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契約書の書き方 第19回 建物賃貸借契約書〔事業用〕①

契約書の書き方 第19回 建物賃貸借契約書〔事業用〕①

この記事の著者
弁護士(東京弁護士会所属)  林康弘法律事務所代表 

はじめに

今回からは、中小企業や個人事業主が本店・支店・営業所などを設置し、また、移転する際にも締結することが多い建物賃貸借契約について、貸す側と借りる側がそれぞれ注意すべき点に焦点を当てて解説していきます。

建物賃貸借契約書のひな型・書式は数多く存在しますが、宅地建物取引業者が媒介して契約が締結する場合、宅地建物取引業法(昭和27年法律第176号)37条により契約成立後に交付することが義務付けられている書面(37条書面とよばれています。)を兼ねた書式となっていることが一般的です。

他の契約書に関する過去のコラムでは、契約条項を第1条から順番に逐条的に解説してきましたが、今回以降の建物賃貸借契約に関するコラムでは、標準的な契約条項を紹介しながら、契約当事者が特に注意すべき点に絞って解説することとします

※ 以下の規定例では、賃貸人を甲、賃借人を乙とします。なお、宅地建物取引業者が媒介する契約では、契約書の最初に頭書き部分を表形式で記載し、その後、本体の契約条項を第1条から順番に記載するという構成が採られることが多いため、本コラムの規定例もそのような構成の契約書を想定しています。


契約期間

頭書(3) 契約期間

年  月  日 から  年  月  日まで(  年間)

目的物件の引渡し時期

年  月  日

第2条(契約期間)

  • 1 契約期間及び本物件の引渡し時期は、頭書(3)記載のとおりとする。ただし、契約期間満了の○○か月前までに、甲又は乙が相手方に対し更新しない旨を書面によって通知した場合を除き、本契約は、契約期間満了日の翌日から○○年間、従前の契約と同一の条件で更新されるものとし、その後も同様とする。
  • 2 本契約が更新された場合、乙は、甲に対し、頭書(8)の記載に従い、更新料を支払わなければならない。

契約期間については、多くの場合、2年間などと定めた上で、上記規定例2条1項ただし書のように、契約期間満了前の一定時期までに当事者の一方から更新しない旨の通知がされない限り、同一の契約条件で更新されるという自動更新の合意条項が設けられています。

仮に、このような自動更新の規定などによって当事者間の合意による更新がされなかったとしても、期間満了の1年前から6か月前までの間に更新拒絶の通知等をしないと、借地借家法26条1項※1の法定更新が適用され、契約は更新されることになります。

更新拒絶について注意すべき点は、賃貸人が期間満了により契約を終了させようとする場合(上記規定例2条1項ただし書の場合も、法定更新の場合も同じです。)、正当事由が必要とされることです(借地借家法28条※2)。一般的に、賃貸人が更新拒絶をすることは相当困難だと考えておかなければなりません。正当事由については、同条所定の「財産上の給付」すなわち立退料の問題だと誤解する人もいますが、立退料は正当事由の補完要素と解釈されており、立退料が高ければ更新拒絶が認められるというものではありません。

※1(建物賃貸借契約の更新等)

第26条 建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の1年前から6月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。

※2(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)

第28条 建物の賃貸人による第26条第1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。

賃借人は定期建物賃貸借契約に注意!

上記のとおり、賃貸人からの更新拒絶のハードルは高いため、賃貸人が契約期間満了によって確実に契約を終了させたい場合には、定期建物賃貸借(借地借家法38条)とすることになります。

定期建物賃貸借とするためには、賃貸人が賃借人に対し、契約締結前に、契約の更新がなく期間満了により賃貸借が終了する旨を記載した書面を交付して説明する必要があります。

賃借人側では、借りる物件が定期建物賃貸借となっていないかどうかについて、契約締結前によく確認しておかないと、定期建物賃貸借の場合には期間満了時に出て行かざるを得ず、手遅れになる危険性があります。


賃料

頭書(4) 賃料等

賃料

 月額      円

 

(内消費税等   円)

管理・

共益費

 月額     円


(内消費税等  円)

保証金

         円

(賃料  か月)

償却

賃料等の支払時期

翌月分を毎月   日まで

賃料等の支払方法

□振  込

□持  参

持参先

□口座引落

委託会社名

第3条(賃料)

  •  1 乙は、甲に対し、頭書(4)の記載に従い賃料を支払わなければならない。
  •  2 甲及び乙は、次の各号の一に該当するときは、協議の上、賃料を改定することができる。
      • 一 土地又は建物に対する租税その他の負担の増減により、賃料が不相当となった場合
      • 二 土地又は建物の価格の上昇又は低下その他の経済事情の変動により、賃料が不相当となった場合
      • 三 近傍類似の建物の賃料の変動が生じ、賃料が不相当となった場合
  • 3 1か月に満たない期間の賃料は、1か月を30日として日割り計算した額とする。

建物賃貸借における賃料の支払時期について、民法上の原則は当月分についてその月末(民法614条)ですが,実務上,当事者間の特約により、上記頭書(4)のように、翌月分を当月の一定の日(例えば27日、月末)までに支払うこととされている場合がほとんどです。

上記規定例3条2項では、賃料の改定について規定しています。契約締結後の社会経済等の事情によっては、契約時に定めた賃料が相場とかけ離れてしまう場合がありますので、このような規定が設けられます。ただし、賃料増減額請求権は、契約条項として定めていなくても、借地借家法32条によって法律上認められます。

これに対し、先ほど説明した定期建物賃貸借の場合には、この賃料増減額請求権を特約で排除することが可能となっています(借地借家法38条7項)。

賃料の増減額について、当事者間で協議が調わない場合には、裁判所の手続を利用することとなりますが、調停前置主義が採られており、訴えを提起する前にまず簡易裁判所に調停の申立てをしなければなりません(民事調停法24条の2第1項)。


共益費

第4条(共益費)

  • 1 乙は、甲に対し、本物件が存する建物・敷地の共用部分の維持管理に必要な光熱費、上下水道使用料、清掃費等(以下「維持管理費」という。)に充てるため、共益費を頭書(4)の記載に従い支払うものとする。
  • 2 甲及び乙は、維持管理費の増減により共益費が不相当となったときは、協議の上、共益費を改定することができる。
  • 3 1か月に満たない期間の共益費は、1か月を30日として日割り計算した額とする。

共益費は、目的物件の建物やその敷地についての共用部分の電気代や清掃費等に充てるために支払うものです。通常、上記規定例4条1項と頭書(4)の「管理・共益費」のように規定されていれば、共用部分にかかる賃借人の実費負担額は、毎月定額ということになりますので、賃借人がこれ以外に共用部分にかかる費用を負担する必要はありません。

上記規定例4条2項では、共益費の改定について規定しています。共益費の増減額についても、協議が調わない場合、賃料自体の場合と同様に借地借家法32条による法律上の請求権が認められるでしょうか。

借地借家法が制定される前の旧借家法下での事案について、裁判例(東京地判平成元年11月10日・判例時報1361号85頁)は、次のとおり判示して賃料増減額請求の規定の準用を認めています。

「共益費、清掃費は、本来実費負担の性質を有するものであるが、事務的便宜等のため、契約上一定額をもって支払義務を定めることは世上普通に行われているところであり、・・・共益費、清掃費についても、物価、公共料金、人件費その他の要因によりその増減の必要を生ずることは賃料の場合と変りがないから、本件の共益費及び清掃費についてはその増減の請求につき賃料の増減額に関する借家法の規定の準用を認めるのが相当である。」

次回は、保証金・敷金の問題を中心として、建物賃貸借契約書(事業用)に関する解説を続けます。 

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著者プロフィール

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林 康弘

弁護士(東京弁護士会所属) 林康弘法律事務所代表

中央大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学大学院法務研究科修了。東京弁護士会民事訴訟問題等特別委員会副委員長。常葉大学法学部非常勤講師。東京都内の事業会社、法律事務所等で勤務した後、弁護士となり、企業法務、民事事件等を幅広く取り扱っている。
著書として、中島弘雅・松嶋隆弘編著『金融・民事・家事のここが変わる!実務からみる改正民事執行法』(ぎょうせい、2020年、分担執筆)、上田純子・植松勉・松嶋隆弘編著『少数株主権等の理論と実務』(勁草書房、2019年、分担執筆)、民事証拠収集実務研究会編『民事証拠収集-相談から執行まで』(勁草書房、2019年、分担執筆)、根田正樹・松嶋隆弘編『会社法トラブル解決Q&A⁺e』(ぎょうせい、2018年追録より分担執筆)等がある。

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