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建築審査会と建築確認に対する審査請求 建築審査会の手続の概要(1)

著者: 弁護士・法務博士(専門職)  平 裕介

建築審査会と建築確認に対する審査請求 建築審査会の手続の概要(1)

〔建築審査会と建築確認に対する審査請求〕

以前、「近隣住民と建築紛争になった場合、建設工事請負契約の工期はどうなるのか?」について色々と教えていただきました。その際、近隣住民の方々が、私ども建設会社側に対して、建設工事に反対したり、あるいは設計の変更等を求めたりする場合に、区市町村や都道府県の「建築審査会」を利用することがある、という話をしていただきましたよね。今日は、この建築審査会の手続のポイントに関して、教えてほしいのですが…。

はい、以前もご説明させていただいたとおり、近隣住民の方々による「建築審査会」(建築基準法78条1項)の利用は、行政上の不服申立ての一種で、裁判所に提起する訴訟とは異なるものです。本日は、建築審査会で最も多いタイプの不服申立てである建築確認処分(建築基準法6条1項)に対する「審査請求」(行政不服審査法2条)の手続の概要や要点について説明させていただきます。

建築確認は、確か、民間の機関に行ってもらう場合もありますよね。この場合も、同じように審査請求されることがあるということでしょうか。

そのとおりです。その民間の機関とは指定確認検査機関(建築基準法6条の2第1項・2項・77条の18以下)のことで、知事や国土交通大臣に指定された株式会社、一般財団法人等が建築主事(同法6条1項)と同じように建築確認の検査業務を行うことになります。そして、指定確認検査機関によって建築確認が行われた場合も、付近住民は同じく審査請求を行うことができますので、建築審査会の手続も同様ということです。

〇建築基準法(昭和25年法律第201号)(抜粋、下線は引用者)
(建築物の建築等に関する申請及び確認)

第6条 建築主は、第一号から第三号までに掲げる建築物を建築しようとする場合(中略)、これらの建築物の大規模の修繕若しくは大規模の模様替をしようとする場合又は第四号に掲げる建築物を建築しようとする場合においては、当該工事に着手する前に、その計画が建築基準関係規定(この法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定(以下「建築基準法令の規定」という。)その他建築物の敷地、構造又は建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定で政令で定めるものをいう。以下同じ。)に適合するものであることについて確認の申請書を提出して建築主事の確認を受け、確認済証の交付を受けなければならない。当該確認を受けた建築物の計画の変更(国土交通省令で定める軽微な変更を除く。)をして、第一号から第三号までに掲げる建築物を建築しようとする場合(中略)、これらの建築物の大規模の修繕若しくは大規模の模様替をしようとする場合又は第四号に掲げる建築物を建築しようとする場合も、同様とする。

一~四 (略)

2~9 (略)

(国土交通大臣等の指定を受けた者による確認)

第6条の2 前条第一項各号に掲げる建築物の計画(前条第三項各号のいずれかに該当するものを除く。)が建築基準関係規定に適合するものであることについて、第77条の18から第77条の21までの規定の定めるところにより国土交通大臣又は都道府県知事が指定した者の確認を受け、国土交通省令で定めるところにより確認済証の交付を受けたときは、当該確認は前条第一項の規定による確認と、当該確認済証は同項の確認済証とみなす。

2~7 (略)
(建築審査会)

第78条 この法律に規定する同意及び第九十四条第一項前段の審査請求に対する裁決についての議決を行わせるとともに、特定行政庁の諮問に応じて、この法律の施行に関する重要事項を調査審議させるために、建築主事を置く市町村及び都道府県に、建築審査会を置く。

2 (略)
(建築審査会の組織)

第79条 建築審査会は、委員五人以上をもつて組織する。

  • 2 委員は、法律、経済、建築、都市計画、公衆衛生又は行政に関しすぐれた経験と知識を有し、公共の福祉に関し公正な判断をすることができる者のうちから、市町村長又は都道府県知事が任命する。

〇行政不服審査法(平成26年法律第201号)(抜粋、下線は引用者)
(処分についての審査請求)

第2条 行政庁の処分に不服がある者は、(中略)審査請求をすることができる。


〔審査請求期間について〕

建築確認についての審査請求は、いつまでに起こせるのでしょうか。

建築確認処分についての審査請求は、原則として、同処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月を経過する前に行わなければならない、とされています(行政不服審査法18条1項参照)。また、建築確認処分について「再調査の請求」(同法5条1項)がされた場合は少し違うのですが(同法18条1項参照)、この再調査の請求は現状実務では殆ど使われていませんので、ここでは説明を省略します。そして、この原則の例外として、「正当な理由」(同法18条1項)があるときは、3か月を経過する後も審査請求を行えますが、「正当な理由」が実際に認められることは多くはありません。

つまり、建築確認が下りてから3か月経てば、もう審査請求をされることはないので、建設事業者側としてはひとまず安心ということですね。

基本的にはそのようなイメージでOKなのですが、先ほども説明したとおり、建築確認処分があったことを付近住民が「知った」日の翌日から起算して3か月を経過することが必要です。

まさか、知らなかった、言われてしまうと、いつまで経っても3か月の期間が過ぎないということですか。

いえ、そのようなことはありません。社会通念上処分のあったことが当事者の知り得べき状態に置かれたときには、反証のない限り、知ったものと推定することができる、というのが判例の立場です1。なお、仮に知らなかったとされる場合であっても、処分についての審査請求は、正当な理由がない限り、処分があった日の翌日から起算して1年を経過したときはできなくなります(同法2項)。もっとも、この1年の審査請求期間が問題になることは実際には殆どないですね。

〇行政不服審査法(平成26年法律第201号)(抜粋、下線は引用者)

(審査請求期間)

第18条 処分についての審査請求は、処分があったことを知った日の翌日から起算して3月(当該処分について再調査の請求をしたときは、当該再調査の請求についての決定があったことを知った日の翌日から起算して1月)を経過したときは、することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。

  • 2 処分についての審査請求は、処分(当該処分について再調査の請求をしたときは、当該再調査の請求についての決定)があった日の翌日から起算して1年を経過したときは、することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。

3 (略)


〔審査請求の利益について〕

ところで、建物の建設工事が完了した後でも、その建物の付近住民の方々は、建築確認についての審査請求を行うことはできるのでしょうか。

その場合には、審査請求の利益(不服申立ての利益2)が失われ、建築確認処分についての審査請求は適法にできなくなるのが判例・実務の立場です3。ただし、「近隣住民と建築紛争になった場合、建設工事請負契約の工期はどうなるのか?」についてのご説明の際にお話ししました、建築確認の審査請求とともに申し立てられる執行停止申立て(行政不服審査法25条2項)が認められてしまう場合には、工事自体を続けられなくなってしまいますので注意する必要があります。

そうすると、執行停止が認められることなく建設工事が完了すれば、もう訴訟で争われることもなくなるということでしょうか。

いえ、そういうわけではありません。損害賠償請求訴訟や、違法建築物に対する是正命令・除却命令(建築基準法9条1項)の発動を求める義務付け訴訟(行政事件訴訟法3条6項1号)によって争われるリスクはあります4。とはいえ、現実にこれらの請求が認められることはかなり少ないので、実際のところこれらの訴訟が起こされることはほとんどありません。

審査請求期間や審査請求の利益のことなど建築確認についての審査請求のポイントがわかってきましたが、どのような住民が審査請求を行えるのか(審査請求適格)など建築審査会の手続についてはまだ聞きたいことがあります。とはいえ、長くなってしまったので、別の機会に伺いたいと思います。

わかりました。では次の機会に、審査請求適格のことなどについて説明させていただきます(→建築審査会の手続の概要(2))。


1 最一小判昭和27年11月20日民集6巻10号1038頁、小早川光郎=高橋滋『条解行政不服審査法(第2版)』(弘文堂、2020年)115頁〔磯部哲〕参照。
2 宇賀克也『行政法概説Ⅱ 行政救済法〔第7版〕』(有斐閣、2021年)49頁。
3 最二小判昭和59年10月26日民集38巻10号1169頁、宇賀・前掲注(2)223~224頁参照。
4 橋本博之『行政判例ノート〔第4版〕』(弘文堂、2020年)205頁参照。

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著者プロフィール

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平 裕介

弁護士・法務博士(専門職)

永世綜合法律事務所、東京弁護士会所属。中央大学法学部法律学科卒業。

行政事件・民事事件を中心に取り扱うとともに、行政法学を中心に研究を行い、大学や法科大学院の講義も担当する。元・東京都港区建築審査会専門調査員、小平市建築審査会委員、小平市建築紛争調停委員、国立市行政不服審査会委員、杉並区法律相談員、江戸川区法律アドバイザー、厚木市職員研修講師など自治体の委員等を多数担当し、行政争訟(市民と行政との紛争・訴訟)や自治体の法務に関する知見に精通する。

著書に、『行政手続実務体系』(民事法研究会、2021年)〔分担執筆〕、『実務解説 行政訴訟』(勁草書房、2020年)〔分担執筆〕、『法律家のための行政手続きハンドブック』(ぎょうせい、2019年)〔分担執筆〕、『新・行政不服審査の実務』(三協法規、2019年)〔分担執筆〕等多数。

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