契約書の書き方 第20回 建物賃貸借契約書〔事業用〕②
今回は、保証金・敷金をめぐる問題を中心として、事業用の建物賃貸借契約書の解説を続けます。
保証金・敷金
頭書(4) 賃料等
賃料 |
月額 円
(内消費税等 円) |
管理・ 共益費 |
月額 円 (内消費税等 円) |
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保証金 |
円 (賃料 か月) |
償却 |
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賃料等の支払時期 |
翌月分を毎月 日まで |
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賃料等の支払方法 |
□振 込 |
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□持 参 |
持参先 |
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□口座引落 |
委託会社名 |
保証金の場合
第6条(保証金)
- 1 乙は、本契約から生じる債務の担保として、頭書(4)に記載する保証金を甲に預け入れるものとする。
- 2 乙は、本物件を明け渡すまでの間、保証金をもって賃料、共益費その他の債務と相殺することができない。
- 3 甲は、この契約の解除又は終了により、乙が当該賃貸借物件についてこの契約に定める明渡しその他の義務を完全に履行したことを甲が認めた場合には、遅滞なく第1項の保証金より償却費として解約時賃料の○○か月分相当額を差し引き、返還するものとする。
- 4 甲は、本物件の明渡しがあったときは、遅滞なく、賃料の滞納その他の本契約から生じる乙の債務の不履行が存在する場合には当該債務の額を差し引いたその残額を、無利息で、乙に返還しなければならない。
- 5 前項の規定により乙の債務額を差し引くときは、甲は、保証金の返還とあわせて債務の額の内訳を明示しなければならない。
敷金の場合
第6条(敷金)
- 1 乙は、本契約から生じる債務の担保として、頭書(4)に記載する敷金を甲に預け入れるものとする。
- 2 乙は、本物件を明け渡すまでの間、敷金をもって賃料、共益費その他の債務と相殺することができない。
- 3 甲は、本物件の明渡しがあったときは、遅滞なく、賃料の滞納その他の本契約から生じる乙の債務の不履行が存在する場合には当該債務の額を差し引いたその残額を、無利息で、乙に返還しなければならない。
- 4 前項の規定により乙の債務額を差し引くときは、甲は、敷金の返還とあわせて債務の額の内訳を明示しなければならない。
令和2年4月1日施行の改正民法は、次のとおり、改正前にはなかった敷金に関する明文規定を設けています。
民法622条の2
- 1 賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
- 一 賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。
- 二 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。
- 2 賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。
この条文は、従来の裁判例に基づき、①敷金とは名目を問わず賃料債務等を担保する目的で賃借人が賃貸人に交付する金銭を意味すること、②目的物の明渡時に敷金返還請求権が発生すること、③賃貸人に賃借人の未払債務への敷金充当権などを規定しています。
上記①のとおり名目を問いませんので、「保証金」であっても、上記規定例6条のように賃借人の債務の担保を目的するものは、民法上の敷金に該当します。
「保証金」は、多くの場合、上記規定例6条3項のように、建物の明渡時に「償却費」として賃料の数か月分相当額を差し引いて返還することとされます。この償却費は、保証金のうち一定額は返還せずに差し引くというもの(敷引き特約)です。通常、この償却費を原状回復費に充てることとされますが、次回解説するとおり、賃借人としては、償却費として差し引かれる分を超えて原状回復費を負担させられることになっていないかどうか、契約締結時に保証金に関する規定と原状回復義務に関する規定を見比べてチェックすることが必要です。
保証
頭書(7) 乙の債務の担保
担保の方法 (本契約で採用するものにチェックし、その右欄に所定の事項を記載する) |
□連帯保証人 |
氏名 |
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住所 |
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□家賃債務保証会社の提供する保証 |
家賃債務保証会社名 |
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主たる事務所の所在地 |
第19条(乙の債務の担保)
- 1 本契約においては、頭書(7)に記載する方法により、乙の債務を担保する。
- 2 頭書(7)で「連帯保証人」にチェックがある場合には、次の各号の定めによるものとする。
- 一 頭書(7)記載の連帯保証人は、乙と連帯して、本契約から生じる乙の債務を負担するものとする。
- 二 連帯保証人が死亡し、又は破産開始決定等によって連帯保証人として要求される能力又は資力を失ったときは、第17条の規定に基づき乙は直ちにその旨を甲に通知するとともに、甲の承諾する新たな連帯保証人に保証委託するものとする。
- 三 前号の場合において新たに甲との間で連帯保証契約を締結した連帯保証人は、第一号に定める義務を負うものとする。
- 3 頭書(7)で「家賃債務保証会社の提供する保証」にチェックがある場合には、次の各号の定めによるものとする。
- 一 頭書(7)記載の家賃債務保証会社が提供する保証の内容については別に定めるところによるものとし、甲及び乙は、本契約と同時に同保証を利用するために必要な手続きをとらなければならない。
- 二 乙が前号の手続きをとらない場合その他乙の責に帰すべき事由により前号に定める保証が利用できない場合は、本契約は成立しないものとする。ただし、乙は、頭書(3)記載の契約の始期から本物件を明渡すまでの間の賃料相当損害金を負担しなければならない。
- 三 前号本文の場合において、別に連帯保証人を立てることにより契約を成立させることを甲乙間で合意した場合には、前号の規定にかかわらず、甲と連帯保証人との間で連帯保証契約が成立したことをもって、頭書(3)記載の契約の始期に本契約が有効に成立したものとみなす。
先ほどの「保証金」は、主に建物明渡時の原状回復費を担保することを目的とするものですが、これとは別に、主に賃料債務の担保を目的として、連帯保証人による保証または保証会社による機関保証が必要とされるのが通常です。
連帯保証と単純な保証との違い
連帯保証は、保証人が主債務者と連帯して債務を負担することを合意した保証です(民法454条)。単純な保証との違いは、連帯保証には、次の各主張が認められないことです。
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催告の抗弁(民法452条)
債権者が保証人に対して債務の履行を請求した場合、保証人が、まず主債務者に催告をすべき旨を請求することができる権利。 -
検索の抗弁(民法453条)
債権者が催告の抗弁を受けて主債務者に催告をした後であっても、保証人が、主債務者に弁済をする資力があり、執行が容易であることを証明した場合、債権者は、まず債務者の財産に執行しなければならないというもの。
要するに、建物賃貸借契約における賃借人の連帯保証人の場合、賃貸人が賃借人に対して賃料を請求するのではなく、いきなり連帯保証人に対して請求してきても、法的に文句は言えないということになります。
ただし、実務上は、賃借人が履行遅滞に陥ることなく約定どおり賃料等を支払っている限り、一般的に賃貸人が連帯保証人に対して賃料等を請求することはありません。
次回は、更新や原状回復に関わる問題を中心として、建物賃貸借契約書(事業用)に関する解説を続けます。