総務の仕事。「コンプライアンスの徹底」
総務から会社を変えるシリーズ
コンプライアンス徹底の課題
働き方が分散されると、総務が今まで行っていた集中管理が不可能となります。分散管理という、今まで経験したことのない状態に突入します。むしろ、この分散管理を過渡期として、自走組織を目指すべきだと考えます。従業員が自律的に判断し、仕事をしていく組織です。そこで必要となるのが、自己防衛と自己完結。自己完結は、AIチャットボットや、FAQにより、総務に依頼しなくとも自ら対処できる状態です。一方、自己防衛は、自らを自らで守り切る、という状態です。
震災対策もしかり、情報セキュリティ対策もしかり。さらには、自分一人で判断し行動するには、コンプライアンス教育も重要です。コロナ禍以前より、総務の一つの重要なミッションとして行われてきました。しかし、大きな課題となるのが、そしてコンプライアンス教育で難しいのが、従業員の当事者意識が希薄なことです。
- 「時間がもったいない」
- 「自分とは関係ない」
- 「現場と乖離している」
社員は渋々受講しつつも、内心そのように思っていることでしょう。すると身につくこともなく、コンプライアンス違反、事故が生じてしまいます。意図して違反することは少なく、むしろ知らないことにより犯してしまうといった事態になりかねません。アフターコロナでますます働き方が分散されることは、ポジティブな傾向であり攻めの総務の施策となるのですが、表裏一体で大きなリスクを孕む施策でもあります。今まで以上にコンプライアンス教育が必要とされる時代に入ったのです。
コンプライアンス教育の実態
多くの企業で行われているコンプライアンス教育には、以下のものがあります。
- コンプライアンス室(総務部)等の管轄部門で行われる集合研修
- コンプライアンスハンドブックや社内報などの誌面を通じた研修
- eラーニング等のシステムを使う研修
どの方法も、目指すべきは社員の当事者意識の喚起です。人間は、自分事として捉え、具体的な活用イメージが示されて、はじめて理解できます。自らの仕事の現場とどう関わり、違反するとどんな不利益が降りかかるのか。言葉は悪いですが「少しびびってもらう」内容の方が、効果が期待できます。
上記に挙げた方法で行った事例をいくつか紹介していきましょう。
事例:劇画ポスターで注意喚起をしたITセキュリティ教育
ある外資系の企業での事例です。
情報漏えい事故が頻発していた時期、その企業は従業員向けITセキュリティ教育を強化することになりました。以前からイントラ掲示板でセキュリティポリシーを告知していましたが、見向きもされませんでした。そこで、従業員のワークスタイルに合わせて、あらゆるメディアで注意喚起することにしました。社内報、イントラネット、そしてポスターです。従業員であれば、どれかのメディアに接するはずと考え、それぞれのメディアで展開したのです。
- 【社内報】
情報漏えいのリスクをテーマにした座談会を企画。社員にも登場してもらいました。- 【イントラネット】
他社の事例をケース別に掲載しました。- 【ポスター】
劇画調の4コマ漫画で、情報漏えいをした場合の従業員の困惑した姿をインパクト大きく掲載しました。
ほとんどの従業員がいずれかのメディアで目にすることになり、認識度は100%近い数字を上げました。
事例:死亡事故の話で当事者意識を喚起
私がリクルート総務部で車両事故担当の時に行った事例です。当時、全国で250台の社有車が、軽微なものを含めると3日の1件のペースで事故を起こしていました。安全運転管理者として、安全運転教育を行うのですが、なかなか効果が出ません。
悩んだ私が相談したのは、自動車保険会社。人身事故一筋30年のプロによる「唯一示談にできなかった死亡事故」の話をしてもらいました。加害者宅に被害者の配偶者が毎夜訪れ、加害者当人も自殺してしまった、という悲惨な話でした。会場は水を打ったように静まり返り、「社内免許を返上したい」と訴えに来る営業担当もいたほど、参加者には刺さりました。自らが加害者になった時のイメージが想像され、強烈な当事者意識が芽生えたのです。そして実際に、車両事故が減りました。
事例:社内報をコンプラ意識醸成のきっかけに
社内報の社内報企画コンクールを取り仕切ったことがあります。当時はコンプライアンスの企画を応募する企業が多く、数多くの優秀なコンプラ企画を審査しました。ここで見つけた優秀な社内報のコンプラ企画には以下の共通点がありました。
- ■ 社長(コンプラ推進室室長ではなく)が重要性を宣言
→トップによる本気度を示すことが、まずは絶対条件です。- ■ 当事者を増やす
→連載で、営業、製造、経理といった各現場を取り上げ、陥りがちな事例と防止法を示します。- ■ 継続する
社内報にはきっかけだけを提示し、関心を持った人には次のステップを示します。最初は反響がなくても続けることで、次第に認知度が高まっていきます。
事例:eラーニングで理解度の確認する
最後は、eラーニングを取り入れた事例です。集合研修には、社員の顔を見ながら温度感を確認して行えるというメリットがありますが、社員を一堂に集めるのが難しい、理解度を確認できない、というデメリットがあります。そのデメリットを克服できるのが、eラーニングです。
【eラーニングのメリット】
- 時間や場所の制約がない
- 会場や教材の手配が不要
- 学習管理システム(LMS:learning management system)で受講者の理解度や進捗管理ができる
- テストを組み込むことで効果的なフォローアップができる
- 動画で実技や実際の動きを学ぶことができる
- 緊急事態が起こって素早く全社共有したい場合、全拠点に同一コンテンツを配信できる
むしろ、働き方が分散化された時代には、eラーニングが主流となるでしょう。手段としては優れていますが、重要なのはコンテンツです。どれだけ当事者意識を持てる内容なのか、ポイントは、自分に置き換えるとどうなるのかをイメージしやすいものとして作り込むことです。身近な、誰もが陥りがちな事例を中心に、その結果、自分自身にどのような悪影響があるのか、さらに会社にどれだけ迷惑をかけてしまうのか、といった内容にしていくことが重要です。
今後ますます働き方が分散される時代、コンプライアンス教育の重要性もますます高まることでしょう。