[会社法改正] 第1回:令和元年会社法改正による社債法制の改正①
1.はじめに
2019年12月4日に、会社法の一部を改正する法律が成立しました。同改正の内容は多岐に及びますが、今回はその中から社債に関する改正部分を取り上げて解説をします。
2005年会社法制定によって、社債は、「会社」が行う割当てにより発生する当該会社を債務者とする金銭債権であって、募集社債に関する事項の決定に従い償還されるものとする定義規定が新設されました(会社法2条23号)。
これはつまり、会社法は社債の発行主体を単に「会社」(会社法2条1号)とのみ規定することで、株式会社だけでなく、持分会社(合名会社・合資会社・合同会社)も社債を発行することができることを意味します。換言するならば、(実際に発行できるかはともかく)会社の大小を問わずに社債を発行することができるわけです。
このように、社債の利用を促進すべく、各種社債法制の整備がなされてきましたが、わが国の社債市場、とりわけ中低格付社債市場は発行額ベースでみると欧米に比べて未発達であるのが現状です。
今回の社債に関する会社法改正の内容も、基本的には社債の利用を促進させるためのものであるといってよいでしょう。
今回の会社法改正における社債部分の内容は、大きく①社債管理補助者制度の新設、②社債権者集会制度の効率化の2つです。
2.社債管理補助者制度の意義
(1)社債管理補助者制度創設の経緯
まず、社債管理補助者制度新設に関連する前提状況を整理しておきます。
担保付社債を発行する場合には、受託会社を定めなければならないとされており(担保付社債信託法2条)、また、会社が無担保社債を発行する場合には、原則として、社債管理者を定め、社債権者の保護のために、社債の管理を行うことを委託しなければならないとそれぞれ規定されています(会社法702条本文)。
【社債管理設置債】
【社債管理不設置(FA)債】
社債権者のために社債を管理する者が必要とされている理由は、公募によって社債を発行する場合、個人投資家も含めた多数の一般投資家に対して社債が発行されること、一方で、個人である多数の小口社債権者は社債発行会社のデフォルト時などに自ら権利を保全あるいは実行することが困難であるためです。
しかし、わが国の実務においては、会社が社債を発行する場合には、例外規定(同条ただし書、会社法施行規則169条)にもとづいて、社債管理者を定めていないことがほとんどです。
その理由は、会社法上、社債管理者の権限が広範であり(会社法705条)、また、その義務、責任及び資格要件が厳格であるため(同法704条、703条、会社法施行規則170条)、社債管理者の設置に要するコスト(社債管理委託手数料など)が高くなることや、社債管理者となる者の確保が難しいことが挙げられます。
もっとも、社債発行時に社債管理者を定めない社債(いわゆるFA債)を発行する場合、社債管理者に代わって社債発行事務や支払事務を担う財務代理人が設置されます。
また、財務代理人の権利義務は法定されていないため、その内容は社債発行者と財務代理人との間の個別の契約によることとなります。
さらに、財務代理人は、社債管理者と異なり、社債権者の保護のために行動する立場にあるわけではなく、あくまで社債発行者のためにサービスを提供するものと位置づけられています。
したがって、FA債がデフォルトした場合、社債権者は自らの利益を自ら守らなければならず、社債権者の保護に欠ける状況が発生する可能性を有しています。
(2)FA債デフォルト時の問題点
FA債がデフォルトした際に、財務代理人を社債管理者と同様に取り扱うことができるのか、具体的には、裁判上、財務代理人が各社債権者から訴訟追行権を授与された任意的訴訟担当であるとして社債権者のために権利保全を行うことができるのかどうかが問題となります。
近年、FA債について、デフォルトが発生し、社債権者に損失や混乱が生ずるという事例が見られたことを契機として、このような社債について、社債の管理に関する最低限の事務を第三者に委託することが望まれていました。
実務上、社債管理者又は受託会社を定めることを要しない社債を対象として、社債管理者よりも限定された権限及び機能を有する社債権者補佐人という名称の社債管理機関を契約に基づいて設置する取組みも進められていました。
ただ、このような契約のみによる方法によっては、全ての社債権者の代理人として破産手続等において債権の届出をする場合であっても、個別の社債権者を表示することが必要となり、煩雑であるほか、社債権者集会の招集を請求した社債権者の委託を受けて会社法718条3項の規定による裁判所の許可の申立てをすることや裁判所に対して社債権者集会の決議の認可の申立てをすることなどの業務を社債権者補佐人が行うことが難しいとされ、立法による措置を講ずる必要性が指摘されていました。
会社法上の社債(会社法2条23号)ではないですが、FA債のデフォルト時の対応を検討するにあたり適当な事例として、ソブリン債(各国の政府又は政府関係機関が発行し又は保証している債券)がデフォルトした事例(最判平成28年6月2日民集70巻5号1157頁。以下、「平成28年最判」という。)があります。
平成28年最判は社債管理補助者制度の新設の契機ともなった事案であるため、次回は同事案を取り上げたうえで解説します。なお、同事案では、管理委託契約にもとづき債券を管理していた会社(銀行)らは任意的訴訟担当の要件を満たすものとして原告適格を有するのか否かが争われています。
次回は、平成28年最判を紹介します。