わかりやすい! 金銭消費貸借契約書の書き方の実務
金銭または代替物を借りて消費し、同じ種類・同じ品質・同量を返還する約束を「消費貸借」と呼びます。
金銭を要件とした「金銭消費貸借契約」は、消費貸借の内容を明確にするための契約書です。対象を金銭とした場合、借主には受け取った金銭と同額の金銭+利息の返還が求められます。
この記事では、金銭消費貸借契約の締結方法から引き渡しまでの期間、消費貸借契約において重要な利息と連帯保証人について詳しく解説します。
想定されるトラブルは、あらかじめ契約書に記載して合意を取るなど、契約書の内容は慎重に考えて正しく作成しましょう。
消費貸借契約とは
借主が貸主より目的物を受け取り、これと同種・同等・同量の物を返還することを約する契約のことをいいます。(民法587条)
目的物となり得るものは様々ですが、契約書を作成する場面となると、目的物のほとんどが金銭でしょう。もちろん、金銭の他にも、お米や砂糖などを目的物とした消費貸借契約もあります。最近では色々な物がすぐ手に入るようになり、あまり見かけなくなりましたが、少し前までは日常生活において、隣近所からお米や塩などを借り、後で返すようなことがありました。
厳密には、同種・同等・同量かは分かりませんが、借主が貸主より目的物を受け取り、これと同種・同等・同量の物を返還することを約している、ということであれば、消費貸借契約が成り立っています。目的物が金銭であれば、同種・同等・同量の物であるかどうかは一目瞭然です。
契約の成立について
原則は、目的物の引き渡しが行われたときに成立します。しかし、今回の民法改正により、書面(電磁的記録を含む)でする消費貸借の場合は、目的物の引き渡しを要せずに当事者の合意があったときに契約が成立することが明記されました。(民法587条の2 前条の規定にかかわらず、書面でする消費貸借は、当事者の一方が金銭その他の物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。)
書面でする消費貸借
1.「書面でする」
当然ですが、「書面でする」と明記されているので口約束での契約は成立せず、きちんと書面(電磁的記録を含む)によって行う必要があります。口約束の場合は、上記の原則である、目的物の引き渡しが行われた時に成立することになります。
2.契約締結から引き渡しまでの期間
引き渡しを要せずに契約が成立するということは、契約から引き渡しまでのある一定の期間が存在することになります。すると、この期間に事情が変わることも考えられます。例えば、金銭消費貸借契約を結んだ後、この期間に借主の事情が変わり借入れの必要なくなった場合には、契約の解除をしたい、と思うでしょう。
この場合、借主は金銭を受け取るまでは、契約の解除をすることができます。ただし、貸主が解除により損害を被った場合には、借主はその損害を賠償しなければなりません。(民法587条の2第2項)
ここでいう損害とは、明文では定められていませんが、金銭等の目的物を調達した等の事情がある場合は、それに要した費用に限られ、目的物を交付していれば得られる予定であった弁済期までの利息相当額が当然に損害となるわけではない、と解釈されています。
また、貸主が金融機関、借主が消費者である場合は、借主が契約を解除しても貸主である金融機関はこの金銭を他の消費者への貸付けに流用することができるため、貸主に損害は発生しないと考えられています。
利息について
1.原則無利息
貸主は、特約がなければ、利息を請求することができません。特約を定めていた場合であっても、請求することができるのは、借主が金銭等を受け取った日以後の利息となります。(民法589条)
また、金銭消費貸借契約での利息については、利息制限法という法律により、ある一定の制限が定められています。利息制限法における利率の上限は、次のとおりです。
元本の額 | 利率上限 |
---|---|
10万円未満 | 20% |
10万円以上100万円未満 | 18% |
100万円以上 | 15% |
契約で、利息について規定する場合は、利率をこの範囲内にしなくてはなりません。もし、この上限を超える利率を定めていたとしても、上限を超える部分については無効となります。(利息制限法1条)
2.民法の法定利率
先ほどは、利率を定める場合には、利息制限法の範囲内で定めなければならない、とお話ししました。しかし、利息の特約は定められていても、利率が定められていない場合もあります。そのような場合には、民法が適用されることになります。
民法の法定利率については、今回の民法改正で、変動制が採用されることとなり、2020年4月より施行されています。
法定利率の変動制の仕組み
まずは、3%からスタートし、3年ごとに法定利率の見直しがなされます。この民法改正により、法定利率は、時期によって変わる可能性がある、ということになります。
では、どの時点での利率が適用されるのかというと、当事者間で別段の意思表示がないときは「利息が生じた最初の時点」の法定利率が適用される、と定められています。(民法404条)「利息が生じた最初の時点」というのは、金銭の交付があったときです。
これに対し、契約で法定利率とは異なる利率で合意している場合には、その利率が利息制限法等に反しない限り、法定利率に優先します。また、遅延損害金については、遅滞責任が生じた時点の法定利率が適用されます。
返還の時期について
借主は、返還の時期の定めの有無にかかわらず、いつでも返還をすることができます。(民法591条2項)一方で、これによって損害を受けた貸主は、借主に対してその賠償を請求することができます。(民法591条3項)
この損害については、契約上の支払期限までに予定されていた利息相当の金額が当然に損害になるものではないと考えられているので注意が必要です。
連帯保証について
改正後の民法では、保証人の保護が拡充され、多くの事が変わりました。ここでは、特に重要と思われるものについて簡単に触れさせていただきます。
1.公正証書作成義務
事業用融資での保証契約については、一定の例外を除いて公証人が保証人になろうとする者の保証の意思を事前に確認しなければ無効としました。この個人保証は、契約締結の日の前1か月以内に作成された公正証書で意思表示をしていなければいけません。(民法465条の6)
2.保証人への情報提供義務
事業用融資での保証契約については、債務者の財産状況などの情報提供を保証人にしなければならなくなりました。(民法465条の10)また、保証人から情報提供の請求があったときには、応じなければならないことも規定されました。(民法458条の2)