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[契約書の書き方] 第11回:業務委託契約書〔請負型①〕

[契約書の書き方] 第11回:業務委託契約書〔請負型①〕

前回までは、準委任契約(民法656条)に属する準委任型(甲社が乙社に対し、特定の事務の処理を委託する場合)の業務委託契約書について解説しました。

今回からは、請負契約(民法632条)に属する請負型の業務委託契約書について、規定例を示しながら解説していきます。


この記事の著者
弁護士(東京弁護士会所属)  林康弘法律事務所代表 

前文

株式会社△△(以下「甲」という。)と、××株式会社(以下「乙」という。)とは、甲が製造する製品等(以下「製品」という。)の製造委託取引に関し、以下のとおり契約を締結した。

前文は、具体的な契約条項の前に置かれるものです。必須ではありませんが、この種の契約に限らず、前文を記載するのが通例です。前文では、契約当事者を特定するとともに、対象となる取引内容等の概要を示すことにより、どの取引先との間の何の契約であるかが分かるようにしておくべきです。

本コラムでは、請負型の業務委託契約の典型例である、製品の製造委託取引を想定して、どのような条項を定めておくべきかを解説していくこととします。

目的

第1条(目的)

本契約は、甲が乙に対して委託する別紙記載の製品の製造業務(以下「本業務」という。)に関し、その基本的な事項について定めることを目的とする。

製造委託契約は、一回限りの取引の場合もあり得ますが、多くの場合は企業間で反復継続して取引が行われることが想定されます。後者の場合、本コラムの第1回から第5回までに取り扱った取引基本契約(そこでは商品の売買取引を想定して解説しました。)と同じく、基本契約を締結した上で、それに基づいて個別契約を締結し、実際の取引を行うことが考えられます。本規定例では、本契約が製造委託に関する基本契約に当たることを明示しています。

また、債務不履行に基づく損害賠償請求が問題となる場合、その要件である債務者の帰責事由の存否は、「契約その他の債務の発生原因」等に照らして判断されます(民法415条1項ただし書)。契約の目的が何であるかということは、この「契約その他の債務の発生原因」の重要な一要素と考えられますので、明確に規定しておく必要があります(本コラム第1回の「目的物の特定、契約の目的」の項もご参照ください。)。

本規定例では、甲乙間の取引対象となる製品を「別紙」に記載して特定することとし、そこに記載された範囲でのみ、この基本契約が適用されることを示しています。

基本契約と個別契約の関係

第2条(基本契約と個別契約の関係)

本契約は、本業務に関して甲乙間で締結されるすべての個別契約(以下「個別契約」という。)に適用される。ただし、個別契約の内容が本契約と異なるときは、個別契約の定めが適用される。

基本契約と個別契約のどちらが優先するかについては、多くの例では、個々の受発注時における事情に応じて柔軟に対応し得るよう、個別契約が優先するものとされています。

ただし、個別契約(注文書と注文請書)において、事実上立場が強い方の当事者に有利な文言が規定されるといった事態が想定される場合には、実際の取引で他方当事者が不利益を被らないよう、基本契約が優先するものとしておき、何か例外的な取決めをする必要があるときは、基本契約に対する特約であることを明記した個別契約を結ばなければならないこととしておくことをおすすめします。

個別契約

第3条(個別契約)

個別契約は、甲が次の各号に掲げる事項を記載した注文書を乙に交付し、これに対し、乙が注文請書を甲に交付した時に成立する。

(1)製品の品名、数量及び仕様

(2)納期及び納入場所

(3)検品完了期日

(4)製造代金

(5)製造代金の支払期日及び支払方法

(6)甲が乙に対して支給する原材料等の支給品がある場合には、その品名、数量、対価、引渡期日、決済期日及び決済方法

委託者(甲)が下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」といいます。)2条に定められた親事業者に該当し、受託者(乙)が下請事業者に該当する場合には、甲は乙に対し、下請事業者の給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項(公正取引委員会規則に定められた事項)を記載した書面(いわゆる3条書面)を下請事業者に交付しなければならないものとされています。

下請法は、親事業者に対して立場の弱い下請事業者が不当な不利益を被ることを防止する趣旨から、予め取引内容等を明確化すべく、3条書面の交付を義務づけています。甲乙間の製造委託契約に下請法が適用されない場合であっても、当事者間のトラブルを防止するため、個別契約に定める事項を3条書面で要求されている事項に即したものとすることが望ましいです(3条書面の例は、公正取引委員会のウェブサイト参照)。

製造代金

第4条(製造代金)

甲は、乙に対し、個別契約に定めるところに従い、本業務に係る製造代金を支払う。

本契約では、第3条のとおり個別契約で製造代金、支払期日及び支払方法を定めることとしていますので、製造代金(業務委託料)の支払いに関する本条は、シンプルな規定としています。

これとは異なり、支払期日について、「個別契約に別段の定めをしない限り、毎月末日締め、翌月25日支払いとする。」というように、基本契約の中で具体的に定めておくことも考えられます。

製造に関する指示等

第5条(製造に関する指示・技術指導)

1 乙は、甲が別途定める製造仕様書、企画書その他の文書及び口頭による甲の指示に従って製品を製造する。

2 甲は、乙に対し、専門技術員を派遣し、製品の製造、加工、荷造、輸送等に関する技術指導を行うことができる。

3 前2項のいずれの場合においても、甲が乙に対して行う指示又は技術指導は、乙が選任した現場責任者(本業務に従事する乙の従業員に対し指揮命令を行う者を指す。)に対して行わなければならず、甲が本業務に従事する乙の従業員に対して直接これを行ってはならない。

本規定は、製品の製造に関する甲から乙への指示や技術指導について定めるものです。これは、受託者である乙が製造した製品を部品とする甲の製品に欠陥が生じた場合に、甲が第三者に対し製造物責任や不法行為責任を負うリスクを事前に回避する目的で設けられます。

ただし、このような委託者からの指示等については、偽装請負の疑いを生じさせるおそれがありますので、第3項において、甲が直接乙の従業員に対して指揮命令を行わないことを定めています。

偽装請負について

偽装請負とは、形式的には請負契約とされているが、実態としては労働者派遣に当たる、違法な行為です。

請負の場合、請負人(本契約では乙)に雇用されている労働者は、請負人(乙)の指揮命令を受けて労働に従事するのに対し、労働者派遣の場合、労働者は、派遣元企業との間で労働契約を締結しますが、指揮命令については派遣先企業から受けて労働に従事することになります。

請負であれば、注文者(本契約では甲)と請負人(乙)の労働者との間には指揮命令関係が生じないのですが、請負人(乙)の労働者が注文者(甲)から直接業務上の指示や命令を受けていると、請負を偽装した労働者派遣(労働者派遣法2条1号)等を行っているものとして、同法に基づく罰則等の対象となります。

偽装請負に関しては、厚生労働省より、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号)が出されており、①請負人が自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用すること、及び②請負契約により請け負った業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理するものであること、という2つの要件をみたさない限り、労働者派遣事業を行う事業主とみなされます。

次回も、業務委託契約(請負型)に関する規定の解説を続けます。

(第11回・以上)

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著者プロフィール

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林 康弘

弁護士(東京弁護士会所属) 林康弘法律事務所代表

中央大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学大学院法務研究科修了。東京弁護士会民事訴訟問題等特別委員会副委員長。常葉大学法学部非常勤講師。東京都内の事業会社、法律事務所等で勤務した後、弁護士となり、企業法務、民事事件等を幅広く取り扱っている。
著書として、中島弘雅・松嶋隆弘編著『金融・民事・家事のここが変わる!実務からみる改正民事執行法』(ぎょうせい、2020年、分担執筆)、上田純子・植松勉・松嶋隆弘編著『少数株主権等の理論と実務』(勁草書房、2019年、分担執筆)、民事証拠収集実務研究会編『民事証拠収集-相談から執行まで』(勁草書房、2019年、分担執筆)、根田正樹・松嶋隆弘編『会社法トラブル解決Q&A⁺e』(ぎょうせい、2018年追録より分担執筆)等がある。

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