総務の仕事。「コロナ禍で変わる、福利厚生管理」
総務から会社を変えるシリーズ
テレワーク手当の新設
コロナ禍により定着が想定されるハイブリッド・ワーク。コミュニケーションの課題はありつつも、どのようにしたらハイブリッド・ワークでの生産性が向上できるのか、今後、総務部門の大きな課題となりそうです。中でも大きな課題となっているのが、在宅の勤務環境整備ではないでしょうか?家庭では長時間快適に座れる椅子がない、通信環境が整っていない、そもそも仕事をするスペースがない――こうしたさまざまな課題が顕在化しています。
在宅勤務を継続することで、企業側としては通勤定期代やオフィスの水道光熱費が軽減されたこともあり、それを原資にテレワーク手当を新設するところも多くなったようです。『月刊総務』が行ったアンケートで新型コロナ以降に新設した福利厚生について尋ねたところ、「テレワーク手当」が17.6%となりました。テレワークを実施している企業に対し、テレワーク手当を実施しているか尋ねたところ、「はい」が32.8%、「いいえ」が67.2%と、テレワーク手当を実施している企業はまだ少数派ではあるものの、一定程度には増えてきているようです。
その中身を見ると、
- 毎月一律の金額を支給している:57.9%
- テレワーク開始時に一律の金額を支給した:31.6%
- テレワーク開始時に必要備品を実費精算した:13.2%
- 毎月光熱費や備品等を実費精算している:2.6%
- その他:15.8%
今後コロナ禍が終息した際、このテレワーク手当をどのようにするのかという点も、総務の現場では課題となりそうです。「既得権」となった福利厚生を止めるには、かなりのハレーションが生じてしまいます。また、ハイブリッド・ワークスタイルにおける在宅勤務と出社の割合を変化させた場合、テレワーク手当をどのような割合で減額変化させるのか、いまからシミュレーションしておきましょう。
福利厚生の原則
まずは、「全従業員への平等性」。これは福利厚生を考える上での原則となるポイントです。例えば、特定の人が使える制度であると、それ以外の従業員から不平不満が噴出します。よく問題となるのが、喫煙者への禁煙サポートです。タバコを吸う人だけ優遇されてずるい、という意見が出やすいものです。これが典型的な例です。
平等性は、多様性の広がる現代社会において、確保がなかなか難しいものです。さらに、今回のコロナ禍における福利厚生による在宅勤務環境のサポートでは、各家庭環境のバラつきが課題ともなります。どのレベルに合わせるのか、何を基準として判断するのかが大きな課題となります。
この平等性という観点から特に伸長著しいのが、「カフェテリアプラン」です。これは、各従業員にポイントを付与して、そのポイント内で自分が利用したい福利厚生制度をメニューの中から選ぶ制度のことです。多様性が進むにつれて、価値観や環境の違う従業員が増加してきたことに端を発し、平等にポイントを付与し、それぞれが自由に使えるカフェテリアプランを導入する企業が増えてきています。
今回の在宅勤務に伴うテレワーク手当も、考え方は一緒です。つまり、同一の金額を支給し、何に使うかは各自任せなのです。あるいは、仕事のための椅子を購入するにも、ある程度の種類を提示して、その中から各従業員に選んでもらうことにしている企業もあります。何か特定の椅子のみを提供する、という仕方ではない点がポイントです。
つまり、企業側からの「この人にはこの福利厚生を」という一対一の対応ではなく、幅広いメニューを提示して選択は各従業員に任せる方法が、福利厚生の大きなトレンドとなっているのです。多様性が今後ますます増していくことは必然であり、それに対応するには幅広いメニューを提示し利用者側に選択してもらうよう、セットで対応していくことになるでしょう。
福利厚生の利用率
では、この考え方に基づく場合の「利用率」をどう捉えるべきなのでしょうか。利用率より「カバー率」を重視する必要があるのではないでしょうか。最も避けたいのは、使える制度が存在しないという事態です。多様な人が存在するということは、幅広く使われることを想定しているはずなので、利用率が低い制度も当然出てきます。しかし、利用率が低いからといって、そうした制度をなくすという考え方では多様性が担保されません。どれだけ使えるメニューを用意できるかというカバー率を重視して設計することが、今後は重要になると思われます。今使われなくとも、次に入社してくる人が対象となる可能性もなくはないのです。どのような人であっても利用できると考えて準備していくことが求められるのです。
最後に、経営層の福利厚生に対する理解についてはどうでしょうか。企業として福利厚生をどのように考えるのか、という点が重要となります。福利厚生はえてして、従業員の既得権、権利のように捉えられることが多いようです。享受するのが当たり前、なくなると不平不満を言う――給与以外に企業として付与する福利厚生の目的をしっかりと伝えず、漫然と提供しているとそのように取られてしまうものです。
給与が仕事に対する報酬であるとするなら、福利厚生は企業側が求める人材になってもらうためのサポートだと捉えてはどうでしょうか。ワーク・ライフ・バランスが取れた生活を送ってもらうため、自己研さんに励む従業員になってもらうため、身体的・精神的に安定した状態でパフォーマンス高く仕事をしてもらう人材になってもらうため。そのような思いがあるから福利厚生として手当しているのだと、総務は発信していくべきでしょう。
目的を明確にした、あるべき人材となってもらうための明確な企業側の意志として福利厚生制度がある、と提示してみてはどうでしょうか。コストではなく、投資として捉えた福利厚生制度だと考えるべきではないでしょうか。コロナ禍により働き方が大きく変わった現在、福利厚生についても改めて考え直す時期にきているのかもしれません。