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会計参与の存在意義と企業のファイナンス

~最判令和3年7月19日判時2514号13頁を手掛かりに~

会計参与の存在意義と企業のファイナンス

今回は、企業のファイナンス(主に借入れ)における会計参与の活用可能性について、会計限定監査役の責任が問題となった最判令和3年7月19日を手掛かりに検討してみたいと思います。


この記事の著者
日本大学商学部  教授 

1.会計参与とは

①会計参与制度の概要

会計参与は、取締役と共同して計算書類等を作成する会社法上の機関です(会社法374条1項)。

すべての株式会社は定款に定めることで、会計参与を任意に設置することができます(同法326条2項)。

ただし、公開会社でない取締役会設置会社(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く。)で、監査役を置いていない会社は、会計参与を設置しなければなりません(同法327条2項)。

また、会計参与は株主総会で選任され(会社法329条1項)、任期は原則2年です(同法334条1項、332条1項。公開会社でない会社では10年まで伸長可能:同条2項)。

さらに、会計参与は公認会計士・監査法人または税理士・税理士法人でなければなりません(同法333条1項)。

本来、計算書類等は取締役や執行役によって作成されるものですが、会計の専門家である公認会計士や税理士を会社法上の機関として計算書類等の作成や保存に関与させることで、(主に中小企業の)計算書類の適正性を担保させるべく、平成17年会社法制定の際に会計参与制度は創設されました。

会計参与を設置している会社は、公認会計士や税理士といった会計の専門家が計算書類等の作成に関与していることから、信用保証料率の割引や借入利率の割引がなされるといった優遇が得られる場合があります。

つまり、計算書類の信頼性向上をもたらすことが会計参与の存在意義といえるでしょう。

ただ、そのようなメリットが指摘される一方、現状では会計参与制度を採用している会社数は伸び悩んでいます。

こうした現状からすると、果たして会社にとって会計参与を活用することは本当にメリット足り得ているのでしょうか。

②会計参与の職務・権限・義務

まず、会計参与の職務・権限・義務等についてまとめてみましょう。

(職務・権限)

会計参与は、取締役・執行役と共同して計算書類等を作成します(会社法374条1項6項)。
職務執行のための権限として、会計帳簿・資料の閲覧謄写権(会社法374条2項)、業務および財産調査権(同条3項)、株主総会における意見陳述権(345条1項・2項、377条1項、379条)等が認められています。

(義務)

会計参与は、計算書類等及び会計参与報告を、取締役会設置会社の場合は定時株主総会の日の2週間前から、取締役会を設置しない会社の場合は1週間前から5年間、保管しなければなりません(会社法378条1項)。

なお、臨時計算書類及び会計参与報告については臨時計算書類作成日から5年間保管しなければなりません(同項)。

一方、会計参与は株主総会に出席し説明する義務を負うほか、計算書類の作成に関し会計参与が取締役・執行役と意見を異にするときは、株主総会で意見を述べることができます(会社法377条)。

取締役会設置会社の会計参与は、計算処理等を承認する取締役会に出席し、必要があると認めるときは意見を述べなければなりません(会社法376条1項)。

会計参与がその職務を行うに際し、取締役の職務の執行に関し不正の行為または法令・定款に違反する重大な事実があることを発見したときは、遅滞なく、株主(監査役設置会社では監査役、監査役会設置会社では監査役会、監査等委員会設置会社では監査等委員会、指名委員会等設置会社では監査委員会)に報告しなければなりません(会社法375条)。

(責任)

会計参与は会社法上役員とされるため、会社との関係や取締役と同様に委任関係となり、善管注意義務が課されることになります(会社法330条、民法644条)。

会計参与が役員であることから、取締役や監査役と同様に、対会社責任(会社法423条)、対第三者責任(会社法429条)も課されています。

少なくとも、中小企業の会計・税務チェックをしていた税理士・税理士法人からすると、会社法上の機関である会計参与になることで会社の役員となることができる一方、上記のような会社法上の役員としての責任が発生するというデメリットも生じることになります。

③会計参与と会計限定監査役との共通点・相違点

会計参与と(会計限定)監査役の共通点・相違点をまとめると下表のとおりです。

共通点

相違点

・株主総会決議によって選任

・会社法上の役員

・定款で任意に設置される機関

・資格要件の有無

・職務内容(計算書類等の作成の有無)

・任期

会計参与と監査役はともに株主総会普通決議によって選任され、選任された場合は両者ともに会社法上の役員となります(会社法329条1項、309条1項)。

また、会社は、定款の定めによって会計参与や監査役を任意に設置することができます(同法326条2項)。

一方、会計参与は公認会計士・監査法人・税理士・税理士法人でなければならないとする資格要件が定められている(同法333条1項)のに対して、監査役には欠格事由のみ定められていて資格要件は定められていません(同法335条1項、331条)。

また、会計参与は計算書類等の作成を取締役と共同して行うことになっていますが、監査役はあくまでチェック(監査)を行うことになっています。

中小企業においては監査役の監査範囲を会計監査に限定する事例が多くみられます。

そのような会計限定監査役の性質は会計参与と近いものであると評価することもできるでしょう。


2.最判令和3年7月19日判時2514号13頁の事案整理

会計参与の検討にあたり、会計限定監査役の責任が争われた最判令和3年7月19日を見てみましょう。

(事案の概要)

Yは、昭和42年7月25日から平成24年9月1日まで株式会社X社の会計限定監査役(監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めのある者)でした。

X社の経理担当従業員であるAは、平成19年2月から平成28年7月までの間、X社名義の当座預金口座から自己名義の預金口座に送金し、合計2億3523万円余りを横領しました。

Aは、自らの口座への送金を会計帳簿には計上しておらず、本件口座の実際残高と会計帳簿とは相違しており、Aは、横領の発覚を防ぐため、本件口座の残高証明書を偽造していました。

Yは、監査の際は、カラーコピーで精巧に偽造された預金残高証明書を確認したものの、それ以降の年度の監査は偽造された残高証明書の白黒コピーを確認するにとどまるものでした。

なおYは、Xから年額36万円(月額3万円)の監査役報酬を受けていたほか、別途年額110万円(月額顧問料5万円、各事業年度における確定申告報酬50万円)の税務顧問の報酬を受けていました。

Yは、本件横領行為当時、約80社程度の税務顧問を務めていましたが、監査役を務めていたのはX社のみでした。

X社は、Yの任務懈怠により横領行為の発覚が遅れ損害が生じたとして、会社法423条1項に基づき、Yに損害賠償請求をしました。

(判旨)

最高裁は高裁判決を破棄したうえで、大要以下のように判示し高裁に差戻しました。

  • 会計限定監査役は、計算書類等の監査を行うに当たり、会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかでない場合であっても、計算書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認しさえすれば、常にその任務を尽くしたといえるものではない。
  • Yが任務を怠ったと認められるか否かについては、X社における本件口座に係る預金の重要性の程度、その管理状況等の諸事情に照らしてYが適切な方法により監査を行ったといえるか否かにつき更に審理を尽くして判断する必要があり、また、任務を怠ったと認められる場合にはそのことと相当因果関係のある損害の有無等についても審理をする必要がある。

3.会計参与の企業ファイナンスへの活用

前述の通り、中小企業では、監査役の監査の範囲を定款の定めにより会計監査に限定することが一般的であるとされます。

これは、中小企業、とりわけ同族企業のような小規模な会社において、親族が監査役になるにあたって監査の範囲を限定することで責任・負担を軽くすることが理由であるとされます。

ただ、2で取り上げた最高裁判決も述べるように、会計限定監査役であっても監査の範囲が限定されるだけで、責任が無くなるわけではありません。

そればかりか、会計限定監査役であっても会計関係のチェックを怠った場合には、任務懈怠であるとして善管注意義務違反となる可能性が指摘されています。

こうした判断枠組み自体は、会社法上の役員である点などで共通する会計参与にもある程度妥当すると思われます。

会計参与制度を導入すれば、計算書類の信頼性向上に伴うファイナンス(銀行融資)におけるメリットを享受できます。しかしそのようなメリットの存在とは裏腹に、会計参与制度の利用は進んでいません。

その理由として、まず会社側から見ると役員報酬を追加で支払わなければならないというデメリットを挙げることができるでしょう。

また、会計参与になる者側から見ると、会社の役員としての法的責任を負うことになってしまう点にあると考えられます。

会計参与の現状の利用状況からすると、上記メリットとデメリットの比較衡量の結果、後者(デメリット)の存在が前者(メリット)の存在を上回っていると評価する企業が多いと考えられます。


おわりに

以上、今回は、企業のファイナンス(主に借入れ)における会計参与の活用可能性について、会計限定監査役の責任が問題となった最判令和3年7月19日を手掛かりに検討してみました。

企業は、会計参与を導入すれば信頼性の高い決算書を作成することができる・銀行融資を受ける際に優遇措置を受けることができます。

ただ一方で、本文でも述べたような各種デメリットも存在することから、会計参与の導入に当たっては、それらメリットとデメリットを勘案したうえで導入の是非を決める必要があります。

換言するならば、企業はファイナンスのためのガバナンスをいかに構築するのかについて留意する必要があるといえるでしょう。

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著者プロフィール

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鬼頭 俊泰

日本大学商学部 教授

日本大学大学院法学研究科博士課程前期課程修了。同後期課程満期退学ののち、八戸大学(現:八戸学院大学)ビジネス学部に着任。その後、日本大学商学部助教、准教授を経て現職。

著書に、ビジネス法務の理論と実践(芦書房、2020年)(共編・共著)、資金決済法の理論と実務(勁草書房、2019年)(共著)、インターネットビジネスの法務と実務(三協法規出版、2018年)(共著)、検証判例会社法(財経詳報社、2017年)(共著)などがある。

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