就業規則の作り方 懲戒規定の整備と運用
規律違反などにより、会社の秩序を乱した労働者に対する制裁を懲戒といいます。
会社は労働者に対して懲戒を科すことができますが、懲戒処分を適切に行うには、あらかじめ就業規則において懲戒の種類と事由を定めておく必要があります。また、その内容を労働者に周知しておかなければなりません。
今回は、懲戒規定について解説します。
懲戒の原則
懲戒とは、会社の秩序を維持するために設けた服務規律に労働者が違反した場合や、会社の指示・命令に違反した場合に、当該労働者の違反行為に対して科する制裁で、けん責、減給、出勤停止、懲戒解雇などの種類があります。制裁の種類及び程度に関する事項は、就業規則の相対的必要記載事項に当たりますので、これらについて定めをする場合には、必ず就業規則に記載しなければなりません。また、懲戒権の行使にあたり、権利の濫用になってもいけません。懲戒処分が法的に有効とされるためには、就業規則に根拠規定があること、懲戒事由に該当すること、社会通念上の相当性を有することのすべてを満たす必要があります。
【労働契約法第15条】
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
懲戒の種類の定め
懲戒の種類は就業規則に定めておく必要があります。一般的な規定例は次のとおりです。
【就業規則の規定例】
第〇条(懲戒の種類)
労働者に対する懲戒の種類は次のとおりとする。
- ① けん責
始末書を提出させて将来を戒める。 - ② 減給
始末書を提出させて減給する。ただし、減給は1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えることはなく、また、総額が一賃金支払期における賃金総額の1割を超えることはない。 - ③ 出勤停止
始末書を提出させるほか、〇日間を限度として出勤を停止し、その間の賃金は支給しない。 - ④ 諭旨解雇
懲戒解雇に該当する事由がある場合、本人に反省が認められるときは退職届を提出するよう勧告する。ただし、勧告した日から〇労働日以内に退職届の提出がない場合は懲戒解雇とする。 - ⑤ 懲戒解雇
予告期間を設けることなく即時に解雇する。この場合において、所轄の労働基準監督署長の認定を受けたときは、解雇予告手当を支給しない。
減給の注意点
減給の制裁をする場合、労働基準法の規定に触れないよう気を付けてください。
【労働基準法第91条】
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない。
なお、労働者が遅刻や早退をした場合は、その時間分の賃金請求権は発生しないので、遅刻や早退分の減給は労基法第91条の制限は受けません。しかし、その時間に対する賃金額を超える減給は制裁とみなされるので、同法の適用を受けます。
解雇予告除外認定とは
労働者の責に帰すべき事由により懲戒解雇をする場合、所轄労働基準監督署長の認定を受けたときは、解雇予告手当の支払いは不要です。労働基準監督署は、労働者の勤務年数、勤務状況、労働者の地位や責務を考慮し、次のような基準に照らし使用者、労働者の双方から事情等を聴いて認定するかどうかを判断します。
- ① 会社内における窃盗、横領、傷害等刑法犯に該当する行為があった場合
- ② 賭博や職場の風紀、規律を乱すような行為により、他の労働者に悪影響を及ぼす場合
- ③ 採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合
- ④ 他の事業へ転職した場合
- ⑤ 2週間以上正当な理由がなく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合
- ⑥ 遅刻、欠勤が多く、数回にわたって注意を受けても改めない場合
会社が労働者の責に帰すべき事由により懲戒解雇を行ったとしても、労働基準監督署の解雇予告除外認定を受けられない場合もあります。この場合は、解雇予告手当を支払う必要がありますので注意してください。
懲戒の事由は具体的に
懲戒の種類だけでなく、懲戒事由もあらかじめ就業規則に定め、労働者に周知しておく必要があります。後出しはできません。厚生労働省「モデル就業規則」などを参考に、具体的に定めておきましょう。
【就業規則の規定例】
第66条(懲戒の事由)
- 1 労働者が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止とする。
- ① 正当な理由なく無断欠勤が 日以上に及ぶとき。
- ② 正当な理由なくしばしば欠勤、遅刻、早退をしたとき。
- ③ 過失により会社に損害を与えたとき。
- ④ 素行不良で社内の秩序及び風紀を乱したとき。
- ⑤ 第11条、第12条、第13条、第14条、第15条に違反したとき。
- ⑥ その他この規則に違反し又は前各号に準ずる不都合な行為があったとき。
- 2 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第51条に定める普通解雇、前条に定める減給又は出勤停止とすることがある。
- ① 重要な経歴を詐称して雇用されたとき。
- ② 正当な理由なく無断欠勤が 日以上に及び、出勤の督促に応じなかったとき。
- ③ 正当な理由なく無断でしばしば遅刻、早退又は欠勤を繰り返し、 回にわたって注意を受けても改めなかったとき。
- ④ 正当な理由なく、しばしば業務上の指示・命令に従わなかったとき。
- ⑤ 故意又は重大な過失により会社に重大な損害を与えたとき。
- ⑥ 会社内において刑法その他刑罰法規の各規定に違反する行為を行い、その犯罪事実が明らかとなったとき(当該行為が軽微な違反である場合を除く)。
- ⑦ 素行不良で著しく社内の秩序又は風紀を乱したとき。
- ⑧ 数回にわたり懲戒を受けたにもかかわらず、なお、勤務態度等に関し、改善の見込みがないとき。
- ⑨ 第12条、第13条、第14条、第15条に違反し、その情状が悪質と認められるとき。
- ⑩ 許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用したとき。
- ⑪ 職務上の地位を利用して私利を図り、又は取引先等より不当な金品を受け、若しくは求め若しくは供応を受けたとき。
- ⑫ 私生活上の非違行為や会社に対する正当な理由のない誹謗中傷等であって、会社の名誉信用を損ない、業務に重大な悪影響を及ぼす行為をしたとき。
- ⑬ 正当な理由なく会社の業務上重要な秘密を外部に漏洩して会社に損害を与え、又は業務の正常な運営を阻害したとき。
- ⑭ その他前各号に準ずる不適切な行為があったとき。
先にみたとおり、法的に有効な懲戒であるためには、就業規則に定めがあるだけでは足りず、懲戒権の行使が権利の濫用に当たらないことが必要です。規律違反の程度に応じ、過去における同種事例の処分内容等を考慮して、適切に処分を行わなければなりません。懲戒の対象となる行為が明確な規律違反であり、処分理由となった行為に見合った程度の処分であることが求められます。
懲戒処分は労働者に対して大きなダメージを与えます。生活の糧を奪うこともあるわけですから、弁明の機会についても定めておきましょう。
【就業規則の規定例】
第〇条(弁明の機会)
労働者に対して減給以上の懲戒を行う可能性がある場合は、事前に弁明の機会を与える。
国家公務員の懲戒処分に関し、人事院では「懲戒処分の指針」を定めています。「懲戒処分がより一層厳正に行われるよう、任命権者が懲戒処分に付すべきと判断した事案について、処分量定を決定するに当たっての参考に供することを目的として、別紙のとおり懲戒処分の指針を作成」したとしています。
「懲戒処分の指針」(人事院事務総長発)
懲戒規定の適切な整備と運用に当たり、参考にしてみてはいかがでしょうか。