VUCAとは|時代を生き抜く企業のマネジメントと求められるスキル
災害やIT技術の著しい発展により、予測が難しい現代の状況を表すVUCA(ブーカ)という言葉があります。VUCAの定義、象徴する事例、企業における対策などを解説します。
この記事を読めば、VUCAの全体像を把握でき、企業がこの時代を生き抜くための、マネジメントと求められるスキルについての知識を得ることができるでしょう。
VUCA(ブーカ)とは?4要素の意味をチェック
VUCAとは、以下の4つの言葉の頭文字を取った造語です。ビジネスや市場がさまざまな要因で急激に変化して、将来の予測がしにくい状況のことを指しています。
- Volatility(変動性)
- Uncertainty(不確実性)
- Complexity(複雑性)
- Ambiguity(曖昧性)
VUCAとはもともと、1990年代に米軍で使われ始めた軍事用語です。それまでは参謀本部が立てた明確な軍事的戦略がありましたが、アメリカとロシアの冷戦が終結したことで、兵器が絡むとも限らない、より複雑で不透明な戦略へ変化しました。
また、2016年にスイスで開催された「世界経済フォーラム(ダボス会議)」で「VUCAワールド」という言葉が使われたことがきっかけで、VUCAは変化の激しい国際経済を表す言葉である、との認識が世界中に広まりました。
Volatility(変動性)
Volatilityは日本語に翻訳すると変動性という意味です。
近年、ITやAIなどの新しい技術によって、次々と革新的なサービスが生まれており、それに伴って消費者の価値観や顧客ニーズが変化しています。
新しいサービスが出てきたと思ったら、数年後には全く別のサービスに置き換わっていた、ということはよくあります。それだけビジネスや市場の変動が激しく、将来を予測しにくい状態であることを表しています。
Uncertainty(不確実性)
Uncertaintyは不確実性という意味で、不確実な事柄が多いために、人間を取り巻く環境が今後どのように変化するのか、明確にならない状態のことです。
例えば地球温暖化による気候変動や、新型コロナウイルスなどの感染症の流行など、突然発生する解決の難しい問題があります。特に新型コロナウイルスは、発生から数年を経てもいまだに感染拡大が終息しておらず、非常に不明確な状況が続いています。
また、日本においてはこれまでの年功序列や終身雇用などの雇用制度が崩壊し、成果主義に取って代わられつつあることなども不確実性の一例と言えるでしょう。例え長く会社に在籍していても、成果を上げ続けなければリストラされることもあり得る、不確実な状態です。
Complexity(複雑性)
Complexityは複雑性のことを指します。
さまざまな要素が複雑に絡み合っており、解決策をみつけるのが難しい状態を表した言葉です。
経済のグローバル化に伴い、ビジネスは複雑化してきています。
ある国で成功したビジネスを別の国で同じように展開しても、国の文化や法律の違いから、うまくいかないことがあります。特に、グローバルなビジネスを展開している企業では、各国の商習慣や顧客ニーズを把握し、それぞれの国にマッチした方法に少しずつ変えていかなければなりません。
複雑な要素が絡み合っていることを踏まえて、ビジネスに応用していく必要があります。
Ambiguity(曖昧性)
Ambiguityは曖昧性のことです。
Volatility、Uncertainty、Complexityが組み合わさることで、問題解決の絶対的な方法が見つからない曖昧な状態になることを表しています。
例えばマーケティングでは、以前まで広告を打つ企業側が消費者に対して一方的に宣伝していれば商品が売れていましたが、現代では消費者の発信方法が多様化しており、従来の方法のみでは通用しなくなってきています。
これさえやっておけば大丈夫、という絶対的な正解がないため、新しい方法を探さなければいけません。
そのため、時代に乗り遅れないように、情報をキャッチするためのアンテナを常に張っておく必要があります。
VUCAを象徴する出来事・事例
ここ数年で、世界中でVUCAを象徴するさまざまな出来事が起こっています。具体的な事例をご紹介します。
シャープの買収
かつて日本を代表する家電メーカーであったシャープが、2016年に台湾の鴻海精密工業に買収されたことは記憶に新しいでしょう。
シャープは2000年代までは順調に業績を伸ばしていましたが、2008年のリーマンショックをきっかけとして、2011年には巨額の赤字に陥ってしまいました。
当時シャープが力を入れていたソーラー事業や液晶テレビ事業が、不況に弱いビジネスモデルだったこともあり、赤字から数年で一気に経営不振に転落します。
しかし、日本を代表する大手企業のシャープが買収されることは、多くの日本人が予想していなかったでしょう。それほど社会に衝撃を与えた出来事でした。
IT技術の発達
インターネットの登場と世の中への浸透によって、私たちの生活は大きく変化しました。
1990年代に携帯電話が登場し、2007年にはiPhone、その翌年にAndroid搭載のスマートフォンが発売されました。そこからたった15年で、スマートフォンは私たちの生活に欠かせないツールとなっています。
また、FacebookやInstagram、TwitterなどのSNSの発展によって、誰もが不特定多数の人に向けて情報発信できる時代になりました。YouTubeなどの動画配信サービスや音声ライブ配信サービスも登場したことで、個人の発信力が高まっています。
企業のマーケティング手法も変化しています。それまで広告の掲載先として主力だったテレビや新聞、雑誌はインターネット広告や動画広告に置き換わってきています。
このように、IT技術を使った新しいビジネスモデルの登場によって、既存のビジネスを衰退させてしまう場合もあるのがVUCAの時代です。
コロナ禍における株価の上昇
ここ数年は、コロナ禍で経済が冷え込んでおり、飲食店などを中心に企業の業績が悪化しています。
ところが、このような実体経済に反して、過去に類を見ないほど日経平均は上昇しています。
現在は政府の金融緩和政策によって株価が上昇している状況ですが、新型コロナウイルスの終息も見えないなか、株価がいつ急落するのか、また今後も上昇を続けるのかは誰にも分かりません。
このような経済の不確実性も、VUCAを象徴する出来事のひとつといえるでしょう。
VUCA時代に適応するフレームワーク”OODAループ”
このような先の見えないVUCAの時代に適応するフレームワークとして、「OODAループ」というものが存在します。OODAループは、以下の4つの言葉の頭文字を取っています。
- Observe(観察)
- Orient(状況判断)
- Decide(意思決定)
- Act(行動)
Observeは、消費者や市場の動きを観察して、データを集めることです。
Orientは、観察して集めたデータをもとに現状を把握し、理解すること、Decideは状況に応じた具体的な方針や、アクションプランを決めることで、Actは、決めたプランをもとに実行することを意味します。
OODAループとよく比較されるフレームワークに「PDCA」があります。OODAはよく知らないけれど、PDCAは聞いたことがあるという人が多いのではないでしょうか。
PDCAは、Plan(計画)を立てるところからスタートします。
その後、Do(実行)→Check(評価)→Action(改善)と回していくフレームワークです。
既存のサービスの継続的な改善にはPDCAが役立つ場合もありますが、現在では少し時代遅れとも言われています。
VUCAの時代では、最初に計画を立ててもその通りにいかないことが多いため、観察するところからスタートするOODAループの方が、フレームワークとして現代に適しているといわれています。
VUCA時代に個々に求められるスキル
VUCAの時代においては、企業のみならず個人にも変化に対応するためのスキルが必要になってきます。企業の従業員が個々に求められるスキルにはどのようなものがあるのか、わかりやすく解説します。
決断力
先の読めないVUCAの時代は、目まぐるしい変化が起こります。新しいビジネスの登場によって、既存のビジネスが衰退していく可能性のある時代です。
特に会社経営においては、迅速な判断と決断力がなければ、生き残ることは難しいでしょう。
個々の従業員においても、現場で迅速に意思決定を行う決断力が必要になります。素早く決断を下すためには、情報が必要不可欠です。各自が常に最新情報をキャッチアップしておくことが重要です。
臨機応変な対応力
不確実性の高いVUCA時代においては、臨機応変に対応する力も必要です。
地震や台風などの自然災害が多い日本では、計画を立てても途中でやむを得ず変更しなければいけない状況が出てきます。
また、ITの普及や消費者が多様化していることで時代の流れが速くなっているため、価値があると思われていたものでも、代替品の登場によって急速に価値が低くなるというケースもあります。
過去の実績や事例にとらわれず、柔軟な姿勢を持ってその場その場で適切な対応をすることが求められます。
コミュニケーションスキル
VUCAの時代では、多様な人材を採用することによって新たなアイディアが生まれ、革新的なサービスにつながることがあります。
ですが、せっかく多様な人材を採用しても、従業員の仲が悪いと会話が減って、新しいアイディアが生まれにくくなってしまうでしょう。
サービスをより良くしていくためにも、従業員同士が多様性を受け入れる必要があり、そのためのコミュニケーションスキルを磨くことも求められます。
問題解決力
VUCAの時代では、過去に起こった出来事や成功事例が参考にならない場合があります。
また、前例がなく、次々と新しい課題が生まれてくる状況においては、自分で問題を解決するための能力も求められます。
論理的思考を鍛えることももちろんですが、なぜそうなるのか、本当に正しいのか、というように物事を本質的に捉える能力、「クリティカルシンキング」も必要です。
自分の頭で考えて、解決策を導き出すスキルを身につけることで、前例のない課題にも立ち向かっていけるようになります。
VUCA時代に組織に求められるマネジメント・リーダーシップ
このような厳しいVUCAの時代に、組織はどうあるべきなのでしょうか。組織に必要とされるマネジメントやリーダーシップについて解説します。
明確なビジョンの設定
不確実で曖昧なVUCAの時代では、まずビジョンを明確に設定して従業員に共有することが必要です。
企業理念、ミッション・ビジョン・バリューはこれまでも企業にとって重要なものとされてきましたが、先の見えないVUCA時代においては、より一層明確なビジョンを示すことが重要です。
それによって、各従業員がどうあるべきか考え、自分たちの進むべき方向を見失わないようになるでしょう。
情報を常にインプットする姿勢
新しい情報をインプットする姿勢も、VUCA時代には重要です。
過去の事例が当てはまらないケースもあるため、過去の成功事例やそれまでのノウハウだけでなく、ニュースを日頃から読みアンテナを張っておく姿勢、新しいテクノロジーや情報を取り入れ続けていく姿勢が必要になります。
メンバーのモチベーションを高める
これまでは上司が部下に指示をする形で成り立っていた会社組織も、VUCAの時代では変わりつつあります。
上司から部下、経営陣から従業員への一方通行ではなく、対話をする必要があります。各従業員の意志や意見を尊重して、良い部分は取り入れることで、メンバーのモチベーションを高めていくことが重要です。
そのためには、1on1ミーティングを開催し、定期的に一人ひとりと話をする機会を設けると良いでしょう。
決断力・行動力の発揮
顧客ニーズや流行がすぐに移り変わっていくVUCAの時代では、個人としての決断力や行動力はもちろん、組織としてもスピード感を持った意思決定が必要となります。
難しい決断を迫られることも多い時代ですので、マネジャーは全てを一人でやろうとせず、時には周囲の力を借りることも考えると良いでしょう。
また、マネジャーに全て確認して判断するというフローでは判断が遅れる場合があります。従業員の権限についても、多くのメンバーがリーダーシップを持てるような状況を作ることも必要です。
VUCAの時代に必要な人材教育の考え方
VUCA時代において、組織にはどのような人材教育が必要なのでしょうか。人材教育を進めていくにあたっての考え方を説明します。
自発的な考え・行動を促す研修の設定
これまでの社員研修といえば、座学のOff-JTや先輩について指導してもらうOJTが主流でした。
しかし、VUCAの時代で活躍する人材を育成するためには、今までの研修に加えて、体験型の研修を行うと良いでしょう。ビジネスゲームを使ったり、ケーススタディを用いたりして、どうすれば問題解決できるか各自が意見を出し合うワークショップを行なって、従業員の自発的な考え・行動を促すことが重要です。
現場のリーダーを育成する
不況によって守りの期間が長かった日本企業では、人材育成よりも、業績向上のための動きが優先されてきました。将来的な発展のための、リーダーの育成まで手が回っていない状況では、VUCAの時代で勝ち残ることはできません。
スピード感と柔軟性が求められるVUCAの時代では、経営層は現場の声をいち早くキャッチすることが重要です。
そのため、現場のリーダーは、各従業員と常にコミュニケーションをとりながら、適切に経営層に現場の声を伝えられるように、教育研修を通して意識を変えていくことが求められます。