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遺産分割協議書の書き方とは|作成時のポイントと注意点について解説

遺産分割協議書の書き方とは|作成時のポイントと注意点について解説

遺産分割協議書とは、遺産分割協議で決定した内容をまとめた文書です。

相続後に余計な争いを生まないためにも作成することが望ましいとされています。では、どういう場合に遺産分割協議書の作成が必要なのでしょうか。また、作成の際はどう記載したらよいのでしょうか。本記事では、遺産分割協議書の概要から作成方法まで詳しくご紹介します


この記事の著者
弁護士法人堀総合法律事務所  代表 / 弁護士 

遺産分割協議書の書き方に決まりはない

そもそも遺産分割協議とは、相続において遺産の分割に関して法定相続人全員で話し合うことをいいます。遺産分割協議では、誰がどの遺産を相続するかなどを全員の同意のもと定めます。その内容を文書にまとめたものが、遺産分割協議書です。

遺産分割協議書を作成しておけば、相続に関するトラブルを避けられるだけでなく、相続に関連する手続きで遺産分割協議の内容を示す資料の提出を求められた際にスムーズに対応できます。このように相続において重要な遺産分割協議書ですが、その作成は法律で義務付けられているわけではありません。

そのため、遺産分割協議書に決められた書き方はなく、作成方法は自由です。文例集やひな形などを参考に自分で作成できます。また、一部の相続財産についてのみ遺産分割協議書を作成することも可能です。この場合、引き継ぎが決まった遺産の分割方法のみを記載した書面を作成することができます。

遺産分割協議書を作る際は、まず戸籍謄本を集めることから始めます。戸籍謄本は、亡くなった方の法定相続人を調査するために必要です。次に、亡くなった方の財産を確定させます。財産は、預金、不動産、株式などの財産のほか、借金などの負債に関する財産もよく確認しましょう。

遺産分割協議の一例としては、四十九日を過ぎたあたりから相続人全員で協議を始め、全員の同意が得られたら遺産分割協議書を作成します。

遺産分割協議書を作成するかどうかの判断基準

先ほどご説明したとおり、遺産分割協議書の作成は法律で定められているわけではないため、作成するかどうかは自由です。しかし、遺産分割協議書を適切に作成すれば、法的効力を持った文書として使用できます。特に相続人が複数いる場合は、後日の遺産分割に関するトラブル防止のためにも、遺産分割協議書の作成をおすすめします。

また、下記のようなケースでは、遺産分割協議書の作成の必要性が高いケースといえます。

<遺産分割協議書が求められるケース>

  • 遺言書に記載のない財産が発見された場合
  • 遺言書が存在するものの、遺言書が無効の場合
  • 遺言書に記載のとおりに遺産分割をしない場合

逆に、下記のようなケースでは遺産分割協議書の作成は不要であるケースが多いです。

<遺産分割協議書が不要なケース>

  • 遺産の相続人が1人の場合
  • 遺言書に従って遺産を分割する場合
  • 名義変更が必要な遺産がない場合
  • 相続税の申告手続がいらない場合

遺産分割協議書の作成期限とは

では、遺産分割協議書はいつまでに作成すればよいのでしょうか。

法律上は、遺産分割協議書の作成期限は定められていません。しかし、遺産分割協議書は相続税の申告で提出が必要な書類です。国税庁による案内でも、「税務署で相続税の申告をする際には、申告書に添付して遺言書の写しまたは遺産分割協議書の写しの提出が必要」と明記されています。そのため、相続税の申告期限までに作成しましょう。

(引用:(参考) 相続税の申告の際に提出していただく主な書類

相続税の申告期限は、「被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内」と定められています。申告期限を過ぎてしまった場合は延滞税がかかることもあるため、期限よりも早めに作り終えられるように動きましょう。

(引用:国税庁:No.4205 相続税の申告と納税


遺産分割協議書の書き方・注意点

遺産分割協議書には、決められた書き方はありません。誰が、何を、どのようにして相続するかが明記されていれば、書き方(縦書き・横書き)や手段(パソコン・手書き)なども自由です。

ただし、相続人全員が遺産分割の内容に同意している必要がある点は注意しましょう。また、下記の3つも遺産分割協議書作成上の注意点として挙げることができます。

正確な内容を記載する

不動産であれば登記簿謄本と同じ内容を記載します。預金については金融機関名や支店名、口座番号などを詳しく記載するようにしましょう。間違った情報ではなくとも、特定できる内容でなければ、法務局や金融機関にもう一度遺産分割協議書の作り直しを求められるおそれもあるため注意してください。

署名・押印は直筆・実印で行う

さらに注意点として、相続人の住所、氏名の記載は手書きがよいとされています。

また、遺産分割協議書作成において、相続人全員の合意により内容が定められたことを示すために、相続人全員分の署名が必要となります。遺産分割協議書は、相続人間で合意した遺産分割の内容を示す書面ですので、作成時には相続人本人以外の者による代筆は基本的に避けるべきですし、自らの意思事理弁識能力を喪失し、遺産分割に関する判断ができない相続人がいる場合には成年後見人選任の手続きを行わなければなりません。

そして、上述したように、遺産分割協議書は相続に関する各種手続きで利用することがありますので、自署の隣に「実印」での押印を行い、印鑑証明書を添付することが望ましいです。

作成した遺産分割協議書はそれぞれが保管する

相続人は、相続手続において、遺産分割協議書を使用します。そのため、遺産分割協議書は相続人分を用意し、それぞれ保管するとよいでしょう。人数分用意した文書には、「割印」を押します。

割印とは、2部以上作成された書類に関して、それらの書類が同時に作成されたことを証明するために押印することです。それぞれの書類にまたがるようにして印鑑を押すことで、書類の改ざんを防ぐ役割があります。署名をした相続人全員が、書類の上部などに押印することで割印としての効力を発揮します。割印に使用する印鑑は、認印でも問題はありませんが、遺産分割協議書においては実印で押印することが多いため、割印の際にも実印を使用するようにしましょう。

遺産分割遺書の記載内容

ここでは、遺産分割協議書に記載する項目と、その内容を紹介します。

遺産分割協議書を作成する際は、以下の5点を記載するようにしておくとよいでしょう。

  1. 被相続人の情報
    住民票や戸籍謄本を参考にして、被相続人の「氏名」「生年月日」「死亡年月日」「最後の住所(住民票上の住所)」「本籍」を記載
  2. 相続する財産と相続人
    残された財産、主に「不動産」「預金」「株式」「債務」などについて、誰がどの割合で相続するのかを記載
  3. 新たな財産が見つかった場合の記載
    分割協議のときに発見されていなかった財産について、後日見つかった場合にどうするかをあらかじめ記載
  4. 相続人全員で協議し決定したという記載
    分割協議に相続人全員が参加し、協議書の内容に同意したという旨を記載
  5. 相続人全員の署名と押印
    最後に、相続人全員の署名と実印での押印

ここからは、2.相続する財産と相続人に関して、財産ごとの書き方を紹介します。

不動産

相続する不動産は、「登記簿謄本」や「固定資産税納税通知書」などで確認することができます。遺産分割協議書を作成する前に、必ず取得・確認しておきましょう。遺産分割協議書には、次のような内容を記載します。

相続する不動産が一戸建ての場合は、土地と建物に分けたうえで、「所在」「地番/家屋番号」「地目/種類」「地積/床面積」「構造」(建物の場合)について、それぞれ登記簿謄本の記載事項と全く同じ内容を書き写します。被相続人が土地の権利の一部を所有していた(共有持分があった)場合は、遺産分割協議書にも「持分」として表記してください。

相続する不動産がマンションの場合も、登記簿謄本の記載事項と同じ内容を書き写すことに変わりはありません。ただし、マンション自体の所在や構造に加え、専有部分や敷地権に関する事項についても記載する必要があります。

なお、不動産の相続登記には、遺産分割協議書の提出が必須です。このとき、登記簿謄本と遺産分割協議書の内容にズレがあると、登記できないことがあります。登記簿謄本から情報を書き写す際は、正確に記載し、必要事項の書き漏れがないよう注意しましょう。

預金

預金については、「金融機関名」「支店名」「口座の種別(普通預金、当座預金など)」、「口座番号」、「口座名義人」を正確に記載します。同じ金融機関に複数の口座を持っていることも考えられるので、混同を避けるために「支店名」及び「口座番号」まできっちり記載しましょう。

なお、被相続人の預金額が分からない場合は、口座のある金融機関に「残高証明書」を発行してもらいます。金融機関が同一であれば、口座のある支店でなくとも発行してもらうことが可能です。

株式

被相続人が株式を所有していた場合は、こちらも遺産分割協議書に記載します。記載する内容は、「金融機関名」「支店名」「口座番号」「口座名義人」「銘柄」「数量」です。株式の相続手続では遺産分割協議書の提出が必要なため、取引証明書や残高明細を参考に、銘柄や数量を間違えないように書き写しましょう。

株式の評価額は、預金と違い価額が変動します。そのため、分割に際しても「現物分割」「代償分割」「換価分割」と、さまざまな方法がとられています。よく話し合ったうえで、相続人全員が納得できる方法を選択しましょう。

債務

相続に際し、相続人はマイナスの財産である「債務」も引き継ぐこととなります。債務については、債務を特定する必要があるため、「債務の内容」「債務の残高」「債権者」に併せて、「債務を負担する相続人の氏名」及び「負担する金額や割合」を記載します。


遺産分割協議書が無効となるケース

上記のとおりの内容で遺産分割協議書を作ったとしても、遺産分割協議書が無効になるケースがあることをご存じでしょうか。ここでは、遺産分割協議書が無効となる代表的な例をご紹介します。あらかじめどのような場合に無効となってしまうのかを押さえておき、そうならないように遺産分割協議を進めていきましょう。

遺産分割協議が全員で行われなかった場合

民法では、遺産分割に関し、下記のとおりに定められています。

(遺産の分割の協議又は審判等)

第九百七条 
共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。

  • 2 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。
  • 3 前項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。

(引用元:民法(明治二十九年法律第八十九号)

上記でいう「共同相続人間に協議が調う」というのは、相続人全員で合意することを意味します。そのため、一部の相続人が参加しないまま進められた遺産分割協議は無効となってしまいます。まずは被相続人の出生から死亡までの戸籍調査によって相続人を特定する際に、相続人に抜け漏れがないようにしましょう。

また、以下のような場合には、遺産分割協議が成立した後に新たに相続人が見つかった場合であっても、遺産分割協議は無効にはならず、金額面での調整を行います。

(相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権)

第九百十条 相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。

(引用元:民法(明治二十九年法律第八十九号)

意思能力に欠ける相続人が成年後見人を立てずに協議をした場合

相続人の中に意思能力が欠ける相続人がいる場合、成年後見人を選任した上で、遺産分割協議を行う必要があります。成年後見人については、民法で下記のように定められています。

(後見開始の審判)

第七条 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。

(引用元:民法(明治二十九年法律第八十九号)

つまり、一度家庭裁判所に対して成年後見人選任の申立てなどを行い、その後後見人に遺産分割協議へ参加してもらう必要があります。

仮に、相続において、同じく相続人の地位を有する親族が成年後見人となっていた場合には「利益相反」の観点から成年後見人として被後見人の代わりに遺産分割協議に参加することはできません。この場合、遺産分割協議を行うにあたり、被後見人に代わって後見監督人が参加するか、特別代理人を選任するなどする必要があります。

万が一成年後見人を立てずに行われた遺産分割協議は、全員からの同意を得たとはいえないため、無効となります。同様に、未成年が関わる場合も法定代理人を立てる必要があるため、注意してください。

遺産分割の意思表示に錯誤があった場合

錯誤とは、遺産分割協議において遺産分割の内容を誤認していたことを指します。錯誤については、民法第九十五条に下記の記載があります。

(錯誤)

第九十五条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。

  • 一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
  • 二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤

(引用元:民法(明治二十九年法律第八十九号)

上記のとおり、相続人が遺産分割協議における内容を誤認していた場合は、協議自体が取り消しになるおそれがあります。錯誤による取り消しがないようにするには、相続人それぞれの意思をきちんと確認したうえで、協議内容へ合意を求めることが大切です。

遺産分割協議は複数の相続人がいる場合に、相続内容を話し合って決めるものです。法律において遺産分割協議を行うことを義務づけられているわけではありませんが、協議を行っておくことで、相続に関する揉め事の回避につながります。遺産分割協議書を作成する際は、特に規定はないため、ひな形などに沿って作成をしましょう。

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著者プロフィール

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堀 智弘

弁護士法人堀総合法律事務所 代表 / 弁護士

大阪弁護士会所属。大阪市中央区北浜の堀総合法律事務所の代表。単独で事務所の代表を務め「経営のわかる弁護士」として中小企業経営者に寄り添うとともに、素早く丁寧で法律論に囚われない柔軟な対応により一般の市民の方々からも好評を得ている。業務は中小企業の支援と相続問題が中心。年間相談件数300件以上。セミナー・講演実績も多数。

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