では12市10町、埼玉県では16市3町、千葉県では16市などとなっています。最も多い自治体は長野県で、14市12町13村で助成を行っています。
モデル退職金と掛金設定
参考までに、東京都「中小企業の賃金・退職金事情(平成30年版)」から、モデル退職金をみておきます。モデル退職金とは、卒業後すぐに入社し、普通の能力と成績で勤務した場合の退職金水準をいい、定年時の支給金額は、高校卒が11,268,000円、高専・短大卒が11,066,000円、大学卒が12,034,000円となっています。
中退共の掛金月額は事業主が決めることができますから、こうしたモデル退職金などを目安に決めていただければと思います。
【掛金月額の種類】
5,000円 | 6,000円 | 7,000円 | 8,000円 |
9,000円 | 10,000円 | 12,000円 | 14,000円 |
16,000円 | 18,000円 | 20,000円 | 22,000円 |
24,000円 | 26,000円 | 28,000円 | 30,000円 |
パートタイマー等短時間労働者の場合は、2,000円、3,000円、4,000円も選択できます。
掛金月額は、いつでも増額変更することができますが、掛金月額の減額は次のいずれかの場合に限って行うことができます。
・掛金月額の減額をその従業員が同意した場合
・現在の掛金月額を継続することが著しく困難であると厚生労働大臣が認めた場合
掛金月額の減額には条件がありますから、まずは経営的に無理のない範囲で掛金を設定してください。
退職金制度が整備されているという状況は、この会社で長く勤めてほしいという従業員へのメッセージとなります。採用段階でのアピールポイントとなるだけでなく、今すでに働いている従業員の定着にもつながるでしょう。中退共を1つの選択肢として、退職金制度の整備を考えてみてはいかがでしょうか。