第2回:青色申告と白色申告
2回目となる確定申告のコラム、今回は「青色申告」と「白色申告」について取り上げます。
青色申告と白色申告は、一体どのような点で異なるのでしょうか。
また、「65万円」「55万円」「10万円」という3種類の青色申告特別控除額や、住民税や国民健康保険料との関係についても触れているので、ぜひ参考にしてください。
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青色申告と白色申告
個人で商売をされている方が確定申告を行う場合、青色申告と白色申告のどちらかで申告を行います。節税効果が高いほうが青色申告ですが、白色申告よりも手間がかかります。
青色申告と白色申告の違い
相違点 |
青色申告 |
白色申告 |
---|---|---|
申請書の提出 |
必要 |
不要 |
記帳のしかた |
複式簿記(原則) |
単式簿記 |
確定申告提出書類 |
損益計算書・貸借対照表 |
収支内訳書 |
青色申告特別控除 |
65万円、55万円もしくは10万円 |
不可 |
純損失の繰越 |
3年間繰越可能 |
不可 |
専従者給与の経費算入 |
可能 |
不可(事業専従者控除として定額を控除可) |
家事関連費用の経費按分 |
可能 |
50%超を超えるもののみ可 |
貸倒引当金の計上 |
可能 |
不可 |
30万円未満の資産の一括費用計上 |
可能 |
不可 |
青色申告で申告するための手続き
白色申告で確定申告をしていた人が、青色申告に変更しようとする場合は、その変更しようとする年の3月15日までに、納税地の所轄税務署に「青色申告の申請書」を提出する必要があります。
他方、その年に新規開業した人は、業務を開始した日から2カ月以内に提出すればよいことになっています。ここでいう業務の開始の日は、開業届に記載することになっています。
なお、開業届の提出期限は、業務開始の日から1カ月以内です。開業届と青色申告の承認申請書の提出期限は異なりますが、実務上は、一緒に提出することが多いです。
【青色申告の承認申請書の提出期限】
- 白色申告者が青色申告者へ
→その年の3月15日までに提出 - その年に開業した人
→業務開始の日から2カ月以内
「複式簿記」と「単式簿記」
原則的に、青色申告の条件として、収支の状況だけではなく、資産や負債の状態も記載しなければなりません。青色申告決算書の貸借対照表が、資産と負債の状態を表す書類になります。これを作成するために、記帳の方法として「複式簿記」を用いることが必要になります。
他方、白色申告の場合は「単式簿記」を用いて記帳するのみで大丈夫です。
なお、一般的には「単式簿記」のほうが簡便です。
「単式簿記」と「複式簿記」
記帳は「日々の取引を記載すること」です。例えば、「消耗品として電球を550円で購入した」という取引であれば、
日付 |
摘要 |
金額 |
残高 |
---|---|---|---|
2020/6/30 |
電球2個 |
消耗品費550 |
1050 |
という記帳になります。なお、このような現金の動きのみに対して行う記帳方法を「単式簿記」といいます。よく言われるのが、「お小遣い帳」と同じようなものです。
他方、「複式簿記」で記帳するとどうなるでしょうか。
日付 |
摘要 |
借方 |
貸方 |
---|---|---|---|
2020/6/30 |
電球2個 |
消耗品費550 |
現金550 |
上記は「消耗品として電球を550円で購入した。なお、支払手段は現金によって行った。」という取引です。
記載する項目が多くなりましたね。消耗品として購入した事実はどちらも記載していますが、その決済手段まで記載する点が増えました。
このように、ひとつの取引に対して、2つ以上の科目(項目)を記入する記帳方法を複式簿記といいます。
なぜ、「複式簿記」という面倒な方法によって記帳するのか。それは、「青色申告によって『特別控除』という特典を受けることができる代わりに、資産と負債の状態も申告してください」という要請にあります。
55万円控除と65万円控除の違い
青色申告特別控除額は「65万円」「55万円」、そして「10万円」という3種類の控除額があります。これらの特典に関する要件の違いを見ていきたいと思います。
55万円控除の要件 |
---|
(1)不動産所得(事業的規模)又は事業所得が生ずる事業を営んでいること |
(2)記帳を正規の簿記の原則(複式簿記・発生主義)によって記帳していること |
(3)確定申告書に貸借対照表(資産と負債の状態)と損益計算書を添付していること |
(4)特別控除額を申告書類に記載していること |
(5)確定申告を法定期限内に行っていること |
65万円控除の要件 |
---|
(1)不動産所得(事業的規模)又は事業所得が生ずる事業を営んでいること |
(2)記帳を正規の簿記の原則(複式簿記・発生主義)によって記帳していること |
(3)確定申告書に貸借対照表(資産と負債の状態)と損益計算書を添付していること |
(4)特別控除額を申告書類に記載していること |
(5)確定申告を法定期限内に行っていること |
(6)次のいずれかに該当していること
|
参考:国税庁「青色申告特別控除」
電子帳簿保存を行う、もしくはe-Taxによる電子申告を行うことにより、55万円控除から65万円控除にアップします。電子帳簿保存は、請求書や領収証、作成した帳簿書類などを電子データとして保存しておく方法です。
また、e-Taxとは国税庁が公開している申告システムで、インターネットを通じて電子的に申告を行うことができます。
私見ですが、現在のところ、どちらが簡単かといいますと、後者であると思います。手順としてはe-Taxにて、住所氏名などの個人情報を入力して、利用者識別番号(ID)とパスワードを取得します。その後、システム内にてログインして、所得税の申告を行う流れになります。
55万円控除と10万円控除の違い
55万円控除の条件を満たせない青色申告者は10万円の控除を選択することになります。
例えば、次のような青色申告者は10万円の控除を選択します。
- 不動産所得がある人で、事業的規模でない場合 ※
- 複式簿記で記帳できなかった場合
- 確定申告書に貸借対照表を添付できない場合
- 確定申告の法定期限を守れなかった場合 等
※ 不動産所得の事業的規模に関しての判断
不動産所得に関しては、事業的規模でないと、55万円の控除が認められません。事業的規模かどうかについては、社会通念上事業としての規模を有するかによって判断されます。
実質的に判断されるといっても、基準がないと困りますね。そこで、国税庁によって、次のような基準を示して、これらに当てはまれば、原則として事業として行っているものとして取り扱う旨が示されています。
- (1)アパート等については、独立して賃貸できる部屋数がおおむね10以上
- (2)戸建てに関しては、おおむね5棟以上
10万円控除と白色申告の違い
ところで、青色申告特別控除10万円と白色申告(控除なし)との違いは何でしょうか。
青色10万円 |
白色申告 |
|
---|---|---|
青色申告の承認申請書の提出 |
必要 | 不要 |
帳簿付け・記帳方法 |
必要・簡易記帳 | 必要・簡易記帳 |
決算書の様式 |
青色申告決算書 | 収支内訳書 |
青色申告承認申請書の提出
青色申告の承認申請書を提出していないと、自動的に白色申告者になります。
なお、青色申告承認申請書を提出後、申告時に青色申告の要件を満たせなかったことなどにより、白色申告として申告することは可能です。ただし、今年度だけでなく来年度以降も白色申告を行う場合は「青色申告取り止め届出」を税務署に提出する必要があります。提出期限は青色申告を取りやめようとする年の翌年3月15日までです。
帳簿付け / 記帳方法
青色申告(10万円控除)、白色申告ともに取引を帳簿につけることが必要です。簡易記帳とは、複式簿記などの正規の簿記に代わって、現金出納帳、売掛帳など各種補助簿を記帳する方法です。
ただし、白色申告の記帳にあたっては、一つ一つの取引ごとではなく、日々の合計金額のみをまとめて記載するなど、簡易な方法で記載してもよいことになっています。
決算書の様式
確定申告の際に添付する様式が異なります。
具体的には、青色申告を行う場合、「青色申告決算書」を、白色申告の場合は「収支内訳書」を添付することになっています。「青色申告決算書」のほうが記載する項目が多く、煩雑であるといえるかもしれません。
青色申告の10万円と白色申告の記帳方法は、ほぼ同じと考えてよいと思います。そうすると、主な違いは「青色申告の承認申請書を提出しているか」であり、これを提出しているかによって、申告時に青色10万円控除もしくは白色申告を選択できることになります。
たとえ、青色決算書の記載に自信がなくても、とりあえず青色申告の承認申請書を提出して、確定申告の際の選択肢を増やすほうが賢明と思います。
参考:国税庁「白色申告者の記帳・帳簿等保存制度」
住民税や国民健康保険料もお得になる可能性が
青色申告特別控除によって、所得が減額されるため、計算される所得税が減ります。
しかし、所得をもとにして計算されるのは、所得税だけではありません、代表的なものとしては「住民税」や「国民健康保険料」があげられます。※
住民税に関して、自治体によって異なる場合もありますが、所得の約10%が税金となります。青色申告特別控除65万円を適用した場合と、白色申告とを比較した場合、65,000円の差額が発生します。
国民健康保険に関しても、お住まいの自治体や、家族構成、年収等によって違いはありますが、保険料の算定基礎が所得ですので、青色申告特別控除額の効果が反映されます。
※ 所得税法上の所得と、住民税及び国民健康保険における所得は、計算方法が異なり、同額ではなく、差異があります。
赤字の繰り越し
青色申告で赤字が出た場合、それを翌年以降に繰り越すことが可能になります。
ただし、繰り越せる期間は翌年以降3年間です。翌年以後に黒字となった場合には、繰り越した赤字と相殺でき、税金を抑えることができます。
新規で事業を行い軌道に乗るまでの期間や、コロナウイルスの影響などの外的要因などによって、年間の所得が赤字になる場合があると思います。翌年以降黒字になったときに、過去の赤字と相殺できることは、大きなメリットとなります。
生計が同じ家族への給与を経費算入
生計が同じ家族へ支払った給与は、経費にすることができません。しかし、一定の要件のもと、青色申告者については実際の給与額を、白色申告者についても、一定額を控除することができます。
青色申告者
青色申告者は、以下の要件を満たすことにより、青色事業専従者給与として、支払った給与の全額を経費にできます。
青色事業専従者給与と認められるための要件
- ① 事前に「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に提出していること
【提出期限】
- 原則:その年の3月15日まで
- 年度の途中(新規開業や専従者発生):開業日や専従者発生日から2カ月以内
- ② 届出書に記載した金額の範囲内で支払われたもの
- ③ 労務の対価として支払われたものであること
- ④ 労務の対価として過大な金額でないこと(過大部分は経費になりません)
- ⑤ 青色事業専従者は、次のいずれの要件にも当てはまること
- (1)青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること
- (2)その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること
- (3)その年を通じて6月を超える期間(一定の場合には事業に従事することができる期間の2分の1を超える期間)、その青色申告者の営む事業に専ら従事していること
白色申告者
白色申告者は、支払った給与の額に関係なく、次のうち、いずれか低いほうの控除が認められています。
事業専従者控除の金額
- ① 事業主の配偶者は86万円、配偶者でない専従者は50万円(一人当たり)
- ② この控除をする前の事業所得等の金額を専従者の数に1を足した数で割った金額
【計算例1】
専従者:配偶者1人、子供1人
事業所得等:600万円
- ① (86万円+50万円)×1人=136万円
- ② 600万円÷(2人+1)=200万円
③ ① < ② ∴ 136万円
【計算例2】
専従者:配偶者1人、子供2人
事業所得等:600万円
- ① 86万円+(50万円×2人)=186万円
- ② 600万円÷(3人+1)=150万円
③ ① > ② ∴ 150万円
白色専従者控除を受けるための要件
(1)白色申告者の営む事業に事業専従者がいること。
事業専従者とは、次の要件の全てに該当する人をいいます。
- ① 白色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること
- ② その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること
- ③ その年を通じて6月を超える期間、その白色申告者の営む事業に専ら従事していること
(2) 確定申告書にこの控除を受ける旨やその金額など必要な事項を記載すること。
専従者給与や控除を行った際に気を付けたいこと
ここで気を付けたいことは、青色事業専従者給与を支払っている親族、もしくは、白色事業専従者として控除対象となった親族は、事業主の扶養親族になることはできないという点です。
他の会社から年間60万円の給与収入がある場合、いわゆる103万円の壁を下回るため、通常ですと、配偶者控除や扶養控除を適用することができます。
しかし、これを青色事業専従者給与として得ていた場合、控除を受けることができなくなります。(届出は出ているが、支給がない場合を除く。)
申告の際には、青色事業専従者給与を支払いつつ、配偶者・扶養控除も適用しないようにお気を付けください。
参考:国税庁「青色事業専従者給与と事業専従者控除」
家事関連費の経費算入
家事関連費とは、業務にも生活にも使っている経費のことです。例えば、賃貸住宅を事務所や作業場として使っている場合がわかりやすいと思います。
この場合、合理的な方法で按分して、経費算入することになりますが、青色申告者と白色申告者では経費算入に違いがあるので注意が必要です。なお、「合理的」とは、床面積、使用日数・時間などが基準として考えられますが、業務の実態に応じ、各個人が判断して、選択します。
青色申告者 |
白色申告者 |
---|---|
合理的に按分した割合で計上できる |
合理的に按分した割合が50%を超える場合に、その割合で計上できる |
合理的按分に関して気を付けたいこと
合理的按分はあくまでも個人的主観によって行われるものですが、税務調査時には、それを説明する必要があります。
口頭で説明できることはもちろんですが、例えば床面積で按分した場合には、業務として使用している状況(写真)や、算定の根拠とした図面など、物的な説明資料を準備しておくようにしましょう。
一括評価の貸倒引当金の計上
貸倒とは、売掛金や事業上の貸付金などが、回収不能になった状態です。そのような場合、債権金額を貸倒損失として費用計上します。
また、そのような貸倒損失によるリスクに備え、損失になるかもしれない金額を予想して、あらかじめ計上するものを貸倒引当金といいます。
青色申告者に限り、正常な債権に対して一括評価を行い、貸倒引当金を計上することが認められています。その割合は以下の通りです。
- ① 金融業以外:55/1000
- ② 金融業:33/1000
30万円未満の資産・一括費用計上
10万円以上の備品等を購入した場合、その年に一括で経費にすることはできません。購入したものに応じて、翌年以降に按分して費用計上していきます。消耗品としてではなく、資産として取り扱うということですね。
青色申告者にはそれを一括で費用計上特典が用意されています。30万円未満の資産を購入した場合、年間合計300万円まで一括費用計上が可能となります。
おわりに
会計ソフトを利用すると、複式簿記のような難しい考え方を覚えていなくても、簡単に入力できます。
例えば、現金出納帳や得意先元帳などの補助簿を記入していくことにより、自動的に「仕訳帳」や「総勘定元帳」を作成してくれます。
会計ソフト費用と記帳の手間は増えますが、青色申告はそれに見合う以上の特典が用意されていますので、ぜひ検討したいところですね。