もしも経理をやることになったら… 経理の仕事シリーズ 経理Q&A⑥ 「引当金」「貸倒引当金」
初めて経理担当者になられた方に向けて経理の仕事を解説する経理の仕事シリーズ。
今日は引当金、特に貸倒引当金を中心にQ&A形式で解説していきます。
1.引当金とはどのようなものですか?
企業会計原則において引当金は次のように定義されています。
将来の特定の費用又は損失であって、その発生が当期以前の事業に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積もることができる場合には、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰入れ、当該引当金の残高を貸借対照表の負債の部または資産の部に記載するものとする。
この定義から、引当金を計上するためには、
- 「将来の特定の費用又は損失」
- 「その発生が当期以前の事業に起因」
- 「発生の可能性が高く」
- 「その金額を合理的に見積もることができる」
という要件を満たす必要があります。
引当金は、将来発生する可能性が高い費用または損失に対して、事前に準備する経理処理をいいます。
2.引当金の種類について教えて下さい。
引当金は大きく分けて2種類あります。
(1)評価性引当金
評価性引当金は、今持っている資産の価値が将来下がる可能性がある場合に計上する引当金です。
評価性引当金の代表は、貸倒引当金です。貸倒引当金は、売掛金などの債権を回収することが難しくなることを想定して、一定額を引き当てるものです。
取引先が倒産した場合は、売掛金の回収ができなくなるために引当金を設定するものです。
<ポイント>
貸倒引当金は貸借対照表の資産の部にマイナス表示されます。
<貸借対照表における表示>
売 掛 金 5,000,000
貸倒引当金 △100,000
このケースでは売掛金500万円が計上されており、後日取引先から500万円入金される予定のものです。しかし、売掛金500万円のうちの10万円は回収が難しくなる可能性が高いことから貸倒引当金としてマイナス計上しています。
貸倒引当金10万円をマイナス計上していますが、この時点では回収不能になっているわけでは無いことに注意しましょう。
(2)負債性引当金
負債性引当金は、将来費用計上の可能性が高い場合に計上する引当金であり、「賞与引当金」「退職給付引当金」「修繕引当金」などがあげられます。
賞与、退職金、修繕費などはいずれも支払額は確定していませんが、将来支出する可能性が高いために負債性引当金として計上します。
<主な負債性引当金>
名称 |
内容 |
賞与引当金 |
賞与の支払いに備えて計上される引当金 |
退職給付引当金 |
退職金の支払いに備えて計上される引当金 |
修繕引当金 |
1年以内の修繕費用に備えて計上される引当金 |
売上割戻引当金 |
売上割戻に備えて計上される引当金 |
製品保証引当金 |
製品保証の修理、交換などに備えて計上される引当金 |
返品調整引当金 |
返品による損失に備えて計上される引当金 |
<ポイント>
評価性引当金が資産の部にマイナス表示されるのに対して、負債性引当金は負債の部に表示されます。
評価性引当金は資産価値を減少させるためにマイナス表示となっていますが、負債性引当金はマイナス表示では無く、そのまま計上することに注意しましょう。
3.貸倒引当金の引当額はどのように決められますか?
貸倒引当金の引当額は次の2つの方法により決められます。
(1)個別評価
個別評価は特定の債権において貸倒の可能性が高く、回収が見込めないと判断した場合に債権毎に引当額を算出するものです。
個別評価の計上要件は下記に記しますが、民事再生法、会社更生法などの再生手続きを開始したケースであり、回収不能になる可能性が高い債権であることが分かります。
<個別評価の計上要件>
種類 |
内容 |
法律基準による債権 |
・更生計画認可の決定(会社更生法) ・再生計画認可の決定(民事再生法)など |
実質基準による債権 |
・債務超過により金銭債権の一部が回収できない場合 |
形式基準による債権 |
・会社更生法の更生手続開始の申立て ・民事再生法の再生手続開始の申立てなど |
実質基準による債権は、税務調査の際によく見られる項目です。
実質基準について国税庁HPで下記のような説明をしています。
債務者につき、債務超過の状態が相当期間継続し、かつ、その営む事業に好転の見通しがないことにおける「相当期間」とは、「おおむね1年以上」とし、その債務超過に至った事情と事業好転の見通しをみて判定する。
実質基準にて判定する場合、取引先から決算書を入手できない場合は「債務超過であるか?」
「事業に好転の見通しがあるか?」などは分からないため、回収可能性を判断することは困難です。
実質基準により貸倒引当金を設定する場合は、税理士などの専門家に相談することをお勧めします。
(2)一括評価
一括評価は、今までの売掛金の回収不能実績から貸倒引当金を算出するものです。
一括評価の場合は、個別評価のように債権毎の評価ではなく、「期末の債権額×繰入率」によって計算します。
繰入率は過去3年間の貸倒損失額の発生割合にて計算します。これを貸倒実績率といいます。
ただし期末資本金1億円以下の法人は法定繰入率にて計算することも認められています。
<主な法定繰入率>
業種 |
法定繰入率 |
卸売業・小売業 |
10/1,000 |
割賦小売業 |
7/1,000 |
製造業 |
8/1,000 |
金融・保険業 |
3/1,000 |
その他 |
6/1,000 |
注)令和3年4月1日前に開始した事業年度については、上記の「割賦販売小売業」の法定繰入率は13/1,000となります。
4.引当金の仕訳について教えて下さい。
貸倒引当金を例に引当金の仕訳を説明します。
<仕訳の具体例>
(1)決算にあたり保有している売掛金500万円に対して貸倒引当金1%にて見積もり貸倒引当金として計上した。
借方 |
貸方 |
貸倒引当金繰入額 50,000円 |
貸倒引当金 50,000円 |
(2)翌期において、保有している売掛金1,000万円に対して貸倒引当金1%にて見積もり貸倒引当金として計上した。
この場合処理方法が2通りあります。
①洗替法
洗替法にて処理する場合は、前期に引き当てた貸倒引当金を一度戻し入れます。
そして、今期発生した貸倒引当金を新たに引き当てます。
借方 |
貸方 |
|
|
貸倒引当金を戻し入れする際は「貸倒引当金戻入益」という勘定科目を使います。
②差額補充法
差額補充法にて処理する場合は、前期繰入した貸倒引当金との差額を新たに貸倒引当金として繰入します。
今回の事例は、今期に貸倒引当金として100,000円計上しますが、前期に既に50,000円計上しており、差額の50,000円を貸倒引当金として計上することになります。
借方 |
貸方 |
貸倒引当金繰入額 50,000円 |
貸倒引当金 50,000円 |
5.貸倒引当金と貸倒損失の違いについて教えて下さい。
貸倒引当金は、売掛金などの債権を回収することが難しくなることを想定して、一定額を引き当てるものです。この時点では売掛金は回収不能にはなっていません。
貸倒損失は売掛金が回収不能になった場合に計上するものです。
貸倒損失の適用要件は下記のとおりになりますので、参考にして下さい。
<貸倒損失の要件>
①金銭債権が切り捨てられた場合
②金銭債権の全額が回収不能となった場合
③一定期間取引後弁済がない場合等
③の「一定期間取引後弁済がない場合」とは、「継続的な取引を行っていた債務者の資産状況、支払能力等が悪化したため、その債務者との取引を停止した場合において、その取引停止の時と最後の弁済の時などのうち最も遅い時から1年以上経過したとき」と定義されています。
継続的な取引ではなく、たまたま取引を行った債務者に対する売掛債権についてはこの取り扱いが適用されません。
最後に
今回は引当金、特に貸倒引当金を中心に解説してきましたが、いかがだったでしょうか。
引当金は経理にまだ慣れていない方にとっては、分かりにくい論点だと思います。
しかし、十分な知識が無いと税務調査などで貸倒引当金の計上が認められないこともあり得ます。
この記事を読んでいただき、引当金の知識を深めていただければ幸いです。