はじめての株主総会 株主総会のみなし決議・みなし報告制度について
1.はじめに
株式会社は、毎事業年度の終了後一定の時期に株主総会を招集する必要があります(会296条)。株主総会で決議する内容は、取締役会を設けているか否かで異なりますが、どのような規模の株式会社においても、株主総会を開催しなければならないことに違いはありません。ただし、社長=100%株主のような会社において実際に株主総会を招集し、開催するというのはあまりに形式的すぎますし、ある会社の完全子会社であれば、株主総会を開催するということよりは完全親会社の意向のもとで企業活動をしているという場合が多いと思われますので、実際に株主総会を開催する必要性はそこまで高くないように感じます。そこで以下では、会社法で認められる株主総会を開催すること自体は省略するが株主総会決議があったものとみなされる「みなし決議」制度や株主総会を開催し、報告したのと同様の効果を得ることができる「みなし報告」制度について導入から運用までを整理していきたいと思います。
2.みなし決議・みなし報告制度とは
本来、取締役は会社に対し委任関係に基づき善管注意義務を負うものとされており(会330条)、条文上はさらに株式会社のために忠実にその職務を行わなければならないとする忠実義務を負うものとされています(会355条)。判例は、これらの義務は区別されるものではなく、善管注意義務に該当する範囲に忠実義務も含むとしていますが、実務的には、善管注意義務は、取締役に対し、職務上注意を払うことを要求するものであり、別途忠実義務は、取締役に対し、会社の利益を犠牲にして、自己又は第三者の利益を図ってはいけないことを要求するものと考えた方が整理しやすいと指摘するものもあります※。いずれにしても取締役は会社に対し、これらの義務のもと、自らの業務執行の結果を株主に報告することが必要であり、それを行う場が株主総会となりますので、株主総会に株主が出席することは大前提となります。
これに対し、「①取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、②当該提案につき株主(当該事項について議決権を行使することができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなす」と会社法は定めており(会319条)、①及び②の要件を満たす場合には、株主総会の開催を省略した場合でも、株主総会の決議があったものとみなされます。実務上は、これらをみなし決議(書面決議)と呼んでいます。
また、みなし決議(書面決議)と同様の理由で「③取締役が株主の全員に対して株主総会に報告すべき事項を通知した場合において、④当該事項を株主総会に報告することを要しないことにつき株主の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該事項の株主総会への報告があったものとみなす」と会社法が定めており(以下、「みなし報告」といいます。会320条)、実務においても、株主が少数の閉鎖的な会社では頻繁に使われています。このようなみなし決議・みなし報告制度を導入する場合、定款に特別な規定を設ける必要はありませんので、会社は前記①及び②(または③及び④)の要件を満たすことで、この制度をすぐに導入することができます。他方、取締役会決議についても同様な制度はありますが、取締役会を開催せずに取締役会決議があったものとするためには、定款で特別な規定を設ける必要があります(会370条)。
3.みなし決議・みなし報告制度の具体的な運用
ここからは、みなし決議・みなし報告制度を用いる場合の具体的な運用を整理していきます。
(1)提案・報告方法について
まず、提案方法については、法文上、必ずしも書面によることは求められていません。しかし、実務上は書面又は電磁的記録による場合が多数となります。また、株主総会参考書類の交付も求められていませんので、提案する際に決議結果となる内容のみを提案し同意を得ることができれば、法的には有効に決議が成立したものとみなされます。ただし、実務上は株主からの同意を得やすいよう参考事項も併せて通知することが多いと言えます。
これに対し、みなし報告をする場合には、報告事項は書面又は電磁的記録により通知する方が効率的であることから、実務においては株主総会招集通知に添付するものと同様の報告書面等で報告することが一般的です。
(2)提案者・報告者について
次に、取締役会設置会社の取締役が提案者となる場合、提案することに対して取締役会の決議を要するか否かという問題があり、取締役会決議自体を省略可能と考えている見解もありますが、法的安定性を考えれば、予め取締役会にて提案内容について決議を経た上で取締役から提案した方が良いでしょう。
なお、株主が提案者になる場合、同意の意思表示をする株主が議決権を行使することができるものに限られていることから、提案することができる株主も議決権を行使することができる株主に限るべきです。
他方、報告者については、法文上、取締役に限定されていることから、取締役以外の者が報告を希望する場合には、みなし報告制度を利用するか否か慎重に検討する必要があります。なお、取締役以外の者が報告事項について特段の希望がない場合には、取締役以外の者から取締役に対し報告を委託しているということができるため、みなし報告制度の利用に障害はないものと考えます。
(3)同意の意思表示について
そして、提案をうけた株主が行う同意の意思表示は、書面決議に係る提案の内容そのものであり、株主総会を開催せずに決議を行うことだけに対する同意では足りません。
ただし、みなし決議の場合には、議決権を行使することができる株主に限定する旨の記載がありますが、みなし報告の場合には、そのような限定はなく、株主の全員からの同意の意思表示を受ける必要があることに注意が必要です。
なお、同意の意思表示を電磁的記録により受ける場合、メールの本文中に同意する旨の意思表示を記載があれば有効と言えますが、記録の保管上、同意書の形式にしたものに署名又は記名押印したものを添付ファイルとして添付されたメールを受信する方が有益でしょう。
(4)決議の効力発生について
以上のような要件が整うことで、提案を可決する旨の株主総会の決議があったもの(又は株主総会に報告されたもの)とみなされます。実務上は、定時株主総会の終結時として役員の任期満了時点を明らかにする必要などがあることから、効力発生時点を明確にするために、「株主総会の決議(報告)があったものとみなされる時点」を明示しておくことが多いように思います。
(5)みなし決議の議事録について
みなし決議・みなし報告を用いた場合にも、株主総会があったものとみなされることから、法務省令で定めるところにより、議事録を作成する必要があります(会318条1項)。
具体的には、以下の内容を記載する必要があります。
【みなし決議に関する議事録の内容】
- (イ)株主総会の決議があったものとみなされた事項の内容
- (ロ)決議があったものとみなされた事項の提案をした者の氏名又は名称
- (ハ)株主総会の決議があったものとみなされた日
- (ニ)議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
【みなし報告に関する議事録の内容】
- (イ)株主総会への報告があったものとみなされた事項の内容
- (ロ)株主総会への報告があったものとみなされた日
- (ハ)議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
なお、実際に開催された株主総会と同様に、報告事項と決議事項をまとめて記載することは可能であり、本店に株主総会の日から10年間備え置かなければならないことや、株主及び債権者が、会社の営業時間内にいつでも当該議事録の閲覧・謄写請求をすることができるものことに違いはありません。
4.まとめ
新型コロナウイルスが猛威を振るう現在においては、人と人が接触することは可能な限り、避けるべきとされています。みなし決議やみなし報告がベストな選択ではありませんが、選択肢の一つとして各社の実情を考慮しながら、採用を検討してみてはいかがでしょうか。
以上
脚注
※ 中村直人『役員のための法律知識〔第2版〕』106頁(商事法務、2019年)