第3回:給与所得と事業所得
確定申告のコラム、3回目の今回は給与所得と事業所得について取り上げます。
確定申告が必要な給与所得者とはどのような人なのか、事業所得が発生した場合にやるべきことは何か、副業は事業所得に該当するのかなどについて、本コラムでは詳しく解説しています。
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給与所得とは
給与所得とは、勤務先から受ける給料、賞与などの所得をいいます。
なお、給与所得は給与収入から給与所得控除を差し引いて計算されます。
所得 = 給与収入 - 給与所得控除
確定申告が必要な給与所得者とその理由
確定申告が必要な給与所得者は以下の通りです。
会社員の人が年度の途中で退職して、年末時点で就職していない場合
【理由】
年度の途中で退職して、就職せずに年末調整を受けることができないと、所得税を納めすぎている状態になる可能性が高くなります。なぜなら、「会社員は、年間これぐらい所得税がかかるだろう」との予測のもとで、毎月の給料から源泉所得税を差し引かれているからです。
例えば、月収50万円の人は、毎月3万円ほどの源泉徴収が行われます。年ベースで考えると、年収600万円の人が、年間36万円の所得税を納めるという予測のもとで源泉徴収が行われます。
このような人が、1月から6月まで勤務して、その後年末時点で就職していない場合は、年収300万円、源泉徴収された税額18万円という結果になります。
本来年収300万円の人の税額は7万円ほどになりますので、11万円ほど納めすぎている計算になります。
そのような、納めすぎている税額を返してもらうために、確定申告が必要になります。
年間の給与収入が2,000万円をこえる人
【理由】
収入が2,000万円をこえると、年末調整の対象にならないためです。つまり、所得税の精算がされていないため、確定申告をする必要があります。
医療費控除を受ける人
【理由】
医療費控除は確定申告でのみ手続きが可能です。
年末調整すれば所得税の手続きは原則完結しますが、医療費を10万円以上支払っている人等は確定申告をすることによって、所得税が還付される可能性があります。
ふるさと納税をしたが、ワンストップ特例制度を利用しなかった人
【理由】
ワンストップ納税特例とは、確定申告を行わなくても、ふるさと納税の寄付金控除を受けることができる仕組みです。寄付をした際に、この制度を利用する旨の申請をしなかった場合は、確定申告によって、寄付金控除を受ける必要があります。
2か所から給与収入を得ている人
【理由】
年末調整は1か所の勤務先でしか受けることができません。そうすると、2か所以上から給料をもらっている人は、年末調整を受けていない給料に関して、所得税の精算が終わっていない状態になります。
所得税は、その人が1年間に稼いだ給料をもとに算出されるためです。
正確な所得税額を算出するために、各勤務先の給与を合算して、確定申告をする必要があります(ただし、従たる給与の収入額が20万円以下など、申告義務がない場合もあり)。
源泉徴収義務のない者から給与等の支払を受けている人
次のような人から支給された給与に関しては、確定申告をする必要があります。
常時2人以下のお手伝いさんなどのような、家事使用人だけに給与を支払う個人
令和4年度 申告書様式の変更点
- 確定申告書「A」の廃止
令和3年度まで、所得税の確定申告書には「A」と「B」という2種類が存在しました。しかし、令和4年度より確定申告書「A」が廃止となり、確定申告書「B」の様式をベースに一本化されることになりました。
- 「公金受取口座登録の同意」及び「公金受取口座の利用」欄の創設
また、令和4年度申告書からは、「公金受取口座登録の同意」及び「公金受取口座の利用」という欄が創設されました。この欄の記載方法に対する考え方を下記にまとめましたので、ご参考いただけると幸いです。なお、今回税金の還付がある場合という前提です。
マイナポータルにて公金受取口座登録の有無 |
還付される税金の受取場所 |
公金受取口座登録の同意 |
公金受取口座の利用 |
口座登録済み(登録口座で今回の還付を受けたい場合) |
記載なし |
記載なし |
〇印 |
口座未登録(申告書記載口座を登録したい場合) |
口座情報を記載 |
〇印 |
記載なし |
口座未登録(申告書記載口座は今回の還付のみに利用したい場合) |
口座情報を記載 |
記載なし |
記載なし |
なお、口座情報の記載があり、「公金受取口座の利用」に〇印がある場合は、今回記載した口座情報に還付金が振り込まれます。つまり、マイナポータル上で登録した口座情報は無視されることになります。
- 第5表の廃止
こちらはあまりなじみのない表かもしれませんが、修正申告を行う際に利用されていた表になります。令和4年度からは様式が変更された第1表に修正申告欄が設けられましたので廃止になりました。
事業所得とは
事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業を営んでいる人の、その事業から生ずる所得をいいます。
なお、不動産の貸付業など、他の所得に区分されるものは除きます。
事業所得の計算方法
事業所得の金額は、次のように計算されます。
事業所得 = 総収入金額 – 必要経費
収入金額とは
収入金額とは、分かりやすくいうと、いわゆる「売上」です。
ここで気を付けたいのは、収入金額は「収入すべき金額」という点です。現金の入金時ではないことです。
例えば、令和4年12月に100万円の仕事をして、令和5年1月に入金があった場合、その100万円は、令和4年度の収入すべき金額になります。
必要経費とは
必要経費とは、以下のような費用をいいます。
- (1)総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額
- (2)その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額
(1)総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額
業種によってさまざまです。例えば、商品販売業ではその商品の仕入金額、製造業では製品の原材料や外注費、農業は肥料、種子の購入費、燃料など、漁業では、えさの費用、燃料などが該当します。
(2)その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額
売上原価以外の費用がこれに該当します。一般的にいうと固定費です。
例えば、従業員に払う給与や賞与、テナントなどの賃借料、水道光熱費、保険料や自動車税などが、これに該当します。
<主な経費一覧>
科目 |
内容例 |
---|---|
租税公課 |
自動車税、固定資産税 など |
荷造運賃 |
梱包代、運送費用 など |
水道光熱費 |
電気代、ガス代、水道代 など |
旅費交通費 |
電車代、タクシー代 など |
通信費 |
携帯電話代、切手代 など |
広告宣伝費 |
チラシ代、求人広告費用 など |
接待交際費 |
取引先など事業関係者の接待費用 など |
損害保険料 |
損害保険料、火災保険料 など |
修繕費 |
車両や機械などの修理費用 など |
消耗品費 |
文具代、コピー代 など |
減価償却費 |
資産に計上した金額のうち当期費用分 |
福利厚生費 |
慶弔見舞金、社員旅行費用 など |
給料賃金 |
社員、パート、アルバイトに対する給与 |
外注工賃 |
外注先からの請求費用 |
利子割引料 |
事業資金の借入利息、銀行ATMの手数料 など |
地代家賃 |
建物の賃借料、月極駐車場の使用料 など |
貸倒金 |
回収不能になった売掛金 など |
雑費 |
上記科目に当てはまらない費用 |
参考:国税庁「事業所得の課税のしくみ(事業所得)」
減価償却費と貸倒金のお話
上記費用項目の中に、分かりにくい費用があります。「減価償却費」と「貸倒金」です。聞き慣れない言葉だと思いますので、説明させていただきたいと思います。
減価償却費
資産(建物や構築物、機械や備品など)の取得費のうち、当期に計上できる分の費用です。支出額が10万円を超えるものに関しては、消耗品として計上せず、原則として資産に計上します。
例えば、同じパソコンでも、15万円だと資産、7万円だと消耗品に区分されます。なお、資産はその種類に応じて「耐用年数」というものが決められていて、その年数に応じて費用計上されていきます。そのうち当期分を減価償却費として計上します。
なお、減価償却に関しては次回コラムにて、青色申告決算書の記入と合わせて、詳しく説明いたします。
貸倒金
貸倒損失ともいいますが、具体的には、債権(売掛金、受取手形、貸付金、前渡金など)が回収不能になった場合に、必要経費として計上します。
気を付けないといけないのは、「回収不能になった場合」です。これは自己判断で行うのではなく、次のような客観的事実があった場合をいいます。
- 債務者が会社更生法等によって支払いを免れた場合
→その免れた金額を貸倒金として計上 - 債務者の資産状況や支払能力からみて、その全額が回収できないことが明らかな場合
→回収不能金額を貸倒金として計上 - 債務者との継続的取引停止後、1年以上経過した場合
→債権金額から1円(備忘価格)を控除した残額を貸倒金として計上
必要経費にするための条件(債務確定について)
必要経費にするためには条件があります。それは、次の3つの要件を満たしていることです。
- その年12月31日までに当該費用に係る債務が成立していること。
- その年12月31日までに当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること。
- その年12月31日までにその金額を合理的に算定することができるものであること。
このような考え方を「債務確定主義」といいます。費用計上にあたっては、法的に支払い義務が成立している時点で、費用計上を行ってくださいという要請です。
例えば、あなたの個人事業において、従業員の令和4年分の賞与を、令和5年1月末の支払予定としていたとします。合計200万円支払うことを決定し、実際に令和5年1月末に支払いました。
今年の実績に基づいて支払っているので、今年の経費とみることもできるかもしれませんが、令和5年の経費にすべきものになります。なぜなら、令和4年12月末時点において債務が確定していないからです。
賞与は就業規則で規定しない限りは、実際に支給しないこともできます。このような状態だと、年末時点で債務が確定しているとはいえません。そうすると、令和4年の必要経費とすることはできず、実際に支払った、令和5年度の必要経費に算入すべきものになります。
副業は事業所得なのか?
ところで、ネット上のフリーマーケットなどで得た収入などは、事業所得なのでしょうか。
例えば、本業があり、時間が空いたタイミングで行っていた場合には、基本的に雑所得になると思います。一方、本業が他になく、常に商品を仕入れ、時間の大部分を費やして行っているような場合は、事業所得といえると思います。
どちらの所得も、収入から、それにかかった経費を引いて所得を計算する点は同じですが、事業所得で青色申告を行えば、青色申告特別控除額を所得から差し引いたり、事業で出た赤字を翌年以降に繰り越すことが可能となるため、有利といえます。
また、事業所得は損益通算が可能になります。損益通算とは、他の所得と合算して所得税を算出する仕組みです。
例えば、給与収入が2,000万円の場合、400万円ほどの所得税が発生します。仮に、この年に事業所得で1,000万円の赤字が計上された場合、所得税は100万円ほどになります。逆に雑所得でしたら、税額は変わらず400万円になります。
事業所得と雑所得の明確な区分はあるのか?
事業所得と雑所得の明確な区分はどこにあるのでしょうか。まずは国税庁からの通達を見てみましょう。
<所得税基本通達35-2>
帳簿がある場合は、事業所得に区分される可能性が高く、帳簿がない場合であっても、収入金額が300万円を超える場合は社会通念で判断し、それ以外は雑所得になるという基準が示されました。
いずれにしても社会通念という基準に左右される部分は含んでしまいますが、事業と称するには、少なくとも日々の帳簿付けは重要となるようです。
事業所得に区分されたほうが、税法上有利に取り扱われていますので、雑所得ではなく、事業所得として申告したいところです。
事業所得の利点
- 青色申告特別控除額(65万円、55万円、10万円)を所得から差し引ける
- 赤字の繰り越し
- 給与所得等との損益通算が可能になる など
ただ、むやみに事業所得として申告しても、税務署に否認されて、加算税などの支払いが生じてしまう恐れはあります。したがって、その判断は慎重にすべきと思います。
上記通達にも出てきましたが「社会通念上」という考え方を理解するうえで参考になる判例があるのでご紹介したいと思います。昭和56年4月24日の最高裁判決では、事業所得として区分される基準として、以下のポイントが示されてます。
- ① 経済活動の営利性
- ② 有償性の有無
- ③ 反復継続性の有無
- ④ 自己の危険によって行っているか
- ⑤ 精神的、肉体的労力の有無
- ⑥ 人的、物質的設備の有無や資金の調達方法
- ⑦ その人の職業、経歴、社会的地位や生活状況
- ⑧ 相当程度の期間安定した収入を得られるかどうか
①から⑥、及び⑧は、商売として成り立っているか、どれだけ時間や労力を費やしているか、事業に対して投資を行っているか、などという点になると思います。
難しいのは⑦です。例えば、正社員で相当安定した収入のある人が、片手間で行っている商売などは、その人の職業や経歴に照らして、事業としての社会的地位は客観的に認められないと判断される場合も考えられます。
今年は事業所得が発生~まずやるべきこと~
事業所得が発生する場合、その所得に対する申告を行うことになります。その年の翌年3月15日までに確定申告を行うことになりますが、それ以前に開業届などを提出したり、青色申告承認申請書を提出することによって、申告の際に有利になることがあります。
以下、代表的な届出関係です。
- 開業届
- 給与支払事務所等の開設届出書
- 青色申告承認申請書
- 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
開業届
概要
新たに事業を開始したとき、事業用の事務所・事業所を新設、増設、移転、廃止したとき又は事業を廃止したときの手続です。
提出期限
事業開始等の事実があった日から1月以内に提出します。なお、提出期限が土・日曜日・祝日等に当たる場合は、これらの日の翌日が期限となります。
コメント
提出期限は1月以内ですが、提出しなかったことによる罰則等は現在のところありません。なお、開業届を提出しなければ申告しなくていいということはありません。
提出することによって、税務署から確定申告の案内やその他、申告や納税等に必要な書類が届いたりします。
その他、銀行融資、許認可関係、補助金の申請など、税金以外の手続きのほとんどで、開業届の控えを求められます。
つまり、必然的に開業届の提出が必要になることは多いと思います。
参考:国税庁「個人事業の開業届出・廃業届出等手続」
記入例 ※画像をクリックすると、大きな画像が表示されます。
青色申告承認申請書
概要
事業所得や不動産所得などが発生する人のうち、青色申告の承認を受けようとする場合に提出が必要です。
提出期限
青色申告をしようとする年の3月15日までに提出が必要です。
年度の途中から事業を開始した人は、その開始した日から2か月以内に提出が必要になります。
なお、提出期限が土・日曜日・祝日等に当たる場合は、これらの日の翌日が期限となります。
コメント
青色申告によって申告を行う場合には必須の書類になりますので、必ず提出するようにしましょう。
白色申告していた人が、今年から青色申告を行おうとする場合は、青色申告をしようとする年の3月15日までに提出が必要です。
他方、年度の途中で開業等した人は、その開業等した日から2か月以内に提出が必要になります。開業日は、開業届に記載することになっていますので、その日から2か月以内と覚えておきましょう。
必ず気を付けたいところは、青色申告を行おうとする年度の記載です。
記入例に赤色で示しておきましたが、これを間違えて6年と記載した場合は、来年からしか青色申告を行えなくなります。
誰がどう見ても、記載ミスだろうと思うような数字であっても、提出期限が過ぎてしまった後では、修正することができませんので、慎重に記載をお願いします。
参考:国税庁「所得税の青色申告承認申請手続」
記入例 ※画像をクリックすると、大きな画像が表示されます。
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
概要
給料等から徴収した源泉所得税は、徴収した日の翌月10日までに、税務署に納めます。しかし、毎月納付するのは手間がかかるため、要件を満たすと半年に1回まとめて納めることが可能になります。
要件としては、申請書の提出と、給与等の支払いを受ける人が、常時10人未満であることです。
提出期限
提出期限はありません。
適用期日
申請書を提出した日の翌月に、支払った給与に対して適用されます。
コメント
毎月納めないといけない源泉所得税が、半年に1回納めればよくなるので、事務的な手続きが緩和され、ぜひとも利用したいところです。
気を付けたいポイントは、適用時期です。例えば、2月に申請したら、3月に支払った給与から適用されます。この場合、2月支払、3/10納付分に関しては適用されないので、注意が必要です。
また、資金繰りにも注意が必要です。半年に1回の納付となると、給与の金額によっては、源泉所得税の納付額も多額になるため、納期に備えた資金計画が必要になります。
あくまでも預かっているお金だということを念頭に、別段で預金しておくことをお勧めします。
参考:国税庁「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請」
記入例※画像をクリックすると、大きな画像が表示されます。
給与支払事務所等の開設届
概要
給与の支払者が、国内において給与等の支払事務を取り扱う事務所等を開設、移転又は廃止した場合に、その旨を所轄税務署長に対して届け出る手続です。
提出期限
開設の事実があった日から、1か月以内に提出してください。
コメント
従業員を雇用して、給与等を支払うことを税務署に通知するために提出します。
提出しなかったからといって、ペナルティがあるわけではありませんが、税務署に通知しないと、源泉徴収に関する書類が送られてこなかったりして、納税事務に支障をきたす恐れもあります。
源泉所得税は、期日までに納付できなかった場合には、不納付加算税がかかる可能性もあります。余分な出費を払わないようにするためにも、手続はしっかり行いたいところです。
【源泉所得税の不納付加算税】
原則 |
納付すべき税額の10% |
税務署の告知前に自主的納付 |
納付すべき税額の5% |
不納付加算税の救済措置
普段から期日通りに納付していたけれど、たまたま納期限に遅れてしまった、という場合があると思います。
このような場合の救済措置として、前月の末日から1年前の日までに納付の遅延がなく、かつ、その遅れてしまった源泉所得税を、納期限から1か月を経過する日までに納付した場合、不納付加算税はかかりません。
参考:国税庁「給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出」