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コンプライアンスの意味を簡単に説明 よくある違反の事例や原因を紹介

監修者:ひばり社労士事務所  代表 / 社会保険労務士  村松 竜眞

コンプライアンスの意味を簡単に説明 よくある違反の事例や原因を紹介

近年、ビジネスの現場で「コンプライアンス」という言葉をよく耳にするようになりました。ただ聞いたことはあるが、いまいち意味が分からないという方も多いのではないでしょうか。

コンプライアンスは、「命令や要求などに従うこと」を意味する言葉です。本記事では、コンプライアンスの概要や重要性、違反したらどうなるかなどを解説します。


コンプライアンスの意味

コンプライアンス(compliance)は、日本語に訳すと「法令遵守」という言葉で表されます。

ただ、翻訳としては「法令」遵守という意味になりますが、守るべき対象は法令だけにとどまりません。

就業規則といった会社の規則や、倫理観や道徳観に基づく社会的なルール、公序良俗の意識など、明文化されていないものまで含まれ、近年ではコンプライアンスの意味が多様化しています。


コンプライアンスはなぜ重要なのか

コンプライアンスが重視されるようになったのは、ここ数十年ほどの話です。

しかし、コンプライアンスという言葉が普及する前は、法令遵守が不要だったかというとそうではありません。

企業は社会から信用を得なければ、存続できません。企業にはCSR(社会的責任)を果たす義務があり、法令遵守は大前提としてどの企業も意識しなければいけないことです。

ではなぜ、あらためてコンプライアンスが重視されるようになったのでしょうか。その背景を理解するには、話を1990年代に遡る必要があります。

1990年代に入るとバブル崩壊の影響で、不況に苦しむ企業が増加しました。

そして、粉飾決算などの不正や不祥事が多数明らかになり、行政の方針変更や法改正が行われるようになりました。

企業に対する監視の目が強くなるなかで、もともと必要なことではあったコンプライアンスの重要性が徐々に高まっていったのです。

2000年代に入ると、コンプライアンスがますます重視されるようになります。それは、情報ツールの多様化やSNSの発達により、コンプライアンスに違反した際の影響が大きくなったためです。


コンプライアンス違反が起きるとどうなるのか

コンプライアンス違反が起きた時、企業に与える影響はどのようなものがあるでしょうか。

考えられるものとしては、罰則を科せられたり賠償金を請求されたりという直接的なものと、信頼を失った結果として受ける間接的なものがあります。

直接的な影響としては、企業や経営者が支払う罰金や、経営者に科せられる懲役、被害者から請求される賠償金などがあります。

違反した法令により、罰則の内容は異なります。

例えば、粉飾決算(有価証券報告書の虚偽記載)では、金融商品取引法の第197条に、重要な項目において虚偽の記載があるものを提出した場合、「10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金」を科すと定められています。

間接的な影響としては、コンプライアンス違反を起こすような会社と認識されることによる、企業としての信頼喪失やブランドイメージの失墜などが挙げられます。

この場合、今まで積み上げてきた商品・サービスに対する信頼が一瞬にして失われ、売り上げの大幅な減少につながるでしょう。事業を縮小しなければならなくなったり、倒産したりと、企業の存続に多大な影響を与えることもあります。


よくあるコンプライアンス違反の事例

コンプライアンス違反となる事例としては、どのようなものがあるでしょうか。

代表的なものとしては、「労務に関する違反」、「不正会計」「法令に対する違反」「情報漏洩」が挙げられます。

1. 不適切労働など労務に関する違反

政府や厚生労働省が働き方改革をうたう昨今、当たり前と思っていた労働環境が、コンプライアンス違反を犯しているかもしれません。

労務に関するコンプライアンス違反の例は、以下のようなものが挙げられます。

・法律により定められた残業時間の上限を超える長時間労働

特別な事情があって労使の合意が取れていたとしても、年間720時間を超えたり、単月で100時間以上の残業をさせることはできません。

また、複数の月における残業時間を平均して80時間を超える場合にも違反とみなされる可能性があります。違反となった場合には、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるおそれがあります。

・残業代・時間外賃金の不払い

従業員が会社の周囲や社内の清掃を行う企業も多くあります。

ただ、例えば「就業時間より前に出社して掃除をすることを社員に強要したが、時間外賃金は支払わない」とすることも、コンプライアンス違反とみなされる可能性が高いので注意が必要です。

・労働基準法に反する労働環境

労働者が健康を保ちながら安全に働き続けることができるように、快適な職場環境を作るべく、労働安全衛生法が労働基準法の特別法として定められています。

労働安全衛生法では、労働者が仕事に起因する事故や病気にあわないように措置をすることを事業者に義務付けています。

例えば、事業者は新しく社員を雇った際、その社員に健康診断を受けさせ、その後も年1回健康診断を実施しなければいけないと労働安全衛生法第66条に定められています。

企業は従業員の健康を守るために、きちんと定期的に健康診断を受けられるような体制を整えなければいけません。

・正当な理由に基づかない従業員解雇

結婚や妊娠、育児休業を申し出たことなどを理由として女性を解雇することは、法律で禁止されています。

結婚が決まった女性に対して寿退社を強要する、あるいは赤ちゃんに何かあったら危ないからといって妊娠した女性に退職を促したり解雇したりすることは、コンプライアンス違反となります。

・社会保険対象者の未加入

健康保険や厚生年金保険は、業種や規模によっては強制適用とされています。

適用事業所で働く労働者は、アルバイトであっても1日または1週間の労働時間および1か月の所定労働日数が通常労働者の4分の3以上あれば、加入させなければなりません。

アルバイトやパートの社会保険料を負担したくないからといって、社会保険に加入させないことはコンプライアンス違反となります。

2. 不正会計による違反

会社の状況を利害関係者に伝える重要なものとして、財務諸表という書類があります。

これは、会社の財政状況や経営成績を理解するために重要な書類です。

不正会計とは、真実とは異なる会社の状況を利害関係者に信じ込ませるため、財務諸表に嘘の記載をしたり、必要な情報を載せなかったりすることを言います。

会社の信用を損なうだけでなく、刑事責任を問われたり、賠償金を請求されたりするなど、企業に大きなダメージを与えます。

不正会計が明らかになった結果、経営破綻に陥った企業も存在する重大なコンプライアンス違反です。

3. 遵守すべき法令に対する違反

企業が行う取引に関しては商法に基づくことが一般的ですが、業種によっては特別な法律が関わってくることがあります。

例えば、レストランなど料理を扱う場合は食品衛生法、書籍を出版する企業であれば著作権法、分譲マンションの販売をしたり賃貸物件の仲介をしたりする不動産会社は宅地建物取引業法など、様々な法律があります。

自分の会社が行っている事業がどんな法律に関わってくるのか把握していないと、遵守すべき法律に違反するかもしれません。

4. 情報漏洩による違反

個人情報の保護に関する法律が制定され、個人情報を取り扱う企業は情報を漏洩させたり紛失したりしないようにきちんと管理することが義務付けられています。

また、会社の中には個人情報だけでなく、外へ漏らしてはいけない機密情報がたくさんあります。

こういった情報を、わざと流出させたり、無意識のうちに漏洩させてしまったりといったコンプライアンス違反のケースがあります。

例えば、お昼休みに同僚と外食に行った先での何気ない会話や、社内で撮って気軽にSNSにアップした写真が、重大な情報漏洩につながるおそれもあります。

違反する気がなかったとしても、情報は一度流出してしまうとなかったことにはできないので、注意が必要です。


コンプライアンス違反が起きてしまう3つの原因

コンプライアンス違反が起きる原因としては、意識や認識の不足、体制や仕組みの不備などが考えられます。コンプライアンス違反の発生を防ぐためにも、原因を理解し対策することが重要です。

1. コンプライアンスへの意識・知識が不足している

コンプライアンス違反の原因としては、まず意識・知識が不足していることが考えられます。

守るべき法律についてしっかり理解できていないと、コンプライアンス違反に当たる行為がそもそもわからないという状態になってしまいます。

例えば、最低賃金法に基づいて決定される東京都の最低賃金は、令和3年10月より1,041円となりましたが、10年前の平成23年は837円でした。10年前の知識のまま最低賃金を変更していなかった場合、知らないうちにコンプライアンス違反を犯すことになってしまいます。

最低賃金に限らず、企業を取り巻く法律は年々変化していきます。

法律に関する知識が浅いと、無意識のうちにコンプライアンスに違反してしまうという事態を引き起こしかねません。

2. 違反を防止・是正する仕組みが整っていない

コンプライアンス違反を防止したり是正したりする仕組みが社内になく、違反となる行動が常態化しているケースもあります。

例えば、不正を発見した際の報告窓口が整備されていない場合や、機密情報へのアクセスが誰でもどこでも容易に行える場合は、コンプライアンス違反の発生につながりやすくなり、常態化するおそれが高まるでしょう。

3. 違反が起きやすい悪循環ができている

上司からのプレッシャーが強いことや過剰なノルマ設定がされていることなどは、労働者を追い詰め、不正行為の発生リスクを高めます。

そして、不正を起こす動機や機会が蔓延することで、法令違反が起きやすくなるという悪循環となってしまいます。

例えば、ノルマ達成を強要されている社員がいるとします。その社員はノルマのために法律に違反する長時間労働をせざるをえなくなり、その結果、心身の健康を損なってしまうこともあるでしょう。

社員がノルマを達成したと虚偽の報告を行えば、多数の違反が社内に発生している状況に陥ってしまいます。


コンプライアンス違反を防ぐ3つの対策例

では、コンプライアンス違反が起きるのを防ぐためにはどうしたらよいのでしょうか。対策がうまくいっていない場合は、以下の方法を実施してみてください。

1. チェック体制やマニュアルを設ける

コンプライアンス違反やそれを誘発する環境が発生していないか、社内に二重・三重のチェック体制を設けることが重要です。第三者による外部監査を設定すると、客観的な視点から厳格なチェックを受けられるので、より効果的です。

チェック体制と共に社内規則をマニュアル化して社内で共有することも重要です。正しい行動をスムーズに行えるような環境が整い、コンプライアンス違反の防止につながります。

コンプライアンス管理規程のひな形が必要な場合は、こちらの書式テンプレートをご参照ください。
(規程雛形)コンプライアンス管理規程

2. 研修実施によって意識向上を図る

知識不足はコンプライアンス違反につながります。そこで、組織全体に対するコンプライアンス研修を行い、社内全体の知識と意識の向上を図るのもおすすめです。

研修を通して、遵守すべき法令や具体的な違反事例に関する知識を身に着けたり、違反した場合の罰則について学んだりすることで、不適切な行為の発生防止につながります。

社内の常識がコンプライアンス違反の温床になっていることもあります。そのため、専門知識を持った外部講師を招いて研修やセミナーを開催し、第三者の意見に触れることが可能な場を設けることも効果的です。

3. 内部通報窓口を整備する

コンプライアンス違反を防止する仕組みづくりとして、社内での不正発見時に報告できる内部通報窓口を設置することも重要です。

内部からの通報が、もみ消されるなど不当に扱われることなく適切に対応され、自浄作用が発揮されるような仕組みが作られれば、企業の社会的信用や企業価値を高めることにつながります。通報窓口は社内・社外のいずれか、または両方に設けるとよいでしょう。

窓口の設置と併せて、通報者に不利益がないような体制を整えることも重要です。

労働者が社内もしくは社外の通報窓口に、発見した違法な行為を通報することは「公益通報」と呼ばれます。

公益通報を理由に企業が通報者に対して不利益な取り扱いをすることは、公益通報者保護法で禁止されています。


コンプライアンス対策強化によって得られること

コンプライアンスの遵守は、組織の信頼、安心、安全性に直結します。

不正な行いによる不利益の防止だけでなく、企業としてのコンプライアンス規定を強化することで企業全体の方向性も定まるでしょう。

それは結果的に、企業の存続と永続性につながっていきます。


まとめ

法令遵守とも訳されるコンプライアンスは、国や自治体が定めた法令以外に、社内のルールや倫理観・道徳といった社会的な規範も含まれます。

1990年代から重視されるようになり、IT技術やSNSの普及によって、現代ではコンプライアンスの影響はますます大きくなっています。

企業が信用を得るのには長い時間がかかりますが、失うのは一瞬です。

コンプライアンスの意味や重要性を社員一人一人が理解して、違反防止の仕組みを構築することが、企業の未来を守るためにとても重要です。

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監修者プロフィール

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村松 竜眞

ひばり社労士事務所 代表 / 社会保険労務士

ひばり社労士事務所 代表。 立命館大学経済学部卒業。労働基準法を無視した劣悪な環境での就労経験から、社会保険労務士を目指す。

社労士事務所や労働局、ハローワークで実務を経験した後開業。

一般企業での就業経験と社労士としての実務経験から、”制度と人”または”雇用者と被雇用者”の感情のバランスを重視した社労士として活動している。

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