人事担当者必見! リテンションの意味は? 具体的な施策は?
慢性的な人手不足に陥る企業が多い昨今、多くの人事担当者を悩ましているのが、社員の定着率が低いことです。
そこで人材流出を防ぐ効果的な施策として注目されているのが、リテンションマネジメントです。本記事では人事におけるリテンションとは何か、離職率を低下させる具体的な施策や導入するメリット・問題点とあわせて解説します。
人事業界におけるリテンションとは?
リテンションとは、直訳すると保持・維持(または保留・保有)といった意味の用語で、人事業界では「人材の確保(維持)」の意味で使われます。また、マーケティング領域では「既存顧客の維持」といった意味でも使われる言葉です。
人事におけるリテンションとは、企業にとって優秀な人材を自社に確保するためのさまざまな施策のことをいい、従業員の離職を防ぐ取り組みそのものを指します。
リテンションを行う際には、報酬制度の見直しや福利厚生などの人事制度に限らず、従業員に働きやすいと感じてもらうための環境づくりやワークライフバランスの実現に向けた取り組みなど、幅広くバランスのよい施策を打つことが求められます。
金銭報酬によるリテンションに頼れば、優秀な社員はただちに成果を上げ、高い報酬を得られるようになるでしょう。しかし、高報酬でも働きやすい環境でなければ、社員がすぐに疲弊してしまい、結果的に人材が流出してしまうケースが多い傾向にあります。
一方で環境が良いものの、社員が寝食を賄えないほど給与が低ければ退職せざるを得なくなることもあるため、企業の状況によって効果的な施策は異なると言えます。
リテンションを導入することのメリット
企業がリテンションにおける施策を導入するメリットとしては、以下の4つが挙げられます。
- 採用コスト・教育コストが削減できる
- 事業計画を立てやすい
- 社員のモチベーションを保てる
- 技術・知識・人脈の流出を防げる
それぞれ、一つずつ具体的に確認していきましょう。
採用コスト・教育コストが削減できる
人材の獲得には、広告費や採用ホームページの管理費用、採用担当者の人件費など、多くの金銭的コストがかかります。さらに金銭的コストに加えて、応募者への対応や面接などの人物考査には時間的コストが発生します。
こうして費用と時間をかけ、優秀な人材を採用できたとしても、自社で活躍する社員へと成長してもらうためには教育が必要です。新人社員が十分な業務スキルを身に着けるまでに成果を上げることは難しく、また既存の社員が教育を行うにもコストが発生します。
このように採用した人材が自社で成果を上げ、利益をもたらすようになるまでには、多くの費用と時間がかかるのです。
そこでリテンションにより社員の離職率を下げることができれば、採用活動の頻度を減らせるため、これらの採用コスト・教育コストを大幅に削減できます。
技術・知識・人脈の流出を防げる
優秀な社員が離職すれば、各従業員が持つ技術や人脈は自社から離れてしまいます。さらに離職した人材が競合他社に転職すると、自社のノウハウが他社に流出して市場競争力を損なう恐れがあります。
リテンションで離職率を低下させることは、技術や人脈といった自社ノウハウの流出を防ぐことにつながります。
高い技術や広い人脈を持った人材を自社に確保することができれば、業務におけるパフォーマンスの維持や、生産性の向上にもつながるでしょう。
事業計画を立てやすい
事業の発展・継続のためには、実現性の高い事業計画を立てる必要があります。事業計画の前提として、実現できる人材が十分に確保されていることが重要です。
事業計画の実施にあたって、優秀な社員が離職してしまっては、計画を推し進めるのは困難です。
また従業員が頻繁に離職する企業では、具体的・長期的な事業計画を立てることが難しくなります。
リテンションにより離職率を下げ、社員の戦力が安定すれば事業経営もまた安定するため、長期的な計画を実現しやすくなります。具体的な事業計画で、社員が先行きを想像しやすくなれば、働きやすくリテンションの高い状態を維持することにもつながります。
社員のモチベーションを保てる
離職率を下げることは、社員のモチベーション維持にも効果的です。
社員の入れ替わりが激しい組織は、社内のコミュニケーションが安定せず、職場環境で良好な人間関係を構築しにくくなります。社員同士の関係が希薄な環境ではモチベーションの維持が難しいため、業務の生産性が下がり、チームワークが滞る原因になりかねません。
こうした損失を防ぎ、業務を円滑に進めるためには、社員同士が活発にコミュニケーションを取れる環境づくりが必要です。社員目線に寄り添ったリテンションを実施することで、風通しのよい職場をつくることができるでしょう。
リテンションの具体的な施策とは
リテンションの向上には、企業それぞれの自社状況にあった施策を行うことが重要です。例えば、平均給与が競合他社より高いのに離職率が高いという場合には、時間外労働が多いといった問題を抱えている可能性があります。
ここからは、リテンションの具体的な施策を詳しくご説明します。自社状況を把握し、効果的な施策を検討しましょう。
適切な人事評価・給与の見直し
社員にとって給与・賞与といった金銭的報酬は労働の対価であり、当然、不十分な報酬で働き続けることはできません。正当な人事評価を行い、個々人の成果に見合った報酬を与えることは、社員のモチベーション維持や生産性の向上につながります。
これらを踏まえて、人事評価制度と給与の見直しを行いましょう。
また、適切な人事評価をするには、評価者を教育することも必要です。成果が見えやすい営業職と比べ、管理・維持を目的とする事務職や一部の技術職は評価が難しいため、一定の要件を設定するといった対応を要します。
評価者のスキルが不足していると感じた場合は、研修を行うなど技量を高める取り組みを講じるとよいでしょう。
ワークライフバランスの改善
ワークライフバランスとは、仕事と私生活のバランスがよい状態を指し、社員が仕事とプライベートの双方を充実させられる働き方を意味します。
優秀な人材に長く働いてもらうためには、労働環境を見直し、社員のワークライフバランスを改善させることが必要です。
休日出勤・時間外労働が当たり前になっていたり、なかなか有給休暇を取れなかったりする企業は、社員の離職率が高まりやすく、人材の定着が見込めません。
そうした労働環境を改善するためには、定時で仕事を終え残業しない日をあらかじめ設定しておく「ノー残業デー」を取り入れることや、有給休暇の取得を推奨することが効果的です。そのほかにも、始業時間を定めず労働者それぞれが自身の都合に合わせた働き方ができる「フレックスタイム制度」や、出産や育児の休暇取得サポート、テレワーク・リモートワークを導入するなどの施策を打ち出すとよいでしょう。
配置の見直しとキャリア形成支援
若手社員が頻繁に離職する状態の場合、採用した人材をどこに配置するかが重要な課題となります。入社後に「こんなはずではなかった」「想像していた働き方と違う」といったギャップを感じる人も少なくはないからです。そのため、可能な限り本人が希望する部署に配置することで社員のパフォーマンス向上が見込めます。
また、ジョブローテーション制度を取り入れることも、リテンション施策の一つとして効果的です。ジョブローテーション制度とは、定期的な部署移動・職務変更を行うことで社員に多様な業務を経験させ、能力を成長させる制度のことをいいます。これにより、仕事内容や人間関係が一新され、業務スキル向上や部署間の関係強化に期待できるでしょう。
ジョブローテーションの際には、社員一人ひとりに「今後どのような仕事をしたいか」「そのためにはどのような知識・スキルが必要か」といったキャリアパスを明確化させることが重要です。
キャリアパスとは、仕事をする上での最終的な到達点を定め、そこに向かって推進していくための道筋を意味します。
制度を通して社員が「この組織なら自分の理想とするキャリアを実現可能だ」と感じられれば、人材の定着へとつながるでしょう。
社内コミュニケーションの活発化
風通しのよい職場環境は良好な人間関係を築きやすいため、社内コミュニケーションが活発になります。
コミュニケーションの活発化には、1on1のミーティングや、スキルやノウハウを豊富に持った先輩社員が後輩を幅広くサポートする体制を取るメンター制度などを取り入れることが効果的です。社内の風通しが良くなり、社員同士が柔軟なコミュニケーションを取れる働きやすい環境づくりに役立てることができます。
これらの取り組みはコミュニケーションを活発化させるだけでなく、社員を取り巻く状況を把握することにつながったり、個人の悩みや職場全体が抱える問題に気づくきっかけにもなります。
リテンションを導入する際の問題点
マネジメントにおいて多くのメリットをもたらすリテンションですが、導入に際して注意が必要な点もあります。リテンションは、開始してすぐに高い効果を得られるものではないため、中長期的な目標として離職率の改善を目指しましょう。
導入する労力が必要
リテンションの問題点としてまず、導入に労力がかかることが挙げられます。
先述の通り、施策には人事制度の変更や、有給休暇を取得しやすくするなどがあり、これらの実現には制度を抜本的に見直す必要があります。
また、施策の効果を最大限に発揮するためには、自社の現状を把握しなければなりません。施策の検討段階から社員の意見をリサーチし、実際の労働時間や給与などからデータ分析する必要があるなど、把握内容をまとめる作業にも時間がかかります。
リテンションの実施には相応の準備を必要とし、制度の変更から環境の変化に至り、実際に効果が出てくるまでには多くの時間と労力を要します。効果を感じにくい施策には、管理にも大きな負担を感じることがあるかもしれません。
まずはスモールスタートで、自社の企業体力で継続可能な範囲の施策から取り入れてみるとよいでしょう。
導入するコストが必要
効果的なリテンション施策としては、給与の底上げや福利厚生を手厚くするといった方法がありますが、これらには当然コストがかかります。
例えば、休息時間の質を高めるためのリフレッシュスペースを設けるには設備投資を要し、従業員のスキルを上げる研修や人間関係の改善を促すレクリエーションを行うためには、研修の参加費や設備使用料を必要とします。
このようにリテンションには、導入に労力とコストがかかる問題があります。無理な施策を推し進めて企業体力を失い、従来の労働環境や市場競争力が損なわれれば本末転倒です。そのためリテンションを実施する際は、労力とコストから期待できる効果をよく検討しましょう。