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株主総会で取締役は何を説明しなければならないか

株主総会で取締役は何を説明しなければならないか

今回は、株主総会における取締役の説明義務を取り上げ、解説します。

近年、IR(Investor Relations)活動の重要性は、企業の情報開示という側面だけでなく企業の資金調達、ひいては企業価値にも影響を与えるものとして、ますます増大しています。

また、いわゆる「モノ言う株主」の増加や企業のSDGs(Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標))への対応など、株主総会において取締役が株主からの質問に対して適切に回答しなければならない事柄は増加しています。

株主総会での取締役による株主への説明に問題があった場合、企業価値が低下したり株主総会決議が取り消されたりすることもあります。

株主総会において取締役は何についてどの程度、株主に対して説明しなければならないのか、株主からの質問に対して取締役は説明することを拒絶できるのか、取締役に説明義務違反が存在する場合にどのように問題が処理されるのか、以下では説明していきます。


この記事の著者
日本大学商学部  教授 

1 株主総会における取締役の説明義務

(1)株主総会における取締役の説明義務

まず、会社法は、株主総会における取締役の説明義務を以下の通り規定しています。

(会社法314条柱書)

取締役、会計参与、監査役及び執行役は、株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合には、当該事項について必要な説明をしなければならない。

取締役は、株主総会における法定の積極的な説明義務を負うほか、株主による質問に応じて説明するという受動的な説明義務を負っています。

この規定は、議題や議案に関する質疑応答の機会を株主に保障するという会議体の一般原則を規定したに過ぎず、株主に対して投資判断を得るなどの特別の情報開示請求権を付与しているわけではありません。

一方、株主総会は会議体ですから、そこでは株主と経営者(取締役)・株主間で適切なコミュニケーションが図られつつ、討論・審議がなされることが期待されます。そのため、会社から提案された議題ないし議案に対する株主からの質問を認めることが必要となります。その意味では、株主側の質問権と会社側の説明義務は表裏一体の関係にあるともいえるでしょう。

なお、株主から意見表明がなされたにすぎない場合には、株主の質問権や取締役の説明義務の問題とはなりません(東京地判昭和62年1月13日判時1234号143頁)。

(2)説明を拒絶できる場合

取締役は株主総会において、株主からの質問に対して無制限・無制約に説明義務を負うわけではありません。取締役が説明を拒絶できる場合を、会社法314条但書が定めています。

(会社法314条但書)

ただし、当該事項が株主総会の目的である事項に関しないものである場合、その説明をすることにより株主の共同の利益を著しく害する場合その他正当な理由がある場合として法務省令で定める場合は、この限りでない。

また、会社法314条但書が定める「法務省令で定める場合」を、会社法施行規則71条が定めています。

(会社法施行規則71条)

会社法314条に規定する法務省令で定める場合は、次に掲げる場合とする。

  • 一 株主が説明を求めた事項について説明をするために調査をすることが必要である場合(次に掲げる場合を除く。)
  • イ 当該株主が株主総会の日より相当の期間前に当該事項を株式会社に対して通知した場合
  • ロ 当該事項について説明をするために必要な調査が著しく容易である場合
  • 二 株主が説明を求めた事項について説明をすることにより株式会社その他の者(当該株主を除く。)の権利を侵害することとなる場合
  • 三 株主が当該株主総会において実質的に同一の事項について繰り返して説明を求める場合
  • 四 前三号に掲げる場合のほか、株主が説明を求めた事項について説明をしないことにつき正当な理由がある場合

このように、会社法および会社法施行規則は、拒絶事由を列挙して明らかにしています。株主総会において取締役が説明を拒むことを認める趣旨は、正当な質問権の行使の限界を明確にすることによって、その濫用を防止することにあります。

2 どの程度の説明がなされなければならないか

それでは、取締役は株主からなされた質問に対して具体的にどの程度、説明すればよいのでしょうか。

取締役の説明義務は、議題や議案に対する判断の手がかりを提供する点に目的があるため、議題や議案の賛否に関する合理的判断に客観的に必要な情報を説明することで説明義務を尽くしたことになります(東京地判平成16年5月13日金判1198号18頁:東京スタイル事件)。

「合理的判断に客観的に必要な情報」については、平均的な株主を基準として、そのような者が合理的に理解・判断ができる程度の説明が要求されます。

つまり、質問者や説明者の主観を基準にするのではなく、あくまで平均的株主を基準としています。

そのため、例えば質問株主がたまたま質問事項に深い理解を有しているからといって取締役が必要以上に説明を省略することはできませんし、逆に、質問株主の理解力に支障がある(一般的平均的株主と比べると理解力に劣る)からといって、通常以上の労力や時間を割いて取締役が説明をしなければならないわけでもありません。

なお、総会決議事項に関する説明にあたっては、計算書類附属明細書記載事項や総会参考書類(例えば、役員等の選解任に関する資料など)の記載内容を目安とし(広島高松江支判平成8年9月27日)、実際になされた質問内容に応じて適宜補足した程度の説明で足りると解されています。

回答方法に関しては、取締役は個々の質問に対してひとつずつ回答しても複数の質問をまとめて回答しても、議事運営に関する裁量の範囲内であるため問題とはなりません。

実務上、株主総会に先立って株主から質問状が多数出されている場合に、説明義務者があらかじめ質問項目ごとにそれらを整理して、株主からの質問に先立って総会において一括して回答すること(一括回答)がなされることがありますが、この一括回答と説明義務発生の基準時はどのように整理すべきでしょうか。

取締役の説明義務は、前述したとおり、基本的には株主からの質問があってはじめて発生するものなので、一括回答と説明義務発生の基準時を整理しておく必要があります。よろしくお願いします。

一括回答との関係で取締役の説明義務がどの時点で発生するのかについては、概ね以下2つの見解が述べられています。

  • ①一括回答は、説明義務の先履行にあたると解する見解
  • ②一括回答は、報告事項の報告を終え、決議事項の審議に入る前に、取締役が自発的に報告事項を補足ないし追加して回答したものに過ぎないとする見解

①では、取締役によって一括回答がなされた時点で説明義務が履行されたことになるのに対し、②では、取締役による一括回答後の株主からの質問に、さらに取締役が回答することによって説明義務が履行されたことになります。

しかし、②の場合でも、一括回答の中ですでに決議事項に関する回答がなされていれば同一内容の回答を繰り返す必要はないため、実質的には①と②に大差はないと思われます。

3 説明義務違反とその効果

取締役が説明義務に違反した場合は、株主総会決議の方法に関する法令違反(会社法831条1項1号)に該当し、決議取消事由となります。なお、取締役に説明義務違反がある場合でも、裁量棄却(会社法831条2項)によって決議が取り消されないこともあります。

また、取締役が正当な理由なく株主が説明を求めた事項について説明をしなかった場合は、100万円以下の過料に処せられます(会社法976条9号)。

4 おわりに

令和元年会社法改正によって、株主総会資料の電子提供が創設されました。

改正前では、インターネット等を用いて株主総会資料を株主に提供するためには、株主の個別の承諾が必要でした。

改正後は、書面での資料提供を希望する株主を除いて、株主総会資料をウェブサイトに掲載し、株主に対してそのアドレス等を書面で通知する方法によって、株主総会資料を株主に提供することができるようになりました(会社法325条の2、325条の3、会社法施行規則95条の2)。

また、株主総会そのものを電子化する、いわゆるバーチャル株主総会に関する対応も進んでいます。

こうしたIT技術の進化やそれに伴う制度の進展は、取締役の説明義務の内容に対しても影響を与えるでしょう。株主に対してどのような情報をどのような方法を用いていかに届けるのか、取締役は時代の変容に合わせて適切かつ柔軟に対応し続けなければなりません。

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著者プロフィール

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鬼頭 俊泰

日本大学商学部 教授

日本大学大学院法学研究科博士課程前期課程修了。同後期課程満期退学ののち、八戸大学(現:八戸学院大学)ビジネス学部に着任。その後、日本大学商学部助教、准教授を経て現職。

著書に、ビジネス法務の理論と実践(芦書房、2020年)(共編・共著)、資金決済法の理論と実務(勁草書房、2019年)(共著)、インターネットビジネスの法務と実務(三協法規出版、2018年)(共著)、検証判例会社法(財経詳報社、2017年)(共著)などがある。

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