給与計算ってどうやるの? 出産と社会保険給付
社会保険に加入している従業員が産休や育休を取る際には、「出産育児一時金」や「出産手当金」などの給付を受けられます。
会社にとっても、こうした社会保険は、従業員が経済的に安心して出産や育児をするために重要な仕組みであり、会社としても従業員を守るために理解しておくべきことです。
そこで本記事では、令和4年1月時点で全国保険協会が公開している情報に基づいて、出産育児一時金および出産手当金の支給要件・支給額・支給方法などについて分かりやすく解説していきます。
1 はじめに
社会保険に加入している被保険者が出産するときに社会保険(健康保険)から出される給付があります。被保険者本人のみならず、被扶養者の出産に関しても給付があるものがあります。給付の種類として、出産の費用に関する「出産育児一時金」と、出産のために会社を休み、その間の給与が受けられない場合に支給される「出産手当金」の二つがあります。
雇用保険にも出産に関係する給付はありますが、今回は社会保険(健康保険)の給付を見ていきます。
給付額や手続き方法は全国保険協会における令和4年1月現在のものですので、時間の経過により改正があったり、または健康保険組合の場合には独自の付加給付がある場合がありますのでご注意ください。
2 出産育児一時金
被保険者の出産には「出産育児一金」が、被扶養者の出産には「家族出産育児一時金」が支給されます。
【支給要件】
被保険者または被扶養者が妊娠85日(4ヶ月)以後の出産であること。ここには早産はもちろん、死産、流産や人工妊娠中絶も含まれます。
正常な出産や、経済上の理由による人工妊娠中絶は、健康保険による診療の対象ではありませんが、出産育児一時金の対象となります。
また被保険者が、被保険者の資格を失ってから6ヶ月以内に出産した場合にも、被保険者期間が継続して1年以上ある場合には、出産育児一時金が支給されます。
なお被保険者が、妊娠中(85日以後)に業務上又は通勤災害の影響で早産したような場合、労災保険で補償を受けたとしても、出産育児一時金は支給されます。
【支給額】
「産科医療補償制度」に加入する分娩機関で妊娠22週到達日以降に出産した場合の支給額は、1児につき42万円です。同制度に加入しない分娩機関及び同制度に加入している分娩機関であっても、妊娠22週未満で出産した場合には、40.4万円です。多胎出産の場合には人数分が支給されます。
なお、産科医療補償制度とは医療機関等が加入する制度です。
【支給方法】
(1)『直接支払制度』
出産にかかる費用に出産育児一時金を充てることができるように、全国健康保険協会等の保険者が出産育児一時金を医療機関等に直接支払う仕組みです。この制度を利用すると、直接支払制度を利用している医療機関が妊婦等に代わって出産育児一時金の請求及び受け取りを行ってくれます。そのため被保険者等は出産費用としてまとまった額を事前に用意する必要はありません。
当該直接払制度を利用するには、出産する予定の医療機関等に被保険者証を提示し、当該医療機関等を退院するまでの間に「直接支払制度の利用に合意する文書」の内容に同意する必要があります。
直接支払制度を利用した場合で、出産にかかった費用が出産育児一時金支給額の範囲内であった場合には、その差額を出産後保険者に請求することができます。
なお、直接医療機関等に出産育児一時金が支払われることを希望しない方は、出産にかかった費用を医療機関等に退院までにお支払いの上、出産後に被保険者から保険者に申請し、出産育児一時金を受給することも可能です。
(2)『受取代理制度』
受取代理制度は、先の直接支払制度が被保険者等の合意を得て制度を導入している医療機関が手続きを行ってくれるのに対し、被保険者等が自ら手続きを行う違いはあるものの、被保険者が受け取るべき出産育児一時金を医療機関等が被保険者に代わって受け取る制度であり、この制度を利用すると被保険者が医療機関等へまとめて支払う出産費用の負担の軽減を図ることができます。
事務的・費用的な負担等から(1)の直接支払制度を実施できない小規模医療機関等を利用する被保険者が、当該受取代理制度を利用できます。
ただし、受取代理制度による出産育児一時金の申請は、被保険者等の出産予定日まで2ヶ月以内の方に限られますので注意が必要です。
また、すべての小規模医療機関等で利用が可能なわけではなく、厚生労働省に届出を行った一部の医療機関等に限られますので、当該制度の利用の可否については、出産を予定されている医療機関等にお尋ねいただく必要があります。
3 出産手当金
被保険者が出産のために会社を休み、事業主から給与の支払いを受けられないときに出産手当金が支給されます。先にご説明した出産育児一時金に「家族出産育児一時金」がありますが、この出産手当金は被保険者本人に対する給付のみです。
また、退職後任意継続被保険者になっている方には出産手当金の支給はありません。
【出産手当金が受けられる期間】
出産手当金は、出産の日(実際の出産が予定日後のときは出産予定日)以前42日目(多胎妊娠の場合は98日目)から、出産の日の翌日以後56日目までの範囲内で、会社を休んだ期間について支給されます。ただし、休んでいても会社から給与が支給され、その額が出産手当金の額よりも多い場合には出産手当金は支給されません。
出産が出産予定日よりも遅れることがありますが、その場合には、出産予定日以前42日(多胎妊娠の場合は98日)から出産日後56日の範囲内となっており、実際に出産した日までの期間(α期間)についても給付を受けることができます。
【支給額】
支給額は、1日に支給される金額に支給される日数を乗じて算出します。
休業1日につき 直近12ヶ月間の標準報酬月額平均額÷30× 2分の3相当額
ただし、被保険者期間が12ヶ月に満たない人は、次の①、②のいずれか低い額となります。
- ①該当者の支給開始月以前の直近の継続した各月の標準報酬月額平均額
- ②加入している保険者の前年度9月30日時点における全被保険者の標準報酬月額平均額
【支給申請】
「出産手当金支給申請書」に必要事項を記載の上、医師等の証明及び事業主の記載・証明欄を記入し、加入している保険者に提出します。全国保険協会では、申請期間の初日に属する月までに現在勤めている事業所で12ヶ月加入していない場合や被保険者が死亡しているなどのときを除き、添付書類は不要とされています。健康保険組合等では出勤簿や賃金台帳等の添付が求められているところもありますので、漏れのないように提出しましょう。
なお、令和2年12月25日より、全国健康保険協会では、各種申請書の押印が不要となっています。各健康保険組合の書式も同様の動きがありますので、最新の書式を入手してお使いください。
【退職後の継続給付】
被保険者の資格を喪失した日の前日(退職日等)まで被保険者であった期間が継続して1年以上(任意継続被保険者期間は除く)あり、被保険者資格を喪失した日の前日に出産手当金を受けているか、もしくは受けられる状態であれば、資格喪失後も引き続き出産手当金が支給されます。なお、退職日に出勤した場合には、資格喪失後の継続給付を受けられなくなってしまいますので、注意が必要です。
4 まとめ
出産される被保険者や、ご家族が出産される被保険者、いずれにおいてもどのような給付があり、何を提出しなければならないかなど分からないのが一般的です。従って、会社で担当となっている方は、被保険者ご自身やご家族の妊娠が分かり育児休業等の制度説明をする際に、健康保険からの給付も併せて説明し、余裕をもって準備していただけるようにするなどしていくといいでしょう。担当者自身も不明な点などがあるのも当然です。そのようなときには、保険者に問い合わせるなどして間違いのないように努めていきましょう。