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会社設立の前に知っておくべきこと

著者: 中小企業診断士  髙岡 健司

会社設立の前に知っておくべきこと

「資本金1円から会社設立ができる!」

このようなフレーズを聞いたことがあるかもしれません。

以前は資本金規制という決まりがあり、株式会社設立の際は資本金1,000万円を用意する必要がありました。しかし、2000年に資本金規制が廃止され、資本金1円から会社設立することが可能になりました。

ただし、気軽に会社設立した場合に、思わぬ落とし穴が待っているかもしれません。

今回は、会社設立の前に最低限知っておくべき知識について、説明していきます。



(1)資本金の設定額

資本金1円から会社設立ができるようになりましたが、本当に資本金1円で会社設立しても問題無いのでしょうか?

以前は、株式会社であれば資本金1,000万円を用意しなければ、会社を設立することができませんでした。このことから、株式会社を設立することはとてもハードルが高く、「株式会社であれば信用力が高い」と評価されていました。

つまり、資本金は信用力を測るバロメーターとされていました。

ここで知っておきたいことは、資本金1円で会社を設立した場合、金融機関の口座開設や融資審査の際に不利に働くケースがあることです。

金融機関の口座開設や融資申込を行う際には、必ず金融機関の審査があります。

資本金1円で法人設立した場合、「資本金を充分に用意できなかった」「あまり計画性が無く会社を設立した」と判断され、「信用力に乏しい会社」と見なされる可能性が非常に高いです。

以上から、資本金を極端に低い金額に設定することはお勧めしません。

また、業種によっては許認可申請にあたり最低資本金が決められていることもありますので、注意しましょう。

<資本金を決定する際の注意点>

・今後の運転資金は確保されているか?

・資本金を極端に低い金額にしていないか?→金融機関や取引先からの信用低下を招く可能性がある。

・許認可申請にあたり資本金規制は無いか?

・消費税の減免を受ける場合は、資本金1,000万円未満でなければならない。


(2)赤字でも課税される法人住民税

株式会社などの法人は「欠損金の繰越控除」という制度があり、これを利用すれば10年間赤字額を翌年度に繰り越すことができます。

この制度の恩恵を受けると「赤字であれば税金を払わなくても良い」と思われる方もいるかもしれません。

しかし、赤字でもかかる税金が「法人住民税の均等割」です。

法人住民税の均等割は資本金の額や従業員数によっても変わりますが、最低7万円程度の税金が毎年課税されます。

法人設立して間もなく、業績が軌道に乗らない法人にとっては法人住民税が負担になる可能性が高いと言えます。

また、法人設立して数年間は法人住民税の補助を行っている自治体もあります。会社設立前に市役所などに問い合わせてみることをお勧めします。


(3)銀行口座開設について

法人の銀行口座開設で注意しておきたいことは「口座開設には審査がある」「口座開設までに時間がかかる」ということです。

法人口座は、銀行などの金融機関に行けばすぐに口座開設ができるわけではありません。

一時期、営業実態のない法人口座が振り込め詐欺などの特殊詐欺に利用されることが問題になりました。こうした背景から「営業実態がある会社なのか?」「信用力がある会社なのか?」という視点から金融機関による審査が行われるようになりました。

必要書類は金融機関ごとに違いますが、営業実態があることを証明する資料の提出が求められます。必要書類は金融機関ごとに異なるために、事前に口座作成を申し込む金融機関に確認することをお勧めします。

<営業実態を証明する資料の例>

・会社ホームページのURL

・会社案内

・事業計画書

・契約書

・請求書など

法人口座作成には金融機関の審査があることから、口座作成に最低でも2週間程度の時間がかかるケースが多いです。

審査に際しては、架空の会社では無いことを確認するために、事務所の存在を確認するケースがあります。ここで問題となるのは、事務所を構えずに法人設立するバーチャルオフィスの場合です。

最近では、バーチャルオフィスを利用して法人設立をされる方も増えています。バーチャルオフィスの場合、口座作成に不利に働くと言われることもありますが、「バーチャルオフィスを利用する理由」をあらかじめ金融機関の担当者に話しておくことをお勧めします。

つまり、バーチャルオフィスを利用しているが、会社の営業実態があることをしっかりと証明することが重要です。


(4)意外な盲点である経理事務

「開業する」=「自分の思い描いた仕事ができる」ことを一番に考える事業者も多いと思います。しかし、会社設立後には、本業以外にいろいろな業務をしなければなりません。

その代表格は経理業務です。

「自社の商品が売れた」「商品を仕入した」など取引が発生した場合、経理手続きも併せて行わなければなりません。

取引が少ないうちは、社長自身が経理業務を行うことは可能かもしれません。しかし、取引が多くなった場合は、社長自身が経理業務に追われる恐れがあります。これでは、本来の社長の仕事である経営判断ができず、経営に悪影響を及ぼす可能性があります。

会社設立後に経理業務を税理士へ依頼することも検討する必要があります。

税務・会計のプロである税理士に経理業務を任せることで社長の負担は減りますが、当然税理士報酬がかかることを考慮しなければなりません。

税理士に対する報酬に関しては、次の要素を加味して決められることが多いです。

・税理士との契約形態(顧問契約か?決算申告のみを依頼するスポット契約か?)

・売上の規模

・記帳代行の有無

・訪問回数

・税務調査の立ち合いの有無

経営を行う上で、税理士とは長い付き合いになります。

費用面だけでなく、税理士との相性やフォロー体制を含めて検討することをお勧めします。


(5)社会保険の加入義務

社会保険についても、法人設立前に知っておかなければなりません。

法人を設立する際は、社会保険に加入する義務が生じます。

ここでは社会保険について概略を説明します。

①加入対象者

フルタイムで労働する正社員は社会保険の加入対象です。また、代表者も法人より役員報酬を受け取る場合は加入対象となります。

パート・アルバイトは1週間の所定労働時間及び1か月の所定労働日数が正社員の4分の3以上ある場合が加入対象になります。

ただし、正社員の4分の3未満でも下記の要件に全て当てはまる場合は社会保険加入対象になります。

①週の所定労働時間が20時間以上

②勤務期間が1年以上見込まれること

③月額賃金が8.8万円以上

④学生以外

⑤従業員501人以上の企業に勤務していること

参考)日本年金機構HP「適用事業所と被保険者」

②加入時期

社会保険の手続きとして、会社設立から5日以内に会社所在地を管轄する年金事務所に「健康保険・厚生年金保険新規適用届」「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を提出しなければなりません。

新規適用届を提出する際には、90日以内に取得した商業登記簿謄本を添付する必要があります。また、事業所の所在地が登記上の所在地と異なる場合は「賃貸借契約書のコピー」など、事業所所在地を確認できる資料を添付しなければなりません。

参考)日本年金機構HP 健康保険・厚生年金保険新規適用届(記入例)


(6)最後に

会社設立の前に最低限知っておいておくべき知識について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。

創業後には様々な手続きを行わなければならず、スムーズな手続きが必要です。

提出期限がある手続きもあることから、期限を遅延しないように充分に注意するようにしましょう。

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著者プロフィール

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髙岡 健司

中小企業診断士

PROFILE

ライター,コンサルタント

1975年生まれ,栃木県足利市出身。埼玉大学経済学部卒

2020年中小企業診断士登録

地方銀行を24年勤務後、コンサルタント事務所に転職。

得意分野は財務支援、資金繰り支援。

お問い合わせ先

株式会社プロデューサー・ハウス

Web:http://producer-house.co.jp/

Mail:info@producer-house.co.jp

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