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【2022年施行法改正対応】令和4年度の年金制度改正

著者:社労士事務所ライフアンドワークス 代表  角村 俊一

【2022年施行法改正対応】令和4年度の年金制度改正

令和4年4月、年金制度が改正されました。

今後、より多くの方が長期にわたり働くことが見込まれる中、社会・経済の変化を年金制度に反映し、高齢期における経済基盤の充実を図るための改正です。

賃金と年金の合計額に応じて年金がカットされる制度が見直され、また、65歳以降も働く老齢厚生年金受給者について、働きながら納めた保険料が早期に年金額に反映される制度が始まりました。

年金受給の繰り上げや繰り下げについても見直されています。

今回は、令和4年度の年金制度改正について説明します。


増える高齢労働者

少子高齢化が進む中、60歳以上の労働者が増えています。厚生労働省「労働統計要覧」によると、令和2年における60歳から64歳までの雇用者は458万人、65歳以上の雇用者は620万人となっています。

【雇用者の推移】

平成28年

平成29年

平成30年

令和元年

令和2年

60歳~64歳

437万人

440万人

446万人

456万人

458万人

65歳以上

501万人

531万人

576万人

611万人

620万人

(参考:厚生労働省「労働統計要覧」)

内閣府「令和3年高齢社会白書」によると、現在収入のある仕事をしている60歳以上の方の約4割が「働けるうちはいつまでも」働きたいと回答しており、「70歳くらいまで」もしくは「それ以上」との回答と合計すれば、約9割の方が高齢期にも高い就業意欲を持っています。

高齢期の就労は年金とも関わりがありますから、企業としても年金制度について知っておく必要があります。


在職老齢年金制度の見直し

高齢期の主な収入は年金となりますが、働いていれば賃金が加わります。

ただし、老齢厚生年金をもらいながら働くと、年金(基本月額)と賃金(総報酬月額相当額)の合計額に応じて全部または一部の年金支給が停止される仕組みがあります。

これが在職老齢年金制度です。

【在職老齢年金制度】

在職中の老齢厚生年金受給者について、年金(基本月額)と賃金(総報酬月額相当額)の合計額が一定の基準を超えたとき、年金額の全部または一部が支給停止される制度

なお、賃金(総報酬月額相当額)には1年間の賞与を1か月あたりに換算した金額が含まれます。

年金

加給年金額を除いた老齢厚生(退職共済)年金(報酬比例部分)の月額

賃金

毎月の賃金(標準報酬月額)+ 1年間の賞与(標準賞与額)を12で割った額

従来、60歳~64歳の方は年金と賃金の合計額が「28万円」を超えると年金額が減額され、65歳以上の方は「47万円」を超えると年金額が減額されていました。

しかし、超高齢社会を迎え、労働者はこれまで以上に長い期間、多様な形で働くようになると見込まれています。

また、働いて収入がある人ほど年金が減額となるので、勤労意欲を削いでしまうという指摘もありました。そこで、年金カットの基準が緩和され、働いても不利になりにくい仕組みに変更されました。

令和4年4月以降、60歳~64歳の方が対象となる在職老齢年金について、年金の支給が停止される基準が従来の「28万円」から「47万円」に緩和されています。

これにより、65歳以上の方と同じように、老齢厚生年金の基本月額と賃金の合計が「47万円」を超えない場合は年金額の支給停止は行われず、「47万円」を上回る場合に年金額の全部または一部が支給停止される仕組みとなりました。


新設された在職定時改定

高齢期に働く場合、70歳になるまでは厚生年金に加入して保険料を負担しなければなりません。年金をもらいながら保険料を納めるという形です。

ただし、以前は退職等により厚生年金被保険者の資格を喪失するまで、老齢厚生年金の額は改定されませんでした。負担した保険料がすぐには年金額に反映されない仕組みだったのです。

令和4年4月、この仕組みも見直されました。65歳以上で働く老齢厚生年金受給者について、納めた保険料が速やかに年金額に反映されるよう、年金額が毎年10月に改定されることになります(在職定時改定)。

これも年金を受給しながら働く方の経済基盤の充実を図るものです。

【在職定時改定】

在職中の65歳以上70歳未満の老齢厚生年金受給者について、基準日である毎年9月1日に厚生年金保険の被保険者である場合、翌月10月分の年金額から改定される制度


年金の受給開始時期が拡大

年金の受給開始時期が拡大されています。

年金の受給開始は原則65歳からですが、高齢者が自身の就労状況等に合わせて年金受給を開始できるよう、60歳から70歳までの間で選択可能となっていた年金受給開始時期の上限が75歳に引き上げられました。

【対象となる方】

令和4年3月31日時点で、次の①か②のいずれかに該当する方

  • ① 70歳未満の方(昭和27年4月2日以降生まれの方)
  • ② 老齢年金の受給権を取得した日から起算して5年を経過していない方
    (受給権発生日が平成29年4月1日以降の方)

年金の受給開始を繰り下げた場合、1月あたり0.7%増額されます。

受給開始を75歳まで繰り下げると年金の増額率は84%ですから、例えば、年金額が180万円の方が75歳まで繰り下げた場合、75歳からの年金額は331.2万円となります。


繰り上げ受給をした場合の減額率の見直し

繰り上げ受給に関しても見直されています。年金を65歳まで待たずに繰り上げて受給した場合は年金が減額されますが、令和4年4月から、この減額率が1月あたり0.5%から0.4%に変更されました。

この改正は、令和4年3月31日時点で60歳に達していない方(昭和37年4月2日以降生まれの方)が対象です。昭和37年4月1日以前生まれの方については、従来の減額率0.5%から変更はありません。


年金手帳の廃止

令和4年4月、年金手帳が廃止されました。廃止後は、国民年金制度または被用者年金制度に初めて加入する方に「基礎年金番号通知書」が発行されることになります。

また、年金手帳の紛失等により再発行を希望する場合も、年金手帳ではなく「基礎年金番号通知書」が発行されます。

なお、既に年金手帳を持っている方には「基礎年金番号通知書」の発行はありません。


令和4年度の年金額

最後に令和4年度の年金額をみておきましょう。年金額は毎年見直されますが、令和4年度の年金額は0.4%の引き下げとなりました。

【令和4年度の新規裁定者(67歳以下の方)の年金額の例】     

    

令和3年度(月額)

令和4年度(月額)

国民年金
〔老齢基礎年金(満額):1人分〕

65,075円

64,816円

(▲259円)

厚生年金 
〔夫婦2人分の老齢基礎年金

を含む標準的な年金額〕

220,496円

219,593円

(▲903円)

  • 厚生年金は、平均的収入(平均標準報酬(賞与含む月額換算)43.9万円)で40年間就業した場合に受け取り始める年金の給付水準(参考:厚生労働省HP)

 

年金額は、物価や賃金に応じて決まります。

令和4年度の年金額改定に関する参考指標は、物価変動率が▲0.2%、名目手取り賃金変動率が▲0.4%、マクロ経済スライドによるスライド調整率が▲0.3%となりました。

この場合、物価の下げ幅よりも賃金の下げ幅が大きいので、支え手である現役世代の負担能力に応じ、賃金の下げ幅に合わせて年金額も下げることになります。

よって、令和4年度の年金額は0.4%の引き下げとなりました。

改定率がマイナスの場合には、マクロ経済スライドによる調整は行われません。マクロ経済スライドとは、将来世代の年金の給付水準を確保するため、平均余命の伸びなどに応じて年金支給額を調整する制度です。

人生100年時代には、年金だけを中心とした高齢期の生活設計ではなく、年金と賃金を中心とした生活設計が求められます。

労働者の方の関心も高いと思われますから、福利厚生の一環として、高齢期の生活設計に関するセミナーや相談会を企画してみてはいかがでしょうか。

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著者プロフィール

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角村 俊一

社労士事務所ライフアンドワークス 代表

明治大学法学部卒業。地方公務員(杉並区役所)を経て独立開業。
「埼玉働き方改革推進支援センター」アドバイザー(2018年度)、「介護労働者雇用管理責任者講習」講師(2018年度/17年度)、「介護分野における人材確保のための雇用管理改善推進事業」サポーター(2017年度)。
社会保険労務士、行政書士、1級FP技能士、CFP、介護福祉経営士、介護職員初任者研修(ヘルパー2級)、福祉用具専門相談員、健康管理士、終活カウンセラー、海洋散骨アドバイザーなど20個以上の資格を持ち、誰もが安心して暮らせる超高齢社会の実現に向け活動している。

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