初めての株主総会~その弐(電話相談編part2)
もしもし、つかさ商事株式会社の元木ですけど。熊谷先生いらっしゃいますか。
はい、熊谷です。いつもお世話になっております。
これはこれは、先生でしたか。先日お送りしましたクッキーはいかがでしたか。
ええありがとうございました。事務所スタッフ共々、美味しくいただきました。
それは良かったです。日頃からアンテナを張っておいて良かったです。本当は事務所をご訪問した際にお渡ししたかったのですが、コロナ禍ということで外出もし辛いものでして。
いえいえ。いつどこで感染するかも分かりませんから、仕方ないことと思います。さて、先日のお話の続きと理解しておりますが、宜しいですかね。
はい。前回のお電話で、株主総会を開催するにあたり、株主総会の招集の決定をすること、招集するにあたり決めなくてはならないことについては概ね理解できました。そこで、次のステップなのですが、株主総会の日時や場所、目的事項など一通り決定しましたら、その後はどのような手続きを踏めば宜しいのでしょうか。
株主総会の招集が決定しましたら、次は、株主総会の招集通知を株主の方々に発送することが必要です。
(株主総会の招集の通知)
第二百九十九条 株主総会を招集するには、取締役は、株主総会の日の二週間(・・・省略・・・)前までに、株主に対してその通知を発しなければならない。
2 ~ 4 省略
なるほど。結構ギリギリまで通知はしなくて良いということなのですね。
そのような見方もできますが、かといってギリギリに発送すると、思わぬミスが出てきたりしますので、遅くとも投函した日と総会開催日までの間に丸2週間空くようにして余裕をもって発送手続きを済ませておくことをおススメします。
正直なところ、何名かクレーマーのような株主の方がいると聞いており、参加して欲しくないのですが、その方々にだけ通知をしないということはダメですかね。
クレーマーであろうとなかろうと、絶対に通知をしてください。前回もお伝えしましたとおり、招集手続きにミスがあると、株主総会の決議が取消されてしまう可能性があります。招集通知に関する規定は何条だったか覚えていますか。299(にくく)ても出すのが、招集通知です。
これは一本取られましたな(笑)。
冗談はさて置き、株主の方々の様々な意見があってこそ御社の今後の繁栄にも繋がるものと思います。株主の方々から直接お話を聞く機会は滅多にないことですから、株主総会の際に、株主の方々の意見に耳を傾け、それに真摯に対応することは大切ですよ。
確かにそうですね。株主総会に来て意見を言ってくださる株主の方というのは、会社のことを思って色々な意見を言って下さるのでしょうから、当日は、貴重なご意見として有り難くいただくこととします。
通知は電話ではだめなんですよね。そうすると、普通郵便で足りますかね。
はい。御社は取締役会を設置している会社なので、書面で通知する必要があります。ただし、法律上、発送手段については特に定めはございませんので、普通郵便で問題ありません。ですが、大切なのは、「しっかり発送した」ということですので、領収証などは必ず保管し、いつ郵便局に差し出したのかが分かるようにしておくことが望ましいです。実際のところ、揉めないことがわかっていれば普通郵便で送ったりしていますけれどね。御社のようにクレーマー株主がいることがわかっているならば、形式面で争われると後々大変なのでしっかり証拠が残る形で発送しておく方が良いでしょう。
なるほど。株主数が少ないからといって、安易にポスト投函などしないように気を付けます。
先生、ありがとうございました。招集通知の発送についても理解できましたので、あとは、発送の準備をして、当日を迎えるとしましょうかね。
いやいやいや。その社長の胆力はあっぱれですが、初めての株主総会ですから、当日の準備はしておいた方がいいと思いますよ。
準備ですか。勢いでやっちゃえばいいと思っていましたが。
そのようなスタイルが社長の魅力ではあるのですが、当日は、他の役員の方も出席されるわけですから、段取りくらいは準備しておいた方がいいと思います。社長が会社の全てを理解されているわけではないのでしょうし、当日は、他の役員の方に発言を求める場合もあろうかと思います。そうした場合に備えて、ある程度の段取りは、しっかりと固めておいた方が、当日の進行もスムーズですし、株主の方から見たら、経営側の統制が取れているように見えるというものです。
なるほど。一理ありますね。株主の方の目線からすれば、当日の進行がスムーズでないと、この経営陣は大丈夫かな、この社長で大丈夫かな、となってしまうかもしれませんね。
その通りです。先ほどの社長のスタイルもさることながら、今のように人の意見を聞き入れるところも社長の魅力だと思いますよ。
ありがとうございます。俄然、聞く気が湧いてきました。それで、具体的には、どのように段取りを決めて行けばいいのですかね。
そうですね。事前に議事進行書など、当日の台本のようなものを作成されてはいかがでしょうか。
議事進行書ですか。
はい。例えば、社長は、総会がどのような形で始まるとお考えですか。
うーん。何か司会のような方が開会を宣言するのでしょうか。
惜しいですね。厳密には、議長による開会の宣言により開始されます。御社では、定款に株主総会の議長は社長であることが明記されていたと思いますので、社長が議長として定時株主総会の開会を宣言することになるでしょう。
なるほど。宣言をした上で、議事に入っていくということですね。
そう急がないでください。具体的な議事に入っていったとして、株主の方が誰もいなかったらどうなりますか。
それはもちろん、異議がないということで、議事が全て承認されるということではないのですかね。
そう簡単にはいきません。会社法の定めでは、株主総会の決議についての要件が定められておりますので、それに則って、承認の決議がなされることが必要です。誰もいなければ定足数を満たさないことになりかねません。
(株主総会の決議)
第三百九条 株主総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。
なるほど。株主の方が誰もいないからといって、異議がないということにはならないのですね。
そうなります。通常、会場の受付で、株主の方の確認をされますので、開会宣言の後に、その集計結果に従って、法定の定足数を満たしていることを具体的な数字をもって報告するのが良いと思います。
分かりました。その報告後の進行はどうなりますかね。
前回、少しお話ししましたとおり、株主総会は、会社の過年度の実績の評価、次年度の見通しを株主の皆さんに説明する大事な機会ですので、まずは、前期の事業概要の説明をし、その後、当期の予定事業内容や目標をお伝えするのがいいかと思います。それが一通り終わりましたら、具体的な決議事項について審議していく流れになるかと思います。
なるほど。大まかな流れは把握できました。今の先生のお話をもとに、議事進行書を作成するよう社内に指示します。
とはいえ、心配が尽きませんね。当日は、先生が隣に居てくだされれば心強いのですが。
顧問弁護士は、会社の役員ではございませんので、隣に座るわけにもいかないでしょうが、後ろに座ってお手伝いすることは可能です。
当日は、近くの役員から「頭の中が真っ白に」なんて囁かれないように、議事進行書を入念に読み込んで頑張ってみます。
そうしてみてください。またご不安な点があったらお電話ください。
はい。先生、今日はありがとうございました。