中小企業経営者必見! 働き方改革関連法罰則規定とは?
そもそも「働き方改革関連法」とは?
「働き方改革関連法」(2019年4月1日施行)は、働き方改革の中心となる法律全体を示します。正式名称は「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」で、計8項目の労働法の改正を行うための法律です。
最大の特徴は、「時間外労働の上限規制」、「年次有給休暇の取得義務」に違反した場合の罰則(刑事罰等)が盛り込まれた点です。中小企業には猶予期間が設定され、例えば中小企業の場合、「時間外労働の上限規制」は2020年4月1日からでした(時間外労働の割増賃金については2023年4月1日から)。
今回は、「働き方改革関連法」の罰則規定のうち、主に「時間外労働の上限規制」、ほか4点について解説します。日本企業の大部分を占める中小企業の経営者が、知っておくべき内容です。ぜひ最後までお読みください。
「働き方改革関連法」の罰則規定とは?
長時間労働や非正規雇用の増加などは、以前から問題になっています。改善には、中小企業の取り組みが大きな意味をもちます。会社の規模によることなく、違反に課せられる刑事罰(罰金・懲役刑)を真摯に受け止めるべきでしょう。
罰則規定は、「時間外労働の上限規定」「月60時間を超える残業の割増率」「フレックスタイム制の清算期間届出義務」「年次有給休暇の取得義務」「医師の面接指導」です。既に準備・実行している企業も多いでしょう。ここでもう一度確認してみてください。
その1:時間外労働の上限規制
時間外労働(残業)の上限は、原則として月45時間・年360時間です。臨時的な特別の事情がなければ、これを超えることはできません。また、事情があって労使が合意する場合でも、上限時間が次のように定められています。
1年のうち6か月を超えない範囲かつ
- 年間残業時間が月平均60時間(年720時間)
- 複数月平均80時間を超えない(休日労働を含む)
- 1か月の残業時間は100時間未満(休日労働を含む)
※月80時間は、1日当たり4時間程度の残業に相当。
※原則月45時間を超えるのは、年間6か月まで。
※参考:厚生労働省HP
改正前は、上限時間が示されておらず、「行政指導」だけでした。改正によって罰則も加わります。労働基準法違反として「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」という刑事罰が科せられるようになりました。
その2:月60時間を超える残業の割増率
「1日8時間、1週40時間」を超える残業に対しては、1.25倍割増率で支払われます。それに加え、「月60時間」を超える残業には1.5倍の割増率とされました。中小企業は、2023年4月1日まで猶予されています。
猶予終了後は、「1.5倍」の割増率による残業代を支払わない場合には、「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科せられます。中小企業側も先を見通し、きちんと準備しておくとよいでしょう。
その3:フレックスタイム制の清算期間届出義務
フレックスタイム制とは、一定の期間、始業終業時刻を定めず、残業時間については清算時間を通じて計算する制度です。法律の改正により清算期間上限が1か月から3か月に延びました。
加えて、一か月以上の清算期間を設定する際、労使協定を締結後の届出が義務化されました。これに違反した場合、「30万円以下の罰金」が科せられます。
その4:年次有給休暇の取得義務
長時間労働は緊急の課題です。法改正で、年間10日以上の有給休暇を与えられた労働者に、最低5日の取得義務化が求められました。企業側が取得させなかった場合は、「30万円以下の罰金」が科せられます。
その5:医師の面接指導
最後は、働き過ぎによるうつ病やメンタルヘルス等の発症対策として、医師による面接の実施を課すものです。特に「新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務につく労働者」「特定高度専門業務・成果型労働制の対象労働者」の求めによらず、企業側に義務付けられました。
もちろん、会社側が労働実態をきちんと把握しておく必要があります。こうした面接指導の義務を怠った場合は、「6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金」を科せられます。
罰則のない規定について
実は「働き方改革関連法」には、罰則のない法律があり、その内容を確認した方がいいでしょう。そこで以下では罰則のない法律である高度プロフェッショナル制度と同一労働同一賃金に関する規定について解説します。
高度プロフェッショナル制度
高度プロフェッショナル制度とは、特定の条件を満たした労働者に、労働時間ではなく成果に対して賃金を払う制度です。年収1,075万円以上の収入者が対象で、時間によらないという点で、規制の適用外となります。
罰則がなくても、悪用があった場合は、同制度を利用できなくなるでしょう。それは企業側にとってもデメリットです。医師の面接指導と同様、あくまでも労働者目線で労働実態を把握する姿勢が望まれます。
同一労働同一賃金
同一労働同一賃金は、雇用形態による格差を是正するための「考え方」です。そのため、違反する企業に罰則は設けられていません。しかし、非正規雇用者に対する対応が、正規雇用者と明らかに異なる場合、定職率や採用にも悪影響を及ぼします。
また、法律によって定められた「考え方」に違反し続けると、民事訴訟になる可能性があります。実際、労働者が同一労働同一賃金の違反を訴えて損害賠償を求め、企業側が敗訴するケースも増加しているようです。そのリスクの大きさを知っておくべきでしょう。
中小企業も真摯な働き方改革を
今回は「働き方改革関連法」の罰則規定について解説しました。猶予が認められる中小企業もいずれは全規定履行を求められます。法律制定の背景や趣旨を理解し、規定を確実に守る必要があります。
確かに中小企業は、人手や資金などの面で大企業より不利であることは否めません。しかし、中小企業だからこそ、新しい発想で取り組める課題といえます。経営者として労使の信頼関係を大切に、日々改善に努めるのなら、いずれ企業の成長にもつながるでしょう。