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支援を獲得するためのコミュニケーション戦略について考える2

著者: 日本大学商学部 准教授/Human Academy Business School MBAコース教授  黒澤 壮史


支援を獲得するためのコミュニケーション戦略について考える2

1 はじめに

前回は支援を獲得するためのコミュニケーション戦略として、「イシュー・セリング」という考え方を紹介しました。

イシュー・セリングとは案件について権限を持たない現場やミドルが上司に対して案件(イシュー)の売り込み(セリング)をする、というものです。前回は概略的にイシュー・セリングを紹介することを通じて、案件を上司に受け入れてもらうための5つの戦術的要素を紹介させて頂きました。

「ストーリー」、「仲間づくり」、「プロセス」、「タイミング」、「権力基盤」、という5つの要素のうち、今回は最も重要な「ストーリー」に焦点を当ててお話しをさせて頂きます。


2 なぜストーリーが大事なのか?

皆さんも仕事の中で、上司や取引先に何かを提案をする時には提案のストーリーを無意識でも考えていると思います。とりわけこちら側の権力基盤が弱い時には、相手に理解or納得してもらうことが非常に大切になるでしょう。

…などとお話ししたところでそんなことはもちろん当たり前なのですが。本当に問題なのは「結局のところ人間は基本的に自分の視野(認知枠組み)でしか物事を判断することができない」、という点にあります。

もちろん、対話を通じて考え方を改めてもらうという努力も大事ではありますが、しばしばそれは労力と時間がかかることが多くなってしまうため、期限に限りのあるような案件(イシュー)の場合は、そうはいかなかくなることもあるでしょう。そのため基本的な考え方として、「相手が納得しやすいストーリー」を自身の提案する案件に盛り込んでおくことでイシュー・セリングとしての提案が成功しやすくなる、と考えられます。

この点については私もイシュー・セリングの調査研究をする中で感じることですが、同じ部署で働く上司と部下の間で合意が得られ案件があったとしても、上司側と部下側で思惑が異なることが良くあります。コミュニケーションの中で相手が何を考えているかを情報として理解していたとしても、必ずしも部下と同じことを考えている訳ではない、ということです。

ここで、一つのイメージとして事例を挙げたいと思います。

会社の中で現場の人間が増え過ぎた残業時間と過重労働に悩んでいる職場です。部下は従業員の健康とパフォーマンスのために業務効率化のためのソフトウェアやクラウド型サービスの導入を通じて過重労働を削減したいと考えていたとします。一方、上司はこのフトウェア・サービスの導入を残業時間や人数の削減を通じたコスト削減に関心があります。

両者が狙っているところは異なるのですが、「ソフトウェア・サービスを導入する」という点において一致を見るため無事に部下からの提案は受け入れられる…という次第です。

このような場合は、上司と部下の関係が「同床異夢」的な状況にあることを意味しているといえるでしょう。

部下は部下の立場で自分が大切にしている案件を上司に提案し、上司は上司の立場で部下の話を聞く。しばしば部下は自分の考えを上司に理解してもらったと思ってしまうこともある訳ですが、上司の側からすれば部下の提案理由とは別のことを考えながら提案を受け入れていたりすることがあります。結果として上司と部下は異なる思惑で行動している訳ですが、プロジェクト推進などについては合意がちゃんと得られている。

そんな状況を指して、同床異夢的であると私は考えています。

それでは、なぜこのような同床異夢的な状況が生まれてくるのでしょうか?

それは、組織の中には(組織外なら当然)利害関係が存在するからです。同じ組織に所属していても立場が違えば利害関係が微妙に異なることは局面ごとに起き得ることでしょう。そのため、利害関係が微妙に異なる人同士のコミュニケーションにおいて、それらを結ぶストーリーが必要になってくるのです。


3 イシューのストーリーに求められるもの

ここまでの話を踏まえて、イシュー・セリングにおいてどのようにイシューのストーリーを構成していくべきか考えてみましょう。大原則は、「利害関係をつなぐ」ストーリーでなければならない、ということです。

そのためにはイシュー・セリングの対象者に関する情報収集は欠かすことができません。相手が考えていることを知っていればそれだけ有利になりますし、知らなければそれだけ不利になるということでしょう。イシューを売り込む相手に対する情報収集や関係構築のためには、イシュー・セリングの戦術的要素でも挙げた「仲間づくり」が大事になってきます。組織内外の協力者の数と性質は提案力に対して貢献してくれるでしょう。

利害関係をつなぐストーリー、という点についてはもう少し掘り下げて考えてみましょう。

大きく分けて、「利害関係を分析することでつながるストーリー」と、「個々の利害関係を超えた大きなストーリー」に大別することができるでしょう。前者は利害に関する情報収集と分析によってもたらされ、後者は組織のミッションや文化に対する理解によってもたらされるものといえるでしょう。

利害関係を分析する、という点については結局のところ、各々の立場に紐づくメリットは何かを探ることになります。「人はメリットがあることに反応する」、という考え方のもと、提案(イシュー・セリング)のストーリーを構成していく必要があります。

後者の利害関係を超えた大きなストーリーの例は、ストーリー・テリングの第一人者であるステファン・デニングが世界銀行のIT部門に勤務時代に行ったストーリー・テリングの事例が参考になるかもしれません[1]

デニングは、世界銀行勤務時代、IT部門に配属された際にアフリカのザンビアでは世界銀行が何の役割も果たせないことを問題提起します。そして、最貧国と呼ばれるような地域でこそ世界銀行は活動すべきであり、そのためには現地でも先進国と同様に業務を遂行できるだけのデータベースなどへの投資が必要であることを訴えます。

ここでデニングが行なったのは、自分たちの存在意義やミッションというものと関連付けることで自分たちが重要だと考えるイシュー(ここでは世銀のIT投資)を推進することでした。

私が働いている大学のような学校法人では、「学生のため」という言葉が非常に強いパワーを持ちますし、企業ごとに「顧客のため」、「社会のため」、「従業員の幸福のため」、など、組織の存在意義やミッションに関連付けられたパワーを持つ大きなストーリーがあるかもしれません。どの組織でも必ず存在する訳とは限りませんし、自分の考えているイシューがそうした性質を持っている保証もありませんが、視点として持っておくべきといえるでしょう。


4 おわりに

ここまで読んで頂いた方の中には、「そんなこと当たり前じゃないか」と思われる方もいるかと思います。そう思われた方に更に考えてみて頂きたいのは、「自分はどの程度徹底してこれらの要素への対応を実行しているのか?」という点です。

実際に、今回取り上げた要素を高いレベルで実現していくことは決して簡単ではありません。意外なことはあまり無かったかもしれませんが、改めて必要なことを整理して理解することで、より徹底した実践へと結びつけて頂けたら幸いです。


1 ステファン・デニング著『ストーリー・テリングのリーダーシップ』 白桃書房, 2012年.

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著者プロフィール

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黒澤 壮史

日本大学商学部 准教授/Human Academy Business School MBAコース教授

黒澤 壮史(くろさわ まさし)

早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得後、早稲田大学商学学術院(助手)、
山梨学院大学(専任講師・准教授)、神戸学院大学(准教授)を経て現在に至る。
研究の専門は組織変革、戦略形成など。
著作としては「労働生産性から考える働き方改革の方向性-現場の意味世界の重要性-」(分担執筆、山田真茂留編:グローバル現代社会論)、
「ストーリーテリングのリーダーシップ(デニング著;分担翻訳)」、「想定外のマネジメント 高信頼性組織とはなにか(ワイク&サトクリフ著;分担翻訳)」など。

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