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答えが見つからない経営課題への向き合い方1 〜解決志向のアプローチ〜

答えが見つからない経営課題への向き合い方1 〜解決志向のアプローチ〜

この記事の著者
  日本大学商学部 准教授/Human Academy Business School MBAコース教授 

1 はじめに

新型コロナや激動の国際政治に象徴されているように、世の中の変化というのはしばしば見通すことが難しいものです。当然、皆様の身の回りでも規模や複雑さも様々な経営課題が山積しているかもしれません。

今回は、問題解決の手法に関する比較的新しい経営学の考え方をご紹介したいと思います。


2 経営課題の性質を理解する〜技術的問題と適応課題〜

経営課題に対する解決方法を考える場合には、まずその経営課題がどのような性質を持っているのか理解しておくことが大切です。

その際に有用な考え方が、ハイフェッツ他が提示した「技術的問題」と「適応課題」に経営課題を分ける考え方です1

技術的問題とは、既存の専門知識などに基づいて解決可能な問題を指しています。

これは、ある程度解決策がわかっているけれども解決策の実行がまだできないような経営課題のタイプです。例えば、プロジェクトが遅延している問題の原因が、チームで補充可能な人材が一時的に不足している場合やチームメンバーの経験・知識不足であったりする場合は、技術的問題の可能性が高くなります。

こうした問題については、人員補充の手法や外部の専門家を雇うなどといった対策が明確だからです。もちろん、解決策がわかっているからといっても実行に移すことが難しい場合も多いため、簡単な問題だという訳ではありません。人員の補充をするにしても予算や人事制度の問題などは必ずつきまといますし、解決策がわかっていたところで解決策を実行に移すための課題というのがヒモ付いてきてしまい、問題が解決しづらくなることはあるでしょう。ただし技術的問題の場合、解決策自体は既存の知識で示すせることが一般的です。

一方、適応課題は既存のやり方では解決することができない、複雑な状況に基づいて生じる課題です。その意味では、専門家であっても解決策が準備されていないような経営課題であることが通常です。

また、既存のやり方が通用しないため、適応課題は人々の信念や習慣に変更を求めるような痛みを伴うことがしばしば起きることになります。例えば昨今のサービス業領域での人手不足などは良い例かもしれません。かつては店舗のアルバイトが不足した際には技術的問題であることが多く、広告などで対応が可能でした。しかし年々若者の人口は減り人材市場全体で人手不足になってくると人件費も上がることになり、サービス価格の引き上げや、それに伴って様々な要素を変更する必要が生じるなど、場合によっては低賃金労働者を前提としていたビジネスモデル自体が立ち行かなくなる場合もあるでしょう。その場合、「現場で人手が足りない」という問題は技術的問題ではなく適応課題となります。

埼玉大学の宇田川先生は、現代のビジネス社会において適応課題に向き合うための組織変革が非常に重要であることを指摘しています2。本当に多くの企業を悩ませている経営課題は、外部の専門家が持つ既存の知識によって解決策が用意されるものではなく、当事者によってこそ解決策を導くことができる、ということです。

経営課題を技術的問題として捉えるべきなのか適応課題として捉えるべきなのか、という視点は当初は分かりにくいものです。例えばここまで述べてきたような店舗で人手が足りない、という経営課題があった場合にも、広告や人材エージェントのサービスを利用して解決する問題なのかは、実際に対応して結果を見てから出なければ既存のやり方が通用するのかしないのか判断できないものです。そのため、まずは技術的問題として対応する、というのが基本となるでしょう。

しかし、既存の手法で成果が挙がらなかった場合は、技術的問題への対応能力か、そもそもその経営課題が適応課題であるため既存のやり方が通用しない、という2つの可能性が考えられます。技術的問題への対応能力が問題なのであれば、その対応能力を強化することが求められますし、適応課題であった場合は異なる問題解決アプローチを採用する必要があるでしょう。


3 適応課題へ向けた問題解決アプローチ

ここまでお話ししてきた技術的問題と適応課題という経営課題の性質の違いは、問題解決アプローチにもしばしば影響を与えると考えられています。

問題解決アプローチには、大きく分けて2つの考え方があります。1つは問題志向と呼ばれるアプローチで、もう1つは解決志向アプローチと呼ばれるものです。

問題志向アプローチとは、問題と向き合い、その原因を特定して取り除くことで問題を解決しようとする、一般的なアプローチです。それに対して、解決志向アプローチとは、問題と向き合うよりむしろ、解決されている状況、解決策に焦点を当てるアプローチを指します。

問題志向のアプローチでは、問題に焦点を当てて問題の原因を分析することを重視します。そして原因が特定できたら、その原因を緩和したり取り除くということを想定しています。これは、問題解決アプローチとしては一般的な手法と言えるのではないでしょうか。

例えば、売上が落ちてきた際には、「なぜ売上が落ちているのか?」といった問いを立てて原因を特定しようとすることはごく自然なことです。そして、その原因を解消するために様々な意思決定をしていく、ということになるでしょう。なぜこうした手法が問題志向と呼ばれるかというと、問題の原因を分析することでより問題自体を深く知ることを目指しているからです。

それに対して解決志向アプローチでは、問題に対する理解を深めるよりも、問題が解決されている状況に焦点を当て、その状況を再現・増殖させていくことを狙いとしています。

例えば売上が落ちている状況において、解決志向アプローチでは売上が落ちていない店舗や時間帯など、問題が解決されている状況を探すところから始めていきます。そして、売上が落ちていない店舗がなぜ問題が生じていないのか、などを分析していく訳です。そこでの分析は、最終的にうまくいっている解決策をいかに拡げるか、という点に集中するため、外部の人材よりも内部人材の方が望ましいと考えられています。

問題志向と解決志向でどちらが優れている、とは一概には言えませんが、先ほどの経営課題の性質である、技術的問題と適応課題の関係に基づいて考えると読み解きやすくなるかもしれません。技術的問題については問題志向と解決志向のどちらも対応できますが、適応課題は解決志向アプローチの方が向いていると考えられています。それというのも、解決志向アプローチは原則として組織の外に解決策を見出すのではなく、組織の中に例外的に存在する解決策を探そうと考えるからです。

次回は、この解決志向アプローチの具体的な手法についてご説明させて頂きます。

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1 ハイフェッツ・リンスキー・グラショウ『最難関のリーダーシップ-変革をやり遂げる意志とスキル』英治出版
2 宇田川元一『他者と働く-「わかりあえなさ」から始める組織論』News Picksパブリッシング

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著者プロフィール

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黒澤 壮史

日本大学商学部 准教授/Human Academy Business School MBAコース教授

黒澤 壮史(くろさわ まさし)

早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得後、早稲田大学商学学術院(助手)、
山梨学院大学(専任講師・准教授)、神戸学院大学(准教授)を経て現在に至る。
研究の専門は組織変革、戦略形成など。
著作としては「労働生産性から考える働き方改革の方向性-現場の意味世界の重要性-」(分担執筆、山田真茂留編:グローバル現代社会論)、
「ストーリーテリングのリーダーシップ(デニング著;分担翻訳)」、「想定外のマネジメント 高信頼性組織とはなにか(ワイク&サトクリフ著;分担翻訳)」など。

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