給与計算ってどうやるの?社会保険制度の基礎を学ぼう 介護保険の全体像
介護保険は2000年に創設された比較的新しい制度です。創設以来20年を経過した2020年3月末時点で、65歳以上の被保険者数は約1.6倍、サービスの利用者数は約3.3倍となりました。団塊の世代が75歳以上となる2025年が迫っています。75歳以上になると要介護等の認定を受ける方の割合が大きく上昇することから、団塊ジュニアの介護離職の増加が懸念されています。少子高齢化による労働力不足に加え、介護離職が増加すると、企業経営に大きな影響を与えかねません。今後、介護離職を防ぎ介護と仕事の両立支援を進めるためには介護保険の知識は必須といえます。今回は、介護保険の全体像についてみてみましょう。
介護保険の加入者
医療保険には国民の誰もが加入しますが、介護保険への加入は40歳からとなっています。年齢により第1号被保険者と第2号被保険者に分けられていて、介護保険を利用できる要件が異なります。第1号被保険者の場合には、要介護・要支援状態になった原因は問われませんが、第2号被保険者の場合には、要介護・要支援状態になった原因が老化による病気に限られています。
第1号被保険者 |
第2号被保険者 |
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対象者 |
65歳以上の方 |
40歳から64歳までの医療保険加入者 |
受給要件 |
原因を問わず、要介護・要支援状態にあること |
要介護・要支援状態が、末期がん、関節リウマチ、骨折を伴う骨粗鬆症など老化に起因する疾病による場合に限定 |
従業員が第1号被保険者の場合、介護保険料は年金からの天引きとなるので給与から差し引く必要はありません。一方、従業員が第2号被保険者である場合は給与からの天引きとなります。従業員の年齢によって給与天引きするか否かが異なりますので、給与計算をする際には注意してください。
第1号被保険者 |
第2号被保険者 |
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介護保険料 |
原則として、年金からの天引き |
健康保険料とともに給与天引き |
居宅サービスと施設サービス
介護が必要になったとき、自宅や自宅からの通いで介護サービスを受ける場合と、住まいを移して介護サービスを受ける場合があります。前者は居宅サービス、後者は施設サービスと呼ばれます。居宅サービスは訪問系と通所系に分かれますが、訪問系には訪問介護や訪問入浴介護などがあり、通所系にはデイサービスやデイケアなどがあります。
【主な訪問系サービス】
訪問介護 |
ホームヘルパーが利用者の自宅を訪問し、食事・排泄・入浴などの介護や、掃除・洗濯・調理などの援助をします |
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訪問入浴介護 |
看護職員と介護職員が利用者の自宅を訪問し、持参した浴槽によって入浴介護を行います |
訪問看護 |
看護師などが利用者の自宅を訪問し、主治医の指示に基づいて療養上の世話や診療の補助を行います |
【主な通所系サービス】
デイサービス |
通所介護とも呼ばれ、利用者が自宅から施設に通い、食事や入浴など日常生活にかかわるケアを中心にサービスを受けます |
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デイケア |
通所リハビリテーションとも呼ばれ、利用者が通所リハビリテーションの施設に通い、マシンを使った機能訓練など、リハビリ中心のサービスを受けます |
その他のサービスとして、ショートステイや、小規模多機能型居宅介護などがあります。ショートステイは、介護者が病気になった場合や、介護者の身体的・精神的負担の軽減のため、要介護者が短期間施設に入所して介護サービスを受けるものです。小規模多機能型居宅介護は、施設への「通い」を中心として、短期間の「宿泊」や自宅への「訪問」を組み合わせて介護サービスを受けるものです。
介護者がいない場合や、要介護度が重く自宅での介護が困難な場合には、住まいを介護保険施設などに移して介護サービスを受けることになります。
【介護保険施設】
介護老人福祉施設 |
一般には、特別養護老人ホームと呼ばれます。原則として、要介護3以上の方が入所できる施設です |
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介護老人保健施設 |
病院と自宅の中間的な役割を持つ施設で、在宅復帰を前提としたリハビリが中心となります |
介護医療院 |
「長期療養のための医療」と「日常生活上の世話(介護)」を一体的に提供する施設で、長期的な医療と介護のニーズを併せ持つ高齢者が対象です |
介護療養型医療施設 |
医療や介護の必要度が高い要介護者に対し、充実した医療処置とリハビリを提供する施設です |
介護保険施設のほか、高齢者の住まいとして、認知症高齢者グループホームや介護付き有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅などがあります。
介護サービスを受けるには
介護保険制度では、介護の必要度合いに応じて介護サービスを受けることができます。ただし、介護サービスを受けるには市町村に要介護・要支援認定の申請をして、その認定を受けなければなりません。認定に関しては、全国一律の認定基準、コンピュータを活用した機械的審査、合議制の介護認定審査会の設置などの仕組みが設けられています。
一次判定 |
市町村の認定調査員による心身の状況調査及び主治医の意見書に基づいて、コンピュータ判定を行います |
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二次判定 |
介護認定審査会が、一次判定結果や主治医の意見書などに基づいて審査判定を行います |
要介護や要支援と認定されて介護サービスを受ける際、どのような介護サービスが必要かは、ひとり一人異なります。よって、どのような介護サービスをいつ、どれだけ利用するかを決める計画(ケアプラン)を作成しなければなりません。例えば、要介護の方の場合、居宅介護支援事業所(ケアプラン作成事業者)に依頼をするとケアマネジャーがケアプランを作成してくれます。要介護者はケアプランに基づいてサービス提供事業者と契約を結び、介護サービスを利用します。介護保険施設を利用する場合は、施設のケアマネジャーが利用者に合わせたケアプランを作成します。
介護保険を利用した際の自己負担割合は、所得に応じて、かかった費用の1割~3割です。仮に1万円分のサービスを利用した場合、自己負担は1千円~3千円ということです。介護保険施設を利用する場合は、費用の1割~3割負担のほかに居住費、食費、日常生活費の負担も必要です。
福祉用具貸与と住宅改修
要介護度が重くなると自宅での生活は難しくなり、介護保険施設などに住まいを移すことも多くなりますが、軽中度の場合には一般に自宅での生活となります。その際、介護保険を利用して、車いすや介護ベッド、つえや歩行器などの福祉用具をレンタルすることができます。レンタル料金は月額設定となっており、利用者の自己負担は費用の1割~3割です。ただし、腰掛便座(ポータブルトイレ)や入浴用のいすなど、他人が使用したものを再利用することに心理的抵抗感が伴うものなどはレンタルになじまないので、購入する必要があります。また、自宅に手すりを付けたり、段差解消の工事をするなど、住宅の改修をする場合にも介護保険が使えます。利用限度額は同一住宅で20万円です(1割~3割の自己負担)。例えば、段差解消の工事などで20万円かかった場合、1割負担の方であれば自己負担は2万円となります。
高齢者はちょっとした段差に躓いたり、転んだりして骨折することがあります。そのまま入院、要介護状態となることもあり、従業員に高齢の家族がいる場合、いつ介護が必要になるか分かりません。もし従業員が働きながら介護をすることになると、仕事との両立が大きな課題となります。突然従業員が介護に直面し、慌てて仕事を辞めることがないよう、相談しやすい状況を整えるとともに、不安や負担を軽減するため、国の支援制度や介護保険制度についてもアドバイスできる体制を作っていきましょう。