資産管理における内部統制の進め方 資産管理における総務部門の役割 その1
単に業務プロセスを明文化するということでは内部統制手続きを整備したとはいえません。
内部統制の目的を理解し、資産管理の仕組みを構築することが、誤謬や不正を防止するのみならす、業務の効率化にも寄与します。
総務部門で正しく把握しておくべき内部統制のポイントを解説します。
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資産管理における総務部門の役割
資産管理は、企業の内部統制の一部です。内部統制とは、企業の適正な業務遂行を実現するために企業内部で構築される業務プロセスの各種ルールやその仕組みを指すものです。
これには、適法性、効率性といった観点も含まれます。事業規模が極めて小さい段階では、経営者がすべての取引を自ら管理することができるため、業務の適正化、効率化をはかるための仕組みを構築する重要性は低いといえます。
しかし、事業規模が大きくなっていくにつれ、経営者が自ら管理することのできる取引、業務の範囲が限られるため、業務プロセスやルールを定め、これに従って運営がなされる仕組みを構築する必要が生じるのです。
内部統制の有効性は財務報告との関連で論じられることが多く、日本でも二〇〇六年六月に成立した金融商品取引法で、上場会社等における内部統制報告書の提出義務、およびこれに対する公認会計士または監査法人による監査証明の義務が定められ、経営者は自らの責任において財務報告に係る内部統制について方針を決定・計画・整備を実行し、その整備状況・運用状況を評価し、内部統制報告書を作成・提出することが求められています。「日本版SOX法」と呼ばれるものです。
このように、財務報告との関連で定められた法律であるため、総務部門においてはあまり意識されることがないかもしれませんが、総務部門における管理業務は財務報告の信頼性を担保するために重要な役割を担っているため、その設計と運用にあたっては十分な留意が必要です。また資産保全との関連で、内部統制は、資産の取得やその使用、処分が正当な手続きや承認のもとで適切に行われるようにすることを目的の一つとしており、この点からも総務部門の業務を適切に設定しなければならないのです。
内部統制手続きを整備する視点
資産保全のための内部統制手続きは、次のような観点から設定されます。
- 資産の取得は正当な権限のある者によって認められたものか
- 正当な権限のある者によって認められていない資産の取得をどのように防ぐことができるか
- <資産の取得条件は公正なのもか
- 公正な条件ではない資産の取得をどのように防ぐことができるか
- 取得した資産の代金は適正に決済されているか
- 取得した資産の代金が適正に決済されないことをどのように防ぐことができるか
- 取得した資産は企業会計基準等にのっとり適正に会計記録がなされているか
- 適正でない資産取得の会計記録をどのように防ぐことができるか
- 取得した資産が適正な管理のもと保管または生産活動等に使用されているか
- 取得した資産が社外に流出することをどのように防ぐことができるか
- 資産が適切にメンテナンスされ、資産の除却・売却処分は正当な権限のある者によって認められたものか
- 正当な権限のある者によって認められていない資産の除却・売却処分をどのように防ぐことができるか
すなわち内部続制手続きとは、単に業務処理手続きを定めたものではなく、定められた手続きにのっとって取引が実施されることを要求し、同時に、定められた手続きに従わない取引を防止することを実現する仕組みを意味するのです。
このことは、企業において内部統制手続きを設定するにあたって重要なポイントとなります。業務処理プロセスを設定するにあたっては、そのルールがどのように内部統制の目的を果たすために機能するのかを考えながら設定しなければ意味がありません。
たとえば、「資産の取得は正当な権限のある者によって認められたものか」という観点から、「資産の取得に際し、所定の稟議書を用いて決裁されなければならない」というルールを設けただけでは内部統制手続きを整備したとはいえないのです。
資産取得に関する稟議書を起案でさる者(部署)と発注することのできる者(部署)を分けるなどの職務分掌と内部牽制、納品時に検品担当者が決裁済み稟議書の写しと一件ずつ照合する手続きなどがあわせてルール化されていなければ有効に機能しません。
さらに、このような内部統制手続きの整備状況に留意するとともに、その運用状況についても重視する必要があります。どんなに優れた内部統制手続きを整備しても、それが意図した通りに運用されていなければ意味がありません。定められた手続き通りに運用されているかどうかをチェックする内部統制手続きも整備しなければならないのです。
このように、内部統制手続きを整備する一義的な目的は、企業が意図しない取引が実施されることにより企業の資産が不当に社外流失することを防ぐことにあります。
これは必ずしも従業員が意図的に行う「不正」だけを対象としたものではありません。業務処理の誤りなどによる「誤謬」を防止する機能も担うのです。
そして、もう一つの重要な目的は業務の効率化です。
企業において反復継続的になされるさまざまな取引について、その経理処理などを事前に定めておかなければ、取引の都度、業務処理について検討しなければならなくなり非効率です。
そして、担当者によって業務処理が異なれば、これらをまとめて管理することも難しくなります。このように業務の効率化を図ることも、人件費の縮減などを通じ、企業の資産保全に寄与するものであるといえるのです。
次回に続く
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