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運送系企業の事例:ITでできることは徹底的に自動化し作業の質を高める

他社はどうしてる? 成功事例で学ぶDX(デジタル・トランスフォーメーション)

運送系企業の事例:ITでできることは徹底的に自動化し作業の質を高める

この記事の著者
株式会社月刊総務 代表取締役社長   戦略総務研究所 所長 

誰でもできる仕事の自動化

タスク分解。何度も紹介している言葉だが、その意味は、目の前の仕事を可視化して、「どこまでを人(従業員)が行い、どこからテクノロジーに置き換え、残りをどのようにBPO(アウトソーシング)するか」を考えることである。その本質は、得意な人に、得意なことを任せることである。

同じ作業の繰り返しは、テクノロジーなりシステムやRPAに置き換える。外部ができる仕事は外の「プロ」に任せる。そして、対人の仕事等の感情労働は人である従業員が対応する。あるいは、無から有を作り出す、企画立案、戦略立案などの考える仕事は、それを得意な人が行うのである。

タスク分解は目的ではなく手段。往々にして効率化が目的化してしまうことが多い。管理部門の効率化は、それ自体が目的ではなく、本来やるべき仕事を行うためのリソース作りのためである。得意な仕事ができる時間的余裕を作るために行う。

となると、そもそも本来やるべき仕事は何なのか、それを定めてから効率化、タスク分解を行うべきなのだ。そうでないと、管理部門で人的リソースができると、多くの企業で人手が足りない現場に異動、そのような事態になり、結果、少ない人数で多くの仕事を回さなければならない状態に陥ってしまうのだ。

タスク分解の、もう一つの観点として挙げられるのが、誰がやっても変わらない仕事を自動化する、というものがある。人が行うから、あるいは、その人が行うから付加価値が付く、価値が上がる。そのようなことが生じえない、誰でもできて、価値向上が望めない仕事は仕組み化する、システム化してしまうのだ。

今回紹介するのは、運送系の企業の事例。後者の誰がやっても変わらない仕事を徹底的に自動化することで、アナログ部分の仕事の質を高めた事例である。結果、それが働き方改革に結び付いた事例を紹介する。


働き方改革は結果として実現するもの

100名弱の引越をメインとした運送系の企業。数年前から、現場作業の徹底的な自動化を進めている。特に、誰がやっても変わらないような仕事にフォーカスして、それを自動化している。手掛けたのは、受発注業務。Web上で予約が完了する。データが残るので、「言った、言わない」というようなコミュニケーションロスも減った。お客さまとのトラブルや従業員のモチベーション低下といったリスクも減らすことができる。

さらに、アルバイトの登録からシフト管理、給与支払いまでを一元管理できるスタッフ管理システムを自社開発し、200名を超えるアルバイトの給与精算処理を短時間で処理している。さらに、運送業務の裏方業務の改善も手掛けており、将来的には受注業務は全てシステム化し、コールセンター業務はコンシェルジュとしての役割に進化させようとしている。まさに、人にしかできない仕事であり、人により価値があげられる仕事にフォーカスするための業務の自動化である。

この企業は、ITでできることは徹底的にIT化して、究極のアナログである引越作業の品質を高めて成果を出しているのだ。アナログ作業の質を高めるには、まさに人づくりが必要となる。その人にフォーカスするためにも、誰でもできる仕事を徹底的に自動化しているのだ。人づくりにフォーカスしていくことは、いかに従業員がモチベーション高く仕事をしていくか、ということになり、それを追求していくことが結果として働き方改革につながった。

数年前から働き方改革が、政府の大号令とともに進み始めたが、当初は働き方を変えることが目的となっており、一部で働かせ方改革となったきらいがあった。そもそも働き方改革は、人手不足に端を発した部分もあり、生産性の向上を目的とする第二段階に入った。この会社の事例のように、従業員のモチベーションが向上することは、とりもなおさず生産性が向上することであり、そのための手段としての働き方改革が進み始めた。

しかし、多くの企業を取材する際に感じることは、働き方改革は結果である、ということだ。この会社も、「結果として働き方改革につながった」と記したが、働き方改革に成功している企業の多くは、働き方改革を意識せずに、いろいろと取り組んだ結果、それが世に言うところの働き方改革となった、そのように言うところが多い。そもそも企業のあり方を考え直した、経営理念の実現を目指した、ここの会社のように従業員のモチベーションの向上を目指した、そのために結果として働き方を変えることになり、成果につながったと。


DXもテクノロジーありきではない

コロナ禍により、働き方改革という言葉ではなく、DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が喧伝されるようになった。このDXも先述してきたことと同じように、テクノロジーを活用することが目的ではない。デジタルトランスフォーメーションを推進する協会の方に取材したときにお聞きしたことが、トランスフォーメーションありきである、ということだ。

トランスフォーメーションとは、変態ということ。そもそも変態とは、動物の正常な生育過程において形態を変えることを表す。企業においては変革であり、その変革を成し遂げるためにテクノロジーを使うことである。Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)より、Transformation With Digital であると盛んにお話しされていた。

どうしても日本においては、How、つまり、どのようにするか、各論に目が行きがちであり、ともすると、デジタルトランスフォーメーションもテクノロジーをいかに導入するかが目的となりがちである。そうではなく、まずは、Why、なぜデジタルトランスフォーメーションが必要なのか、そして自社としてはデジタルトランスフォーメーションで何を実現したいのかを考え、そのための方法としてのテクノロジーの導入となるのだ。

今回のコロナ禍に当てはめてみて考えると、どのようにしてデジタル押印システムを導入するかから考えるのではなく、なぜリモートワークが必要なのか、どのようなリモートワークを実現したいのか、そのためには何が必要なのか、その一つとしてのデジタル押印なのである。

これからますますデジタルトランスフォーメーションという言葉が新聞紙上含め、いろいろなところに出てくることだろう。まずは落ち着いて、自社はどうなりたいのか、腰を据えて考えたいものである。

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著者プロフィール

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豊田 健一

株式会社月刊総務 代表取締役社長 戦略総務研究所 所長

早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社リクルートで経理、営業、総務、株式会社魚力で総務課長を経験。日本で唯一の総務部門向け専門誌『月刊総務』前編集長。現在は、戦略総務研究所所長、(一社)ファシリティ・オフィスサービス・コンソーシアム(FOSC)の副代表理事として、講演・執筆活動、コンサルティングを行う。

毎日投稿 総務のつぶやき 

毎週投稿 ラジオ形式 総務よもやま話

毎月登場 月刊総務ウェビナー

著作

マンガでやさしくわかる総務の仕事』(日本能率協会マネジメントセンター) 

経営を強くする戦略総務』(日本能率協会マネジメントセンター) 

リモートワークありきの世界で経営の軸を作る 戦略総務 実践ハンドブック』(日本能率協会マネジメントセンター)

講演テーマ:総務分野

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