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手形割引に利息制限法は適用されるのか?

手形割引に利息制限法は適用されるのか?

この記事の著者
日本大学商学部  教授 

1 手形割引とは

今回は、中小企業でよく用いられる資金調達手段である手形割引を取り上げます。

手形割引とは、第三者に振り出した満期未到来の手形を金融機関等の割引人に裏書譲渡し、当該割引人から、満期日までの利息に相当する額や手数料を差し引いた額を取得することをいいます。

つまり、手形割引は、取引相手方から代金支払いの代わりに受け取った手形を満期前に現金化するための手段です。

業界にもよりますが、一般的に手形の支払期日は3~4か月先に設定されることが多い(手形が振り出されてから支払われるまでの期間を経済用語でサイトという)ため、資金繰りに窮している中小企業にとって手形の現金化は重要課題となります。そのような企業が手形割引をすることによって、割引手数料は取られることになりますが、早期に手形を現金化し、資金繰りに寄与することができます。

2 手形割引のメリット・デメリットと具体的手続き

手形割引を利用することで得られる大まかなメリットとデメリットを表に整理したうえで、それぞれ解説します。

メリット デメリット
支払期日前の手形を現金化できる 不渡りに伴う買戻し義務発生の可能性
融資と比べて費用負担が少額である 手形の有価証券性
融資と比べて手形割引の審査は通りやすい 手形の不可分性
融資と比べて手形割引の手続きは簡便 手数料がかかる

【メリット】

手形割引を行う最大のメリットは、代金の支払いに代えて手形を受け取った後、最速で当日中に現金化することも可能であることです。資金繰りに窮している中小企業にとっては、有効な資金調達手法となります。

手形割引の有するそのほかのメリットとして、手形割引の手数料率が借入利息と比べて割安であることです。借入期間、借入額、借入方法、企業の返済能力、金融機関などによって借入利率は変動するものの、大手都市銀行を引き合いに出すと、貸出利率は概ね3%程度であるのに対して、手形割引の手数料率は1~3%程度と比較的割安です。

また、手形割引にあたっては手形の振出人の支払能力が審査対象となります。手形の振出人は多くが大企業である場合が多いため、銀行融資にあたっての審査よりも手形割引の審査は通りやすいとされています。手形の振出人の支払能力が重要であるため、手形割引の審査にあたっては、銀行融資審査の際に求められる決算書や資金繰りの予定表などは通常不要で、銀行から融資を断られた企業であっても手形割引を利用することができます。

【デメリット】

手形割引を行う最大のデメリットは、手形の振出人が倒産するなどして手形が不渡りとなってしまった場合、借入人は割引人に対して弁済する義務が生じてしまうことです。

また、手形は有価証券であるため、手形割引によって現金化したい場合、必ず銀行に手形現物を持参するか郵送しなければなりません。

さらに、手形行為はすべて手形という証券によってなされるため、手形上の権利義務関係は、もっぱら手形上の記載内容に基づくこととなります。つまり、手形券面に記載された金額を分割することはできません。手形割引にあたって、手形金額の一部分だけを現金化することはできず、券面額分の手数料がかかることとなります。

3 手形割引に対する利息制限法適用の有無

2では手形割引のメリットを説明するにあたって銀行融資の利率と手形割引の手数料を比較しました。

それでは手形割引の手数料が利息であるとして利息制限法の適用はあるのでしょうか。次に、手形割引の法的性質と利息制限法適用の有無について説明します。

手形割引の法的性質については、①手形割引は単なる手形の売買であるとする見解、②手形割引は消費貸借であるとする見解、に分かれています。

どちらの見解を採用するかにつき判例は分かれています。

①を採るものとして最判昭和48年4月12日金判373号6頁(百選89事件)があります。

この事案は、従来から手形の現金化を依頼されていた者から持ち込まれた手形を割り引きしたというもので、手形が不渡りになったため、割引人が手形金相当額(遅延損害金を含む)を振出人、裏書人、割引依頼人に対して請求しています。

当該事案において最高裁は、原審の判断を是認するにあたって、当該事件における手形の授受を、「いわゆる手形の割引として手形の売買たる実質を有し、前記金員の交付は手形の売買代金の授受にあたるものであって、これについては利息制限法の適用がない」と判示しています。

一方、②の見解に近いものとして最判昭和46年6月29日集民103号293頁があります。

この事案は、信用組合による手形割引の事案ですが、当該事案において最高裁は、「今日銀行の行なつている手形割引は、通常、銀行が手形割引依頼人に対し、広い意味で信用を供与するための手段として行なつているものに外ならず、割引手形をそれ自体独立の価値ある商品として買い受けることを目的とするものでないことは公知の事実」であると判示しています。

このように、判例は、手形割引の実態を見たうえで、妥当な結論を導き出すために、①と②の見解を使い分けているように見えます。

手形割引が、①のように売買であるとすれば利息制限法は適用されず、②のように消費貸借であるとすれば利息制限法は適用されることになります。

なお、会社法の改正により、会社は手形のような性質を持つ社債を発行することが可能となっています。

社債に利息制限法の適用がなされるのかにつき最高裁(最判令和3年1月26日裁判所ウェブサイト)は、社債の発行の目的、募集事項の内容、その決定の経緯等に照らし、当該社債の発行が利息制限法の規制を潜脱することを企図して行われたものと認められるなどの特段の事情がある場合を除き、社債には同法1条の規定は適用されないと判示しています。

利息制限法の適用の有無という点については、手形割引に比べて社債による資金調達の方が予測可能性は高いといえるでしょう。また、割引手数料によっては、手形割引以外の資金調達手法の方が経済合理性に適う可能性もあります。

4 2026年をめどに約束手形が廃止?

2021年2月19日、経済産業省は、約束手形について5年後の2026年をめどに利用を廃止するように産業界や金融業界に対応を求める方針を決めました。

これは、手形割引などを利用しない場合、現金を受け取るまでに時間がかかり、中小企業を中心とした資金繰りの負担になっていることや、紙を用いることによる各種コスト(郵送・保管)および各種リスク(盗難・紛失)が発生していることを理由としています。

経済産業省は、2026年をめどに約束手形を廃止するため、産業界や金融業界に実現に向けた自主的な行動計画を策定するよう求めています。

また、約束手形の廃止に向け、支払サイトを短くしていくために銀行振り込みへの切り替えが進められるべきこと、紙による決済をやめるために、電子記録債権等への切り替えを進めるべきことも併せて提言されています。

上記行動計画で検討項目となっているとおり業界慣行の変更が必要とはなりますが、企業の決済手法が、紙媒体の手形から電子媒体の銀行振込や電子記録債権に変更されるパラダイムにあることや、売掛債権の現金化による資金繰り手法として手形割引以外の方法(例えば、売掛債権を期日前に譲渡することで現金を得るファクタリング)による手法を用いることなど、企業の資金調達方法を取り巻く環境は変化し多様化しています。

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著者プロフィール

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鬼頭 俊泰

日本大学商学部 教授

日本大学大学院法学研究科博士課程前期課程修了。同後期課程満期退学ののち、八戸大学(現:八戸学院大学)ビジネス学部に着任。その後、日本大学商学部助教、准教授を経て現職。

著書に、ビジネス法務の理論と実践(芦書房、2020年)(共編・共著)、資金決済法の理論と実務(勁草書房、2019年)(共著)、インターネットビジネスの法務と実務(三協法規出版、2018年)(共著)、検証判例会社法(財経詳報社、2017年)(共著)などがある。

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