中小企業のための「介護離職防止」対策! 第11回 認知症の方と暮らす不安
~企業は「人」がいるから売上がある!をサポート~
認知症の種類と症状、気付きのポイントについてお伝えしてきました。では、実際に認知症の方と接する機会はどのくらいあるのでしょうか。また、認知症に対してご家族はどのような不安を持たれているのでしょうか。さらに認知症の方を抱えながら仕事をするにはどうしたらいいのか。今回はより具体的にお話しします。
認知症に関する世論調査
令和2年1月に内閣府政府広報室が出したデータによると、今までに認知症の方と接したことが「ある」と答えた方に、経験したことがあるものを聞いたところ以下のようになりました。
- 「家族の中に認知症の方がいる(いた)」
47.7%- 「親戚の中に認知症の方がいる(いた)」
35.8%- 「近所付き合いの中で、認知症の方と接したことがある」
32.2%- 「街中などで、たまたま認知症の方を見かけたことがある」
24.9%
などの順となっています。圧倒的にご家族の中で認知症を発症した方をケアされていることが多いです。
次に、ご家族が持つ認知症に対する不安として、どのようなものがあるのでしょうか。これも同じく内閣府政府広報室のデータによると以下のようになります。
- 「ストレスや精神的負担が大きいのではないか」
65.1%- 「家族以外の周りの人に迷惑をかけるのではないか」
58.3%- 「経済的負担が大きいのではないか」
49.7%- 「自分(あなた)や大切な思い出を忘れてしまうのではないか」
47.1%- 「買い物や料理、車の運転など、これまでできていたことができなくなるので、周りの人の負担が大きくなるのではないか」
41.8%- 「介護にかかる負担によって自分の仕事が継続できなくなるのではないか」
41.2%- 「外出した際に家への帰り道がわからなくなったりするのではないか」
39.3%- 「病院や診療所で治療しても、症状は改善しないのではないか」
33.8%- 「介護施設が利用できないのではないか」
28.9%- 「不要な物を大量に購入させられたり、詐欺的な勧誘の被害に遭ったりするのではないか」
26.7%- 「必要な介護サービスを利用することができず、現在の住まいで生活できなくなるのではないか」
24.6%
このような順になっており、様々な不安を抱えていることがわかると思います。
「認知症の方の世界」
では、認知症の方は一体どのような世界にいるのかご存知でしょうか?
認知症を発症したご本人は、認知症の自覚がないと思っている方が多くいらっしゃると思います。しかし、それは大きな間違いです。認知症の症状に最初に気付くのはご本人なのです。
きっかけは、物忘れによる失敗、家事や日常がうまくいかなくなるといったことが多くなり、何となくおかしいなと感じ始めます。認知症特有の「言われても思い出せない物忘れ」が重なると、ご本人は何かが起こっていると不安を感じ始めます。認知症の方は何もわからないのではありません。誰よりも一番心配なのも、苦しいのも、悲しいのもご本人なのです。
ここで認知症の女性が書いた日記をご紹介します。
「9月14日。失敗ばかりで娘に迷惑をかける。毎日自分のしていることもわからなくなる。情けなく自分が歯がゆい。毎日、朝からこんなことを考えている。最近は何をしても自分のしたことがわからない今日この頃です。」
認知症状の自覚があり、自分がどうなっているのか、どうなっていくのか、わからない苛立ちや不安な気持ちがつづられています。
このコラムでも、認知症の疑いが見られた場合には早期受診をお勧めしてきました。しかし、認知症になったとき多くの方が「私は忘れてなんかいない」「病院に行く必要はない」と言い張り、ご家族を困らせることもあります。これは、「私が認知症だなんて‼」というやり場のない怒りや悲しみや不安から自分を守るための防衛反応なのです。
周囲の方が「認知症という病気になった方」の本当の心を理解することは容易ではありませんが、認知症の方の隠された悲しみの表現であることを知っておくことは、とても大切なことなのです。
認知症の方を支える「さりげない支援」が大事
認知症の方への支援として、「心のバリアフリーと人間杖が必要」と表現されることがあります。
認知症の方は、自分の障害を補う「杖」の使い方を覚えることができません。「杖」のつもりでメモを書いても上手く思い出せず、何のことかわからなくなります。認知症の方への支援には、障害を理解し、さりげなく援助できる「人間杖」が必要なのです。交通機関や店舗など街のあらゆるところに、温かく見守り適切な援助をしてくれる方がいれば、外出することもでき、自分でやれることもずいぶん増えてくると思います。心のバリアフリー社会をつくることも必要となってくると言えます。
関わる方の心構えとして、「さりげなく自然に」が一番の支援とされています。ご自身やご家族、誰でも認知症になる可能性はあります。健康な方の心情が様々であるのと同じように、認知症の方の心情も様々です。私たちに求められていることは、認知症の障害を補いながら、「さりげなく、自然に」それが一番の支援となります。
若年性認知症
認知症の中には、「若年性認知症」というものもあり、65歳未満の方が発症する認知症のことを言います。
若年性認知症の方は働き盛りで、就学期の子どもがいる場合も多くあります。
病気の影響で仕事を辞めざるを得ない場合が多く、そうなると経済的困難に陥ってしまうなど、家族への影響も出やすくなってしまいます。2014年に認知症介護研究・研修大府センターが、若年性認知症患者2,129人を対象として15府県に行った調査によると、発症後にご自身が仕事を辞めた方が66.1%であったほか、解雇や休職も含めると実に78.3%の方が職を失っており、発症後も仕事を続けられた方は11.4%に留まっています。
この調査では、家計状況についての質問もされており、「とても苦しい」「やや苦しい」という回答が全体の4割を占めました。また、高齢の方の場合に比べ、周囲の方、そしてご家族も病気を理解し受け入れるには往々して時間がかかります。病気の原因として、脳卒中のあとにおこる血管性認知症の割合が高いことからも、普段の健康への取組を強く意識することで防げる可能性があります。
よく言われる「仕事と介護の両立」は、基本的に親の介護を想定していますが、若年性認知症は「まさかの自分」ということになります。多くの方は子育て期間中の話になるため、家族に負担が大きく出てしまいますので、普段から運動や食事、睡眠やストレス発散をより意識し、健康でいるための努力をしましょう。
5人に1人が認知症時代
今後、5人に1人が認知症になると言われています。
日常生活の中で認知症の方を見かけることも増えてくると予想されます。そうなったとき、ぜひこれを思い出していただき、さりげない支援をしていただければ幸いです。そして、みなさんの大切な方が認知症になってしまったとしても、しっかりと仕事を継続できるように、担当のケアマネジャーに相談しましょう。解決策が見出せない場合は、ケアプランのセカンドオピニオンを求めることも重要になります。隣の自治体に引っ越しをして住民票を移すことで可能性が広がる場合もあります(地域密着型サービスと呼ばれる、その地域の住民だけが利用できるサービスがあり、自治体によってはそれがない場合もあるため、選べるサービスに制限がうまれてしまうため)。
介護は突然やってきます。今のうちからできる準備をしておきましょう!