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法人設立のスキーム―合同会社VS株式会社

法人設立のスキーム―合同会社VS株式会社

この記事の著者
  中小企業診断士 弁護士 

1 新たな会社の形態として注目を集める合同会社

これまで、会社を設立することによって起業する場合や法人成りをする場合は、株式会社によるのが一般的でした。ところが、最近は特に小規模な会社設立において、合同会社が選択される例も散見されます。もっとも、合同会社は2006年の会社法制定に伴って導入された比較的新しい企業形態であるため、まだまだ合同会社について、なじみがないという方も少なくないと考えます。

そこで、今回は、合同会社とはどのようなものであるかを紹介し、合同会社と株式会社との比較を通じ、会社設立の際にどちらによるべきかについて解説したいと思います。


2 合同会社とは

会社法は、会社について以下のように整理しています。この整理からも明らかなように、合同会社は持分会社のうちの一つということになります。

持分会社は、社員(出資者のことをいいます)でなければ業務執行を行うことができないとされています(会社法590条)。すなわち、株式会社における株主と取締役を併せたものが持分会社における社員となっているのです(これを「所有と経営の未分離」といいます)。

このことからも明らかなように、持分会社とは、相互に人的信頼関係を有する少人数の者が出資して共同で事業を営むことを想定したものです。そして、合同会社とは、持分会社のうち、すべての社員が有限責任社員であるものをいいます。


3 定款で会社運営のルールを決めることができる範囲が大きい合同会社

会社の組織や会社と株主の法律関係などについて、会社法では詳細に規定しており、定款で会社法の規定と異なる内容を定めることもできます(これを「定款自治」といいます)が、その範囲は必ずしも広いとはいえません。

他方で、合同会社について、会社法は必要最小限の規定をするにとどまり、会社の組織設計、業務に関する意思決定の方法、利益の分配等について、広範な定款自治が認められています。

例えば、会社の機関設計について、株式会社は、取締役や株主総会を必ず置く必要があるうえ、監査役などの機関を設置する必要がある場合についても会社法は詳細に規定しています。他方、合同会社の場合は、社員が業務執行を行うとされている(会社法590条・591条)ほかは、定款で柔軟に決めることができます。

また、業務に関する意思決定の方法に関し、株式会社における株主総会の決議は、基本的には議決権に応じて(すなわち出資比率に応じて)決定することとなります。他方、合同会社の場合は、会社法は社員等の過半数で決めることを規定していますが、定款でこれと異なる定めをすることも可能となっています(会社法590条2項、591条1項)。例えば、出資比率に応じたものとすることもできますし、特定の社員の同意を要することとすることもできます。

会社の収益の分配についても、株式会社の場合は基本的には株式の数に応じたものとなりますが(会社法109条参照)、合同会社の場合は定款で自由に決めることができます(会社法621条2項)。

上記のように合同会社に定款自治が広く認められているのは、合同会社が導入されたのが、ハイリスク・ハイリターン型のベンチャー企業や、ジョイントベンチャーを効率的に行うためには、関係当事者間で自由に決めることができる事業形態が有益であると考えられたことによります。

また、近年では、日本国内の大手外資系企業も、自国の会社法と同じ内容の会社運営に関するルールを定款で定めることが可能であることから、合同会社の形態を採用しているところがあります。


4 合同会社のメリット―会社設立による開業の際に合同会社が有力な選択肢に

開業の際は、最初は小規模から始めて徐々に事業規模を拡大していく、「小さく生んで大きく育てる」という戦略を考えることも少なくありません。小規模な事業者にとって、迅速に柔軟な対応ができることは、大企業に対する差別化の要因となりえます。

この点で、既に述べてきた所有と経営の未分離や広範な定款自治という合同会社の特徴は、このニーズに応えるものといえるでしょう。

また、開業の際に株式会社ではなく合同会社を設立する場合のメリットは、ほかにもあります。

第一に、合同会社のほうが設立の際の費用が低額になります。具体的にいうと、株式会社の場合は設立のためには、定款の認証手数料や登録免許税などで25万円程度(ただし、電子定款にすると4万円の収入印紙代が不要となります)が必要となります。他方で、合同会社の場合は定款の認証手数料が不要で、登録免許税も安価であることから、15万円程度(電子定款の場合に4万円の収入印紙代が不要となるのは株式会社と同様です)となります。

第二に、設立後も、株式会社では毎期必ず決算公告(官報に公告する場合は最低でも約7万5000円程度の費用が発生します)が発生する一方で、合同会社では決算公告の必要がないこと、株式会社は役員の任期が終了するたびに重任登記(登録免許税1万円)が必要となる一方、合同会社は社員の任期がなく重任登記が不要となることなど、合同会社は株式会社に比して費用面でメリットがあるといえます。


5 合同会社のデメリット

ただし、合同会社にはデメリットもあります。

第一に、合同会社は近年導入された形態であるため、まだまだ認知度が高いとはいいがたいため、信用を得にくいという点です。このため、特にB to Bにおいては、合同会社との取引に慎重な姿勢をとられてしまうことや、人材の募集をしてもなかなか応募が集まりにくいということが考えられます。(ただし、認知度が低いことを逆手にとって注目してもらえるとして、あえて合同会社を選んだというケースもあります。)

第二に、会社を設立する形で開業をする場合、上場を一つの目標とする場合もありますが、合同会社は、その性質上不特定多数の者が出資者となることを想定していないため、上場をすることはできません。したがって、上場を見据えるのであれば株式会社を選ぶ必要があります。


6 株式会社と合同会社のどちらがよいか

これまで述べてきたように、合同会社と株式会社にはそれぞれメリット、デメリットがあります。

将来の事業拡大を見据えるのであれば、やはり株式会社を選択することになると考えます。他方、合同会社は認知度が高いとはいえないものの、一人又は少人数で構成される組織で、環境の変化や顧客のリクエストに臨機応変に対応しながら事業を行っていくというのであれば、合同会社を選択することも十分に考えられます。

いずれにしても、株式会社から合同会社に、又は合同会社から株式会社に変更することも可能ですが(会社法743条)、相当の手続や費用を要します。その意味でも設立当初にいずれにするかを慎重に検討するべきであるといえるでしょう。

どちらがよいかについて、悩ましい場合も少なくありませんので、弁護士や中小企業診断士に相談してみるのも一つの方法かもしれません。

本稿が開業の際の参考になれば幸いです。

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著者プロフィール

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武田 宗久

中小企業診断士 弁護士

ライター、コンサルタント

1978年生まれ、大阪府富田林市出身。京都大学法学部・同大学院法学研究科卒

2011年 弁護士登録

2020年 中小企業診断士登録

債権回収や離婚等の一般民事事件を担当する一方、大阪の中小企業や自治体を元気にするため、法務・労務を中心とした支援に取り組む。著書に『改正民法対応!自治体職員のためのすぐに使える契約書式解説集』(令和2年、第一法規、共著)など。

お問い合わせ先

株式会社プロデューサー・ハウス

Web:http://producer-house.co.jp/

Mail:info@producer-house.co.jp

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