副業・兼業と労働時間管理
1 はじめに
大手企業において副業・兼業(以下「副業」という。)を奨励する動きが数年前から少しずつ見られるようになっていました。これは働き方改革の一環として、柔軟な働き方に向けた動きのひとつでもありました。そこにコロナ禍による業務量減少や休業などの理由から、規模を問わず副業を認める企業が出てきています。
労働基準法(以下「労基法」という。)においては、これまでも、そして現在も、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」と規定されており、「事業場を異にする場合」とは、「事業主を異にする場合」も含むとされているのです。
従って単に副業をしていいですよと従業員に推奨したり、本業があることを知りながら働いてもらうことにするというだけでは済まない「労働時間管理」があるのです。
今回は、令和2年9月に改訂された「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の記載を用いながら兼業・副業と労働時間管理について見ていきたいと思います。
2 労働時間管理
(1)労働時間の通算が必要となる場合
副業において必ずしもすべての場合で労働時間管理が必要とされるわけではありません。必要となるのは、原則として本業においても副業においても雇用関係にある働き方をしている場合となります。例えば、次のような働き方の場合には通算されません。
- 個人事業主(フリーランス)
- 会社経営(独立、起業、共同経営)
- 労基法の適用はあるが、労働時間規制が適用されない人(管理監督者、監視・断続的労働者、高度プロフェッショナル制度適用者)
上記の3つ目は、雇用関係にある働き方をしている場合に該当しますが、労基法において労働時間規制が適用されないとされているため、労働時間の通算が不要となります。
(2)労働時間の通算と、必要となる割増賃金の支払い
労基法においては、1日8時間、1週40時間を超えて労働させてはならない、1週間に1日または4週間に4日の休日を取得させなければならないとする決まりがあります。
これらの時間を超えて働かせる場合には、原則として36協定の締結と労働基準監督署への届出が必要となります。また、実際にこれを超えて労働させた場合には、割増賃金の支払いが必要です。
(3)副業・兼業開始前に本業と副業の所定労働時間を通算する
まず、本業の所定労働時間と副業の所定労働時間を通算します。通算した結果、異なる事業場のどちらが割増賃金の支払い等が必要になるかについては、ガイドラインにおいて、「時間的に後から労働契約を締結した使用者における当該を超える部分が時間外労働となり、36協定で定めるところによって行うこととなる」と定められています。1日の労働時間の後先ではなく、労働契約締結の後先がポイントとなります。例を見ていきましょう。副業が後から契約締結をしたとして考えます。
【例1】
9時から15時まで(休憩1時間)本業の会社で5時間働いた後、19時から21時まで副業・兼業先(以下「副業」という。)でさらに2時間働くとします。この場合本業の5時間と副業の2時間を通算すると合計7時間となります。本業と副業の所定労働時間を足して8時間以内であれば、どちらも割増賃金等の支払いは不要です。
【例2】
副業先で朝6時から8時までの2時間働いた後に、本業先に出勤し8時間労働した場合では、これを通算すると、本業の所定労働時間が既に法定の1日8時間に達していますので、このケースでは副業先での労働はすべて割増賃金の支払いが必要となります。
(4)副業開始後の所定外労働時間を通算する
所定外労働をする場合についても通算することとされています。通算の方法として、「自らの事業場における所定外労働時間と他の使用者の事業場における所定外労働時間とを当該所定外労働が行われる順に通算して、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分の有無を確認する」とされています。分かりづらいかもしれませんので、具体例で見ていきます。
【例3】
本業で5時間労働した後に2時間の所定外労働があった場合、本業だけ見れば法定の8時間以内ですが、副業との所定労働時間の合計は7時間ですから、所定外労働2時間のうち1時間分については割増賃金の支払いが必要となります。本業の方が先に契約し働いてもらっていたのに、副業をするようになったら割増賃金が必要となるのは腑に落ちないかもしれませんが、仕方がありません。
本業で1時間の所定外労働をし、その後副業先でも1時間の所定外労働があった場合には、本業の方の所定外労働が先に行われていますのでこちらは割増なしですが、副業先では割増賃金の支払いが必要となります。
これらの所定労働時間や所定外労働について、労働者から申告を受けて管理することとされています。労働者からの申告をどのようにしていくか検討する必要があるでしょう。
3 労働時間管理モデル
これまで説明したようなことを管理しなければならないとすると、かなり煩雑なものになります。そのため、厚労省では労働時間の申告や通算管理の負担を軽減し、労基法に定める最低労働条件が順守されやすくなる簡便な方法として管理モデルを打ち出しています。
【例4】
① 副業の開始前に、
(A)当該副業を行う労働者と時間的に先に労働契約を締結していた使用者(以下「使用者A」 といいます。)の事業場における法定外労働時間
(B)時間的に後から労働契約を締結した使用者(以下「使用者B」といいます。)の事業場における労働時間(所定労働時間及び所定外労働時間)を合計した時間数が時間外労働の上限規制である単月100時間未満、複数月平均80時間以内となる範囲内において、各々の使用者の事業場における労働時間の上限をそれぞれ設定する。
② 副業の開始後は、各々の使用者が①で設定した労働時間の上限の範囲内で労働させる。
③ 使用者Aは自らの事業場における法定外労働時間の労働について、使用者Bは自らの事業場における労働時間の労働について、それぞれ自らの事業場における36協定の延長時間の範囲内とし、割増賃金を支払う。
【管理モデルのイメージ】
(ア)A事業場で所定外労働がない場合
(イ)A事業場で所定外労働がある場合
Aに所定外労働がある場合(A・Bで所定外労働が発生しうる場合に、互いの影響を受けないようあらかじめ枠を設定)
4 まとめ
簡便な方法として管理モデルが出されていますが、労働者を通じて他の会社と所定労働時間や見込まれる時間外労働等の情報交換をすることが必要ですし、予定外の時間外労働が発生した場合には、はやり面倒であることは否めません。
いずれにしても、副業をすることで労働者が長時間労働になって健康を害することがないように、健康管理も併せて行っていく必要が十分にあるでしょう。
割増賃金の支払いは事業者としては避けたいところかもしれませんが、副業と知りながら割増賃金の支払いをしないことで、トラブルになることも考えられます。あるいは雇用ではなく「個人事業主」として契約することを考える場合もあるかもしれませんが、指揮命令の下に働いてもらう場合には「雇用」にあたります。導入する場合にはしっかりと仕組みを理解し、副業についての申出方法等の決まりを作り、対応していきましょう。