給与計算ってどうやるの? 時間外労働、休日労働、深夜労働があったときの計算方法は?
時折、未払い残業代のニュースが世間を騒がせます。法定労働時間を超えて労働させた場合や、法定休⽇に労働させた場合には、企業は割増賃⾦を⽀払わなければなりません。
また、深夜に労働させた場合も同様です。割増賃⾦単価に含む賃⾦、含まない賃⾦も法令で決まっています。未払い賃⾦請求を受けることがないよう、正確に計算をして⽀払いましょう。
今回は、時間外労働等の計算⽅法を説明します。
決められている割増賃金率
労働者に時間外労働や休日労働、深夜労働を行わせた場合には、企業は法律で定められた割増賃金を支払わなければなりません。
割増賃金率は決められていますから、必ずそれ以上の率で計算した割増賃金を支払う必要があります。
【割増賃金率】
割増賃金の計算方法
月給制の場合、その賃金額を月の所定労働時間数(月によって所定労働時間数が異なる場合には、1年間における1か月平均所定労働時間数)で除して1時間当たりの賃金額を求め、割増賃金の対象となる労働時間数を乗じて得た額に割増率を掛けて割増賃金額を計算します。
- 割増賃金額
- 1時間当たりの賃金額 × 時間外労働等の時間数 × 割増賃金率
1時間当たりの賃金額を求める際、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金は労働とは直接的な関係が薄く、個人的事情に基づいて支給されていることなどから、割増賃金の基礎となる賃金に含めなくても構いません。ただし、このような名称であればすべて除外できるわけではありません。これらの手当を除外することができるかどうかは単に名称によるのでなく、その実質によって判断されます。割増賃金の基礎となる賃金に含めなければならない場合もあるので注意してください。
【家族手当】
割増賃金の基礎となる賃金から除外できるのは、扶養家族の人数等を基準として算出される手当です。
【通勤手当】
割増賃金の基礎となる賃金から除外できるのは、通勤距離や通勤に要する実費に応じて算定される手当です。
【住宅手当】
割増賃金の基礎となる賃金から除外できるのは、住宅に要する費用に応じて算定される手当です。
一般的な規定例
労働者に時間外労働や休日労働をさせるには、労使協定(36協定)を締結し、労働基準監督署へ届け出なければなりません。また、就業規則には時間外労働等を命じる規定が必要です。割増賃金の計算方法や割増賃金率についても定めておきましょう。
【時間外労働等を命じる規定例】
第〇条(時間外及び休日労働等)
- 1 業務の都合により、第〇条の労働時間を超え、または第〇条の休日に労働させることがある。会社が認める正当な理由なく、従業員は時間外労働および休日労働を拒むことはできない。
- 2 前項の場合、法定時間外労働および法定休日労働については労働基準法第36条に基づく協定の範囲内とする。
- 3 満18歳未満である従業員には、法定時間外労働、法定休日労働および深夜労働(午後10時~午前5時の労働)はさせない。また、妊娠中または出産後1年を経過しない女性従業員が請求した場合には、法定時間外労働、法定休日労働および深夜労働はさせない。
【時間外労働に対する割増賃金の規定例】
第〇条(時間外労働に対する割増賃金)
- 1 時間外労働に対する割増賃金は、次の割増賃金率に基づき、次項の計算方法により支給する。
-
- ① 1か月の時間外労働の時間数に応じた割増賃金率は、次のとおりとする。この場合の1か月は毎月1日を起算日とする。
時間外労働45時間以下:25%
時間外労働45時間超~60時間以下:25%
時間外労働60時間超:50% - ② 1年間の時間外労働の時間数が360時間を超えた部分については、25%とする。この場合の1年は毎年4月1日を起算日とする。
- ① 1か月の時間外労働の時間数に応じた割増賃金率は、次のとおりとする。この場合の1か月は毎月1日を起算日とする。
なお、時間外労働に対する割増賃金の計算において、上記①及び②のいずれにも該当する時間外労働の時間数については、いずれか高い率で計算することとする。
2 割増賃金は、次の算式により計算して支給する。
(時間外労働が1か月45時間以下の部分)
(基本給+〇〇手当+〇〇手当+○○手当)
÷ 1か月の平均所定労働時間数
× 1.25
× 時間外労働の時数
(時間外労働が1か月45時間超~60時間以下の部分)
(基本給+〇〇手当+〇〇手当+○○手当)
÷ 1か月の平均所定労働時間数
× 1.25
× 時間外労働の時間数
(時間外労働が1か月60時間を超える部分)
(基本給+〇〇手当+〇〇手当+○○手当)
÷ 1か月の平均所定労働時間数
× 1.50
× 時間外労働の時間数
(時間外労働が1年360時間を超える部分)
(基本給+〇〇手当+〇〇手当+○○手当)
÷ 1か月の平均所定労働時間数
× 1.25
× 時間外労働の時間数
先にみた通り、1か月60時間を超える時間外労働について5割以上の割増率となるのは大企業です。以下に該当する中小企業については、2023年4月からの適用となります。
【適用が猶予される中小企業】
その他注意点
割増賃金の計算にあたっては、1分単位で正確に計上するのが正しい労働時間管理です。日々の労働時間の端数計算を切り捨てで計算することは、切り捨てられた時間分の賃金が未払となるため認められません。ただし、事務簡便のため、その月における時間外の総労働時間数に30分未満の端数がある場合にはこれを切り捨て、それ以上の端数がある場合にはこれを1時間に切り上げることは認められています。
厚生労働省「監督指導による賃金不払残業の是正結果(令和2年度)」によると、労働基準監督署の監督指導で、令和2年4月から令和3年3月までの間に合計100万円以上の割増賃金の支払いをした企業は1,062社となっています。支払われた割増賃金の平均額は1企業あたり658万円、労働者1人あたり11万円となりました。働き方改革により、長時間労働を是正するための残業規制が始まっています。できる限り残業を減らす事業運営を心がけるとともに、必要により残業をさせる場合には賃金不払い残業とならないよう、十分に気を付けてください。