まだ間に合う! 年末調整・所得税の算出と確定申告で役立つ計算方法
会社員は給料やボーナスをもらう際に、会社から一定金額の所得税を(社会保険料や住民税などとともに)天引き(源泉徴収)されています。
しかし、この所得税の金額は概算によるものであり、多くの場合、正しい税額ではありません。その年の所得額が確定した時点で再度計算をして、正しい所得税額を納める手続きが年末調整です。
そこで本コラムでは、年末調整における所得税の計算方法や、さらに確定申告の際に役立つ計算方法を説明します。
所得税を計算する「4ステップ」
所得税の計算方法は、以下の通りです。
- ①確定した年間の給与・賞与の総額から、給与所得控除を差し引き、給与所得を求める
- ②給与所得から各種控除を差し引き、課税される所得を求める
- ③課税される所得に、所得税率をかけて、所得税を算出する
- ④所得税額に102.1%をかけて、復興特別所得税額を含んだ所得税を算出する(所得税の2.1%が復興特別所得税)
①確定した年間の給与・賞与の総額から、給与所得控除を差し引き、給与所得を求める
給与収入 - 給与所得控除 = 給与所得
給与所得控除は給与収入に応じて、次のように金額が計算されます。
給与等の収入金額(給与所得の源泉徴収票の支払金額) | 給与所得控除額 | |
---|---|---|
1,625,000円まで | 550,000円 | |
1,625,001円から | 1,800,000円まで | 収入金額 × 40% - 100,000円 |
1,800,001円から | 3,600,000円まで | 収入金額 × 30% + 80,000円 |
3,600,001円から | 6,600,000円まで | 収入金額 × 20% + 440,000円 |
6,600,001円から | 8,500,000円まで | 収入金額 × 10% + 1,100,000円 |
8,500,001円以上 | 1,950,000円(上限) |
参照:国税庁「給与所得控除」
②給与所得から各種控除を差し引き、課税される所得を求める
給与所得 - 所得控除 = 課税される所得(1,000円未満切り捨て)
控除の種類 | 控除の概要 |
---|---|
雑損控除(確定申告) | 災害や盗難があった場合に、一定額を控除 |
医療費控除(確定申告) | 支出医療費額のうち、一定額を控除 |
社会保険料控除 | 社会保険料支出額を控除 |
小規模企業共済等掛金控除 | 小規模企業共済に係る掛金等の支払額を控除 |
生命保険料控除 | 生命保険料等支出額のうち、一定額を控除 |
地震保険料控除 | 地震保険料等の支出額のうち、一定額を控除 |
寄付金控除(ワンストップ特例を適用しない場合は、確定申告) | 国や地方公共団体等、一定の団体に寄付した金額のうち一定額を控除 |
障害者控除 | 自分もしくは配偶者、扶養親族が障害者に該当する場合に、一定額を控除 |
寡婦控除 | 夫と離婚もしくは死別し、生計を一にする子供がいる場合に一定額を控除 |
ひとり親控除 | 婚姻しておらず、又は配偶者の生死がわからない人のうち、生計を一にする子供がいる場合に一定額を控除 |
勤労学生控除 | 納税者が勤労学生である場合に、一定額を控除 |
扶養控除 | 扶養親族がいる場合に、一定額を控除 |
配偶者控除 | 合計所得48万円以下の配偶者がいる場合、一定額を控除 |
配偶者特別控除 | 合計所得48万円超、133万円以下の配偶者がいる場合、一定額を控除 |
基礎控除 | 合計所得2,400万円以下の場合、48万円を控除 |
③課税される所得に、所得税率をかけて、所得税を算出する
課税される所得 × 所得税率 = 所得税額
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
参照:国税庁「所得税率」
④所得税額に102.1%をかけて、復興特別所得税額を含んだ所得税を算出する
年税額 = 所得税額 × 102.1%
確定申告での手続きが必要な控除
以下の控除に関しては、確定申告にて手続きが必要になります。
なお、内容の詳細や必要資料に関しても記載すると、一つの項目だけで膨大な量になってしまいますので、概要について触れるのみとさせていただきます。次回以降、確定申告編に記載させていただきますので、ご了承ください。
①住宅ローン控除(初年度のみ)
住宅ローン控除とは、住宅の購入や増改築などで借り入れた金額のうち、原則として、年末残高の1%を限度として税金が戻ってくる制度です(国税庁:「住宅借入金等特別控除」)。
住宅などの購入促進と、負担の軽減を目的として作られました。
住宅ローン控除は、適用を受ける初年度だけ確定申告が必要です。確定申告では、提出する書類が多くて非常に面倒です。必要書類など、詳しい手続きに関しては次回以降に掲載させていただきます。
なお、合計所得が2,000万円を超える人は、この制度の適用対象外なので注意が必要です。
【住宅ローン控除を受けることができない例】
給与収入2,200万円 - 給与所得控除195万円 = 合計所得2,005万円
②医療費控除
医療費を10万円以上負担した場合に、10万円を超える金額について、200万円を限度として所得控除を認める制度です。
本人の医療費だけでなく、配偶者やその他の親族の医療費も、それを負担した場合は認められます。ただし、未払いの医療費は対象外です。
なお、その年の総所得金額等が200万円未満の人は、10万円の壁が、総所得金額等の5%の金額に設定され、ハードルが少し低くなります。
【総所得金額200万円未満の人の計算例】
〈前提条件〉
- 医療費の支払い:20万円・総所得金額等:140万円
- 医療費控除額:13万円(20万円 ― 140万円 × 5%(7万円))
③寄付金控除(ふるさと納税)
寄付金控除は、特定の団体に寄付をした金額から2,000円を引いた金額を、所得税や住民税から控除できる制度です。ただし、控除金額には上限があります。
ふるさと納税も寄付金控除ですので、確定申告が必要になりますが、ワンストップ特例制度を活用すれば、確定申告は不要です。この場合、寄付をされた自治体が、お住まいの自治体に対して自動的に控除情報を通知してくれます。
ただし、寄付先は5自治体までです。6自治体以上に対するふるさと納税は確定申告が必要になりますので、ご注意ください。
④特定支出控除
特定支出控除とは、給与所得者が、仕事に必要な一定の費用に関して自分が負担した分のうち、一定額を所得控除できる制度です。自分で負担した、通勤費、旅費交通費、研修費、資格取得費などが対象です。
給与所得者にとって唯一認められる費用項目といったものですが、この制度は利用率が極端に低いです。その理由は適用のハードルの高さにあります。
特定支出控除額 = 特定支出額 - 給与所得控除額 × 1/2
例えば、給与収入500万円の場合、いくら以上の特定支出で控除が行えるのか検討してみたいと思います。
給与収入500万円の給与所得控除額は144万円です。その1/2を超える特定支出が控除となるため、72万円となります。年間72万円を超えるような支出は、現実的にはなかなか見受けられないということが多いと思います。
ただ、特定支出に関しては、会社が負担してくれるものがほとんどですし、手続上も、特定支出に関する明細書及び、給与の支払者の証明書を申告書に添付するという要件があり、適用に際してのハードルは、さらに上がります。
とはいえ、面倒でも、要件を満たしていたら、ぜひ適用したい制度でもあります。
⑤雑損控除
雑損控除とは災害等にあった場合、自分の保有している資産に損害が生じたときは、その損失額に対して、一定の控除を認める制度です。
控除額は次の計算結果のうち、いずれか低い金額が限度となります。
- (ア)差引損失額 - 総所得金額等 × 10%
- (イ)差引損失額のうち災害関連支出の金額 - 5万円
この場合の差引損失額とは、実際の損失額に、災害関連支出を加え、保険金などにより補填される金額を控除した金額です。つまり、純損失金額ということです。
災害には、震災、風水害などの自然災害や、火災、害虫などによる災害のほか、盗難や横領などによる人為的災害が含まれます。
人為的災害に関しては注意点があり、それは、詐欺や恐喝による被害は対象外ということです。
なぜそのような線引きが生じてしまうのか、それは、雑損控除の考え方が、自分の意思に基づいて発生してしまった損失を除外しているためです。
自らの意思に基づいて損失を被ってしまった例をご紹介します。
例えば、振り込め詐欺などは、電話越しの相手に対して、自らの意志でお金を振り込むという過程が発生します。また、恐喝も、脅された相手に自ら直接お金を手渡します。
私見としまして、振り込め詐欺も恐喝も、自分の意志で渡しているのは間違いないですが、本人の求める結果とは違っていることは事実です。
このようにやむを得ず損失を被ってしまったものに対しては、一律に控除を認めないというのは不合理だと思います。
今後、このような事象に対して柔軟に対応する方向で改正されることを期待しています。
年末調整だけでなく、確定申告も必要な人
年末調整をしても、確定申告が必要なケースは、主に以下の3つです。
- 給与収入が2,000万円を超える人
- 副業の利益が20万円を超える人
- 給与所得の他に所得がある人
副業の利益が20万円を超える人
主たる給与以外の給与収入と、副業の利益が合計で20万円を超える場合は、確定申告が必要になります。
なお、前職の給与は、源泉徴収票を会社に提出し、年末調整金額に含まれるため、考慮する必要はありません。
【副業の例】
- ネットオークション販売や内職などを行っている場合
- 主たる給与をもらっている会社以外の会社から、給与をもらっている場合
- 年度の中途において、個人事業主であった場合
給与所得の他に所得がある人
例えば、給与所得以外に不動産収入がある場合など、年末調整で所得税の計算が完結しない場合は、別途確定申告が必要になります。
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